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銀の首輪の小英雄  作者:
邂逅編
12/17

第一章拾壱記「帰還」

場面が変わります。ご注意下さい

スミマセン。

あと、地名とか国名とか、キャラ名とかには深くつっこまないでね!!

ネーミングセンスとか欠片も持っていないのですから。

まあ、そこはご愛嬌ということに……





 神の名前、名称世界各地で、人類が知能、文化を持つと同時にもったであろう概念であり信仰。一神教、多神教などの違いはあるが、なんらかの「神」「神聖な存在」への信仰、概念は多くの人々が持っている。

 それは誰かが否定できる事でもない。

 歴史的には自然崇拝や精霊、祖霊崇拝などから始まり、やがて都市文明や国家制度などができると神殿や神像、聖職者などが制度的に整えられた。また口承で伝えられた神話などが聖典として文書化されるようにもなる。



 信仰されている民族宗教や、記録に残る古代宗教など数多くの神、神的精霊、概念が存在している。

 無神論を唱える人々、無宗教という人々もいるが、「運」の良し悪しや哲学的概念、ジンクス的なものを完全に排除できるわけではなく、また論理や科学的概念ですべてに必然性をもとめれば、「科学」の神化、科学信仰ともいえる。

 なんらかの概念をよりどころにするところに神的概念があり、信仰がある。

 それは人間の思考と切り離すことは難しいだろう。



 信仰、宗教というものはいつの時代でも人々の支えや心の拠り所であったりと、様々な点で人間とは切っても切れない関係にある。

 だが、其れが原因で起こる紛争や戦争というものも必ず存在している。

 物欲や慢心、信頼や信用ではなく、依存。

 戦争と宗教というものは人間の醜き本性を体現しているのかもしれない。
















 クロニウス




 正式な名称はクロニウス神国。

 寒流と暖流がぶつかる独特な地形を有しているクロニウスの海に周囲を囲まれている島国である。

 が、その領土の広大さは周辺諸国の比ではない。

 広大な大陸を一つ、そのまま領有していることと同義。

 国民総数は数千万を超え、名実共に超大国の一員であることが証明された。

 内陸部に位置する国では知り得る事の無い海洋の恐怖や、この地域にのみ頻繁に発生する地響きに悩まされながらも民は懸命に生きている。

 その支えとして、ある時期に爆発的に広まった、この国を代表する、この国の根幹でもあるもの。

 宗教。

 明確な名称や肩書きなどは持ち合わせていないが民からは、

 セズ教と呼称されている。

 呼称の由縁は幾説も提唱されてはいるが、最も支持を得ているのは誰が言い出したのか分かっていない俗説であり、なんでも、開祖の実名だ、神から承った戒名だと言うもので、自称知識人達が日夜両説について議論しているとかどうとか……。

 尤も、正規の(法王庁に登録されているという意味合い)聖職者達は現法王のミドルネームである『テュレ』からとってテュレ教と呼んでいる。これは現法王、基、法王庁も公認していることであり周辺諸国ではクロニウス神国のことを『テュレ』と省略・簡略化して呼称することも多い。

 国の主君の位に位置する、統治者は言うまでも無く法王である。

 が、実際の統治をしているのは法王庁の総責任者である枢機卿だ。

 要するに共和制、共和主義なんてものの正反対に位置する神権政治に近いものを主体とする国家なのだ。

 だが、他の専制政治国家とは違い国民からの不満はそれほど見られない。

 貴族制、貴族主義を掲げる国特有の身分差別や侮蔑意識がそれほどまでに蔓延っていないということがその要因の一つになっていると考えられている。

 故に民衆は、島(大陸といっても過言ではない)の開拓事業等には協力的で広大な土地の彼方此方に村が造られ、それを基盤として大きな都市が出来上がった。

 


 そんな幾つも点在している都市の中で、最も大きく、そして広大な都市であるこの国の首都ラパスでは、現在、街中が仰々しい飾り付けで覆われ何かが行われようとしている。



「あの、一つお尋ねしてもよろしいですか?」

 


 街路を(せわ)しなく往復している住人に遠い町から遥々とやって来た唯の放浪者が、街の現状に疑問を呈していた。



「一体何が行われようとしているんですか?」



「あぁ゛っ? 俺は今忙しいんだ! おめぇに付き合ってる暇なんざ無ぇってことが見て分からんのか!」


 

