第一章捌記「赤面」
目を覚ますとそこは小屋だった。
黴臭い。
幽暗な其処は、色彩というものが無く緑一色。
そんな部屋の中に不恰好な木の寝台が一つ。
その上に擦り切れた外套が敷物代わりに敷いてあるだけだった。
「ん、起きてたのか」
小屋の扉らしき部位を開け、淡い光を纏いながら侵入してきたのは一人の男。
その体躯は筋肉質でよく鍛え上げられているものだった。
肌の色は褐色に近く小麦色の肌と形容できる。
そしてなにより特筆する所は、
全裸だった。
「――――――――――――――――――――ッ!!」
キシリアの声にならない悲鳴が森に響く。
歩くたびに揺れる《それ》にどうしても目が行くのだ。
羞恥を感じていないのだろうがあまりにも無防備すぎて恥ずかしくなってくる。
「何だ? どうしたんだそんな顔して?」
キシリアは熟した林檎の様に顔を赤らめ、柄に似合わず女々しくもじもじとしていた。
第六大隊の団員が見れば絶句するか、一部のものは発狂しただろう。
「ぬ、う、あぅ、その、何か、何かで《それ》を隠して下さい!!」
鳴り響く金切り声は男に容赦無い傷を負わせれるほどに大きいものだった。
大分堪えたらしく耳を両手で押さえながら覚束無い(おぼつかない)足取りでキシリアに近づく。
「何で?」
普段、団員達の肉体を見慣れているものだから男性に対する羞恥心というものが多少薄れてはいたのだが、流石のキシリアも《それ》には耐性は無かったようで、恥ずかしげも無く徐々に近づいてくる《それ》に赤面しながらも目が釘付けとなっている。
「う、うぇ?! 何でって言われても……その」
明確な返答ができず自暴自棄に陥りそうになるキシリア。
言いたくとも言葉に出来ない事はあるもので、今がそれであると彼女は回る頭で理解した。
「だから、何でわざわざ身動きをとり難くする格好をしなけりゃなんないのって?」
「そ、それは、私が困るというか、何というか……」
「だから、何で?」
天然ほど怖いものは無い。
「困ると言ったら困るのです! 女の前なのだから少しは恥を知りなさい!!」
「……仕方が無いな」
男はそう言うと小屋を出て行き暫くすると《それ》の位置する部分に大きな若葉を付け帰ってきた。
「これで文句は無い?」
「……はい」
未だ納得のいかなかったキシリアだが、これ以上言っても全く譲歩しそうな気配が無いので不承不承、本題に入ることにした。
「その、目が覚めたばかりで状況が掴めないのですが質問を二、三させてもらってもよろしいですか?」
「ん? 嗚呼、問題ない」
「ではその、此処は一体何処ですか? というか何でこんな所に?」
理解できないと言った風で、心底不思議そうな顔を晒している。
「川で流れてたんだ。珍しい物かと思って引き上げたんだけど……まあ違ったらしい」
残念だったよと言わんばかりに首を振り落胆する様子を見せる男。
「珍しいって……」
この男は何か変だとキシリアは感じていた。
人の目の前に全裸で現れている時点でそれはもう分かっているのだが、人の事を馬鹿にしているというか同じものとして見ていないように思えるのだ。それはまるで動物や生い茂る木々を見つめるような眼差しだったり、同一の存在として見ているのではなくどちらかと言えば見下しているかのよう。
「それと、此処は自分で造った家だ。まあ自分で造ったと言ってもフェルニゲシュに手伝ってもらったんだけど。何でも自分でしなければいけないの、大変だね。ま、もう慣れたけど」
「手伝ってもらったって事は他にも?」
「そ、気が荒いっていうか人間嫌いだけど」
男はそう言いながら首を上下左右に振っている。
首を振れば振るほど頭部から得体の知れないものが飛び出す。
だれもが不潔だ、と嫌悪感が沸くだろう。
「あの、助けてもらってこう言うのはなんですが……臭いです」
先は気が動転していて気付くことが出来なかったが、この男、身体のあちこちに汚れが見られ腐臭が漂っている。さらに頭を振るものだから臭いも再び鼻孔に吸い込まれていく。
意識しはじめるともうどうしようもなかった。
「いつも大隊では気になりませんが我慢出来ません!! 即刻、洗浄!!」
木の寝台から勢い良く起き上がり、怪我人とは思えない速さで男の手をとり半ば強引に外へと連れ出した。
河への道が分からず森の中を迷う羽目になったのは内緒。
キシリアは極度の緊張や不測の事態が起きた場合は素の女言葉に戻ります。普段軍内部で使用している言葉は意識下の元で捻り出されているのです。
まあそんな事は置いといて、何と! 初めての感想を頂きました!!
純粋に嬉しいです。
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今後ともよろしくお願いします。
更新遅れた……




