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銀の首輪の小英雄  作者:
邂逅編
6/17

第一章伍記「御伽噺」 下

 月が満ちれば妃のお腹も大きくなった。



 隣国との戦争も条約の締結により休戦状態となった。



 帰還した王様は妃の妊娠を聞いてこれまた狂喜乱舞したそうだ。



 何も心配することの無い幸せな時。



 だが、やはり、幸せは崩れ去る。



 お腹の子が産まれいずる時あの老婆が再び妃の前に姿を現したのだ。



 老婆は言う。



 災厄が訪れる、この運命からは逃れられないだろうと。



 その言葉を聞き顔を青ざめる妃。



 周囲の者は老婆の無礼な物言いに癇癪を起こしこの場から離れるよう妃に促した。



 護衛に引き連られながら背後を振り返ると老婆は何処にもいなかった。









 日付けが変わり遂に赤子の鳴き声が響き渡る。



 それは咆哮。それは怒号。それは絶叫。



 そう、赤子はなんと一匹の竜だったのだ。









 王と妃は嘆き悲しんだ。



 恩恵を受けたというのにこの有様。



 崩れ落ちる王に竜王子は言った。



 貴方が私の父なのですね、と。



 王は否定する。



 人間ですらないお前は私の愛子などではない、と。



 再び宮内に響き渡る大音声の声音。



 貴方が私の父と認めないなら、城も宮も貴方もこの国もその全てを叩き潰す、と。



 王は決意を迫られる。



 王は苦慮する。



 王は決断する。









 竜王子の成長は異常だった。



 三月も経たぬうちにその体躯は伝説に語られる竜の身の丈に匹敵するほどの巨躯へと成長した。



 爪牙は鋭利に伸び、顎には不規則に動く髭の様なものが。



 紫水晶の煌めきを残す鱗を身に纏い黄金の瞳を有す。



 尊大、偉大、寛大。



 全てに於いて大きい。



 竜王子が誕生して十五年。



 唐突に妻が欲しいと言い出した。



 無理だと王は言うが国を潰すと脅され、隣国の王女を迎えることとなった。



 竜王子が待つ寝室に通される王女。



 数瞬の後、王女は命を落とす。



 竜王子が食べてしまったのだ。



 再び竜王子は妻が欲しいと言う。



 王は抵抗が出来なかった。



 人を食す口実と分かってはいた。



 だが、それでも抗うことは出来なかった。



 二人目の王女も竜王子の腹の底へと消えていく。



 連れて来た王女達の国からも、娘を殺されたと戦争に発展する。



 その後も、幾人もの女性が竜王子の腹へと向う。



 竜王子の食欲が欠くことは無く、むしろ日に日に増していくほどであった。



 国の士気が猛ることはない。



 国家間の戦争による土地の荒廃と人民の疲弊。



 更には竜王子の妻の娶り。



 人民には謎の奇病が流行り、宮内の者達も多く倒れたと伝えていた。



 無論、正室や側室として娶られた女達も例外ではない、と。



 だが、そんな事が虚言であることは皆黙認していた。



 竜王子の存在は宮内、城内の奉公人や騎士達によって内外に漏洩していたのである。



 その存在の恐ろしさ、禍々しさ、それに伴う神々しさは国中に蔓延していたのだ。



 抗いようが無かった。



 抗うことが許されない状況へと陥っていたのだ。



 






 今宵もまた、美しき御仁が竜の血肉へと変わり果てる。









                ○








『御伽噺はこれで終わりだ』



「へぇ……え?」



『オチも何も無いのだよこの御伽噺は……強いて言うならば今後この国は竜王子に苦しめ続けられ遂には滅んでしまいましたとさ。なんて終わり方も聞いたことがある』



 男は愕然とした。

 これではあまりにも酷すぎる話ではないか。

 救われるべき民の苦しみも王様と妃様の幸せも糞もない。

 


「こんな話が本当に御伽噺として語られているというのか?」



 納得がいかなかった。

 男は自分の知っている御伽噺は全て勇気に満ちていて、正義とは言えなくても少なくとも主人公が何かを救い、助け、導く、そんなものだと信じていた。

 まるで小さな子供のようにそれに嬉々と耳を傾けていた自分が惨めになった。



『御伽噺や伝承なんてものには戒めの気を込められて作られたものが沢山あるんだ。主人公がいつも正義とは限らない。お話の主人公を反面教師として子供達を戒めで縛る事もある』



「それは、良い事なのかい? 悪い事なのかい?」



 男には善悪の区別はまだ分からない。

 だからこそ聞く。



『人間達としては良い事なのかもしれない。だが我々の立場としてはあまり良い事ではない。確かに戒めのおかげで人間達が我々に近づくことはなくなった事は事実でもある。だが人間達も我々も互いを嫌い合う輩ばかりではないのだ。昔の思い出を追って、竜の記憶に永劫残る仲たがいをした我々と人間達の仲を再び戻そうとし竜はいた』



『我々の長き命と違い人間は短命だ。我々が長きに渡る因縁として残している記憶も楽しげな思い出も今続く現実として視覚していることも、人間達は忘れ去っている。文献や伝承には文化として残るが、そんな素晴らしいものを手にすることが許されるのは大抵が人間社会で富裕層と呼ばれる者達ばかりだ。少数ながら本来の我々を理解し打ち解けあう者もいたのだがそんな輩は異端者として、友好を図った竜族は化け物として、迫害された』



『まあ、何が言いたいのかと言うと、大人の戒めと言う名の欺瞞で出来た伝承を子供達が真に受けそれを信じることが我々は許せないのだ。人間社会での規則や規律の保持の為に作り話をするなんて事はまだ許せるが、それを超えた事実無縁の所業を作りたてさもそれが当然だというように広まっていくのは我慢なら無い。それが我々も我々の良き理解者をも破滅に導くのだから』



「えー、えぇぇと……?」



『ふむ、要するに子供の教育の出汁に嘘の噂を流されて、我々も本当の理解者も迷惑しているのだよ』



「嘘?」



『嗚呼、例えば我々は人を襲って食べるとは言われているが人肉は基本食べない。食べれないのだ』



「でも、自分に会った時は肉が食べたいって……」



『アレは脅しのようなものだ。それにお前を食べたいとは言ってない』



『話を戻すが、その出汁が肥大化して恐ろしい有らぬ存在が我々として人間達に住み着いている』



『そのおかげであんな御伽噺が出来上がってきたんのだ。そしてそれを聞いた子供達がまた違った認識を得る。そしてその子供達が成長して――――なんて事の繰り返しだ。あの御伽噺はそれの一端だ』



「負の連鎖……?」



 男に善悪はない。が、それは誰もがそうである。

 人には人のものさしがある。

 ある事柄に対して百の者が集まれば百の解がある。

 ものさしの長さが足りなかったり、長すぎたり。

 色が付いていたり、真っ直ぐではなかったり。

 多種多様なものさしが存在している。

 それはこの男も例外ではない。

 男は男の、自分のものさしで目の前の物事をはかったにすぎない。

 









『その通り。堂々巡りだ。どうしようもない。抗いようが無いんだ。御伽噺の王様の様にな』









 

御伽噺はこれでお終い。

男は記憶が無いばかりに純粋です。

竜の主観だけを丸呑みしてしまいそうです。

あと口調が安定しませんね……

伝承や童話など様々な御話の中にも侮蔑的な表現や偏見の目だって入っていることがあると思います。

まあ、どう解釈するかは人それぞれですが……

すみません


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