 放浪者は手酷くあしらわれた事に膝を折りそうになるが、次があると楽天的に捉え、めげる事無く挑戦する。



「あのーすいません」



「あん? あー、後々」



 新たに捉まえた住人に再度疑問を呈したのだが、一瞥しそして呆れられ結局は峻拒される。



「あ、あのー」



「?」



「お尋ねしたい事が……」



「……知らん」



「今、明らかに顔を見て判別したでしょ!?」



 冷た過ぎる眼差しに耐えながら、住人達を追いかけるように何度も街中を往復していた。



 幾度と無く突貫した放浪者だったが、親切に現状について享受を垂れてくれる人が見つかったのは両手の指では数え切れない人数になってからだった。



「今、この街では先祖の霊を慰める祭祀が行われているんだ。他国では厳かに沈痛な面持ちで、黙祷なんて行為をする所もあるらしいがうちは違っていてね、なんていうか、こう、もっとパァッーとやろうぜ! みたいな気質の人が多いんだよ。私もこの国に移住してきて驚いたが、そう悪いもんでもないよ。辛気臭くなるのも嫌だしちょうどいいさ」



 おっさんが移住してきた他国人だったという本当にどうでもいい情報と共にこの街で何が行われようとしているのかを知った放浪者だったが、自身の目的の為にも、どうしても知りたいことがあった。



「あの、もう一つお尋ねしてもいいですか?」



「あ、ああ。問題無いよ」



 突然真面目な顔付きに豹変した放浪者に多少辟易しながらも懇切丁寧な受け答えをしてくれるおっさんは、聖人君子と言ってもいいのではないだろうか。



「ついこの間、この首都から出立した第六大隊が近日帰還するとの噂を耳にしたのですが……」



「ん? 第六大隊? ん~? ………………ああ! あの役立たず共かい」



 善良なおっさんから出てきた言葉は、あの隊と只ならぬ(・・・・)関係を持っている放浪者にとっては信じ難いものだった。



「え、ええ」



 だが、一々反論していても埒が明かない。というより、目の前にいる親切なおっさんはこの放浪者が隊に関与しているなんて事は知る由も無いので致し方ないことではある。

 なんとか苦言を飲み込みながらも曖昧な相槌を打つ。



「いやぁ、あの能無し共が法王様の勅命を承ったと聞いた時には天地が引っ繰り返るかと思ったもんだよ。後から聞いた話によるとお役人様も渋々了承したってらしいじゃないかい。大丈夫なのかねぇと思ってたんだよ! それがどうだい? 何でも無事勅命を全うしたそうだ! これで誰も無能隊などとは言えなくなったなぁと感慨深くも思ってたんだが――――」



 次第に唯の愚痴や世間話に転化していき耳が痛くなってくる。

 早々に次の話題へと移ろうと催促の為にわざとらしく咳き込む。



「ゴホンッ! ッゴホッゴホッ……ウッ……オエッ」



「おいおい、大丈夫かよ」



「……死ぬかと思った」



 手違いで大きく吸引しすぎた為、気管に異物が入り込んでしまったようだ。

 だが、おっさんの無駄話を中断することが出来たので面目躍如というところか。



「えー、気を取り直して。その第六大隊の帰還する日付などは耳にしていますか?」



 これこそが放浪者の真意。


 

「あーっと、何時だったかな? ……そうそう! 今日だよ今日! 祭祀の日と重なるなんて、なんと言う幸運! そいつらの帰還も相まって今年の祭祀は盛大なものになるだろうなあ!!」



 上機嫌に去っていったおっさんを後にして、放浪者は都市の中心部に位置する大広場へと足を進めた。



 首都ラパスには法王庁の本部であることを象徴する旗印が掲げられた建物が幾つも存在している。

 彩り豊かな煉瓦調の建物や豪華な装飾が施された塔等をイメージしがちだが、実際はそうではなく木造で彩の『い』の字も無い、茶一色のなんとも質素な空間である。(勿論、聖職者達の住まいは別である)

 だが、建造物に法王庁の紋様が焼印のように象られ外壁の一部と化している情景を見るに、この街がセズ教(テュレ教)の総本山であることを表している。

 そんな街の中心部となれば、そこにある建造物は旗印一色に染め上げられていつというのは当然のことなのかもしれないが。



 本来、正規に登録された聖職者達か、其れ相応の地位や権力を持った人物で無ければ足を踏み入れることなど出来ない筈の場所に易々と侵入出来たのは、現在行われている祭祀の影響だろう。

 毎年なんらかの行事がある度に一般開放されているのだが、そんなことを知っている筈の無い放浪者はけげんな表情で周りを見回していた。



(おかしいなぁ? 警備とかもっと厳重だって聞いてたんだけど……)



