第一章拾記「竜 咆哮 そして邂逅 自明するは男の天分」
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地べたを転げ回りながら悶え喜んでおります。
嬉しいです。今にでも昇天しそうです。
ありがとうございます!!
えー、序でに。キシリアの口調も安定しなくなって参りました。
推敲したいです。
絶望
絶望とは希望の無い様子を示す。
社会的地位の喪失。
信頼すべき相手の喪失。
裏切りなどに遭遇し、未来への希望を失ったとき
人は絶望に陥る。
戦争などの極限状態では絶望が起こりやすい。
平時でも辛い経験に遭遇し、絶望することがあるだろう。
絶望している際は、ひどい孤独感
世界から孤立し社会的に見捨てられたような感覚に襲われる。
そう。
今
目の前には
絶望がある。
デニスには目前にある存在を許容することは甚だ難しいことだった。
この世界は悪と悲惨に満ちたものだという人生観。
世界は盲目的な意志によって動かされているとする思想。
そんな悲観主義的思考が止むことは無い。
眼前にあるのは御伽噺や童話の中で語られてきた架空上の存在。
伝説の勇者がそれを倒し、皆を助ける。
そんな物語は子供の頃からずっと憧れてきたお話の一つ。
火を吐いて、民に悪さをし、王を困らせる。
王は国の中で強い者を討伐に向わせたり、率先して討伐に行ったり、そんな夢のある話。
幾千のお話がある中で
竜
という存在は
孤高で
崇高で
至高である。
滋味に富む、滋味を物語に与える、無謬の香辛料。
そんな存在。
倒せば英雄。
そんな欲望もよぎる。
それでも、そんな感情を持てたのは刹那の間にしか過ぎず、睨まれれば蛙のように縮こまるしかなかった。
『何事かと来てみれば……鬱陶しいな』
竜は口を開き呟く。
されど、それは、目の前の人間達には、ただの音。
『ふむ、奴は無事か?』
フェルニゲシュの言う奴とは諮らずとも分かること。
『ふ、何にせよ此処に人間が立ち入るのを見逃す訳にはいかん』
漆黒の竜は咆哮する。
轟く咆哮は雷鳴の如く大地を揺らす。
幾度も咆哮をし、突然翼を広げ、そして大空へと飛翔する。
『脅して追い返してやろうか……』
呟きは音となり風に運ばれ目前の人間の耳へと入る。
竜の言葉を耳にした人は戦々兢々(せんせんきょうきょう)とした表情をみせた。
それは、竜にとって悲しく、寂しく、そして醜いものでもあった。
巨大な体躯を羽ばたかせ大空を疾駆する化け物。
流動たるその躍動は人の踏み入れる領域ではない。
ある一定部に線引きがされているかのようにそのある部分から先へと行くことが出来ないのだ。
否、出来ないのではない。しないのだ。
踏み入れば、死。
そんな予感が頭をよぎる。
それは竜に臆する心情がまるで絡みつくが如く足を留めさせている要因であるように、自身から発せられる恐怖の体現でもある。
それでも、それでもデニスは動かなければいけなかった。
忠義に富み、信教を絶対とするこの男は、自身の忠義に値すると認めた軍の長を探し出すために奔走しなければならなかった。
信教の命に背いてでも。
それは此処にいる人間全員に言える事。
厳格で峻厳ではある彼女を知っている者全てが口を揃えてこう言うだろう。
優しい御方だと。
「臆するな!! 我々は誇り高き騎士であるぞ!! これしきの事でへこたれてはならん!!」
鼓舞し、鼓吹する。
奮起した人は怒涛の進撃を始める。
駆ける足音と士気を高めるその怒声は竜の咆哮にも勝る。
「我等が長とするのは誰だ!! その御方を見捨てるのか!! 我等の一生の恩人である御方を!!」
怒声に混じり鼓舞するその言葉はこの場にいる騎士達にとって掛け替えの無いもの。
恩を忘れない為の。
「あの方がいなければ我々はこの場、いや、この世に生きてはいまい!!」
彼女が自身の身を挺してでも守った彼等。
今度は彼等が身を挺する番だ。
恩に報いる為にも。
「そんな御方を見捨てるなどは有り得る筈が無い!!」
宣言ともとれるそんな言葉を残しデニスは前方を見据える。
目と鼻の先にあるのは竜。
踏み入れてはならない線。
それを今、踏み越え驀進する。
「進軍せよ!!」
破竹の勢いで進む彼らの瞳には恐怖の色など映してはいない。
全裸で木々の間を舞う男の姿を見るキシリアの顔はまさに菩薩と言っていい程に穏やかな顔である。
「流石に慣れてしまうものですね」
枝々に飛び移り器用に果実を採っているその所業は人間離れしているとキシリアは思った。
――――こんな所に住んでいるから出来るのか? などとつい口を滑らしてしまいそうになる。
ある意味侮辱していることにもなりかねないのだから言葉とは難しいものだ、と再度認識し何度も頷いている時だった。
「あ」
落ちた。
盛大に頭から。
呆然としていたキシリアだったが直に我に返り、救出へと向う。
「大丈夫ですか!」
倒れている男の傍へと駆け寄り、丁寧に身体を起こす。
綺麗にした身体からは悪臭も発せられておらず、苦も無く介抱出来た。
介抱の途中、いくら見慣れているとはいえ、ちゃんと見たことが無い男の身体には目が行くもので気がついていないことを良しとして隅々まで凝視し始める。
「ふぅむ、やはり私のような女と違って随分とガッシリして」
肩の三角筋辺りから、腕の上腕二頭筋など次第に下へと下がってくる。
眺めるだけでは我慢が出来なくなったのか、恐る恐る触り始めた。
「それでいてしなやかで良い身体をしているんですね」
遂には身体全体にまで及び始め、肩の後ろの部分にある僧帽筋から始まり前述した三角筋、上腕二頭筋に加え大胸筋や腹直筋、大殿筋、そして大腿筋など、全身くまなく撫で回したと言って過言ではないだろう。
触り終え、頬を上気させながらも気持ちを落ち着けるために息を吐いた。
「べ、別に、疚しい事なんぞ思ってもいないし、ただ興味があったと言うだけですし。」
自分に言い聞かせるように呟きながら再び何度も何度も頷くキシリア。
そして一言呟いた。
「それにしても、何で女の私よりこんな所でこんな生活を送っているこの男の方が肌が綺麗なんでしょうか……」
呟きは空しく響く。
「痛ぇ……」
暫くして気がついたらしく、男は涙目になりながら頭をさすり起き上がった。
「調子に乗ってあんな事するからです」
「いや、違う。何か聞こえたんだ……」
「?」
「喚く様な、そんな感じ」
男は先ほどとは打って変わって神妙な顔つきをする。
どうやら彼には聞き慣れない何かが聞こえたらしい。
「どうするんです?」
身体を洗ったら直にあの小屋に帰るという手筈になっていた。
そこに、異変が起こった。
ならば、どうするということである。
危険なのか分からないまま近づくのもあまり薦められるものでは