 決して口には出さないが、表情には出てしまっている為、何故中央広場が開放されているのかという事情を知っている民衆からは白い目で見られている。

 そんな風に見られているなどとは夢にも思っていないのだから、不可思議な目線に対し、けげんな表情を深めていった。
















 太陽が頭上に昇りきった頃、街中から独特な音色を放つ笛の音が響く。

 その音色は何処か懐かしいものであったり、沈み込んだ気分を陽気にしてくれる様な、今にでも踊りだしたくなる。そんな温かい音色。

 民衆のはしゃぎ様は凄まじいもので、何処へ行っても公道の脇には、伝統的な衣装で着飾り調子良く笛を吹き鳴らしている光景がある。

 酷い所では道のど真ん中に出しゃばって来て、踊り始める始末。

 お世辞にも綺麗とは言い難い舞踊や音楽だが、これが市井の人々の楽しみ方だと楽観的に受け止める権力者達。

 様々な構図が生まれ、許容する。許容できる雰囲気が都市全体に広がっていた。







 そんな中、街の出入り口でもある正門を潜る異様な一団が現れる。







 正門を潜る者を監視し、門を守護する役割を担っている衛兵達は言葉を失っていた。

 第六大隊の帰還は随分と前から噂されていた為、何時かはこの門を通るだろうと予見はしていた。

 だが、目前を通り過ぎてゆく一団は衛兵達の想像を遥かに超えた様相で帰還を成しているのだ。

 衛兵達は彼等、第六大隊がどう呼称されているのかを知っている。

 お坊ちゃま軍団、役立たず、能無し。

 確かに一度も正式な戦に発ったことも無い、貴族の子息達を貶す意味も持っているだろう。

 衛兵達も少なからず、この隊を罵倒したことがあった。

 だが、それは真意からではなく、仕事の癇癪や焦躁をぶつけただけである。

 鬱憤晴らし、とも言い換えられる。

 心から憎い訳でもなく、心から疎んでいる訳でもない。

 だからこそ、法王の勅命を全うしたという報告を耳にした時には素直に感心していた。

 素直に祝福しようと思っていた。



 それが、どうだろうか。



 眼前に映る異様な一団を見て、縮こまってしまっている。

 祝福の言葉を、祝辞を、祝砲を、忘れ、固まっている。

 差し出そうとした腕を、手を、指を、まるで汚物にでも触りそうになったと避ける様に引っ込める。

 普通なら、常時なら、いつもなら。

 其の行いを見た者は衛兵達を罵っただろう。

 誹謗しただろう。

 痛罵を浴びせただろう。

 冷罵を浴びせただろう。

 漫罵を浴びせただろう。

 嘲罵の的としただろう。

 悪罵しただろう。

 だが、今は、誰も、何も、言わない。

 言えない。

 


 帰還した騎士達は、幾分か数を減らしていた。

 傷付き、疲労していた。

 そして、服を、正装を、濡らしていた。

 赤く、紅く、血塗られて。

 表情は見えない。

 ある者は衣服を裂いて顔に巻きつけ、ある者は仮面の様な者を被っている。

 覗き見えるのは眼光のみ。

 それは酷く濁っていて、虚ろ。

 


 騎士達全員が門を潜っただろう。

 衛兵達は閉門しようとした。

 ふと、騎士達がやって来た方向を一人の兵士が眺める。


 


「お、おい……あ、あれ、見ろよ」




 一人の呟きに他の兵士が殺到し皆が一様に同じ方向を見つめる。

 肉眼に捉えたのは大きな点。

 否、点ではない。

 それは、誰もが知っていて、誰もが恐れる、誰もが敬う絶対的存在。



 それが、まるで唯の大きな荷物の様に、荷車に縄で巻きつけられ運ばれていた。

 それは、眠っているかのように静かに瞳を閉じている。

 それの後方には、同じように荷車で運ばれる檻のような物が衣で覆い同様に縄で固定されている。

 檻からは動物の呻き声が絶えず鳴り響く。

 

 

 唐突に烈風が凪ぐ。

 檻を覆っていた衣が呆気無く飛んでいった。



 檻に捕らえられていたのは、人。

 褐色の肌に伸びきった白銀の髪。

 その瞳は美しく妖艶に瞬く紫紺の彩。

 そして全裸。

 


 体中を鎖で固定され、身動き一つとれない状況。

 鎖は手や足の拘束具に連結されている。


 

 そして、その首には大きく、そして厳つい銀の首輪。



「――――――――――――――――――――」



 男の雄叫びは、竜の咆哮のように眺める人々を竦めさせた。



 日射が反射し、白銀の髪と銀の首輪が同時に煌めく。
















「なん、だ……あ、れ?」



 当初の目的を完全に忘れ、祝い事に興じていた放浪者は、街の中を跋扈している異様に対し、順当な反応を見せた。 

えーと、フェルニゲシュと主人公とキシリア達の不可思議な場面はもうちょっと後に書きます。

どういうことが起こったのかは次話でちょびっとだけ説明?みたいなのが入ります。たぶん。

追記:

気づいたけど、初めて主人公の描写を書いたような……。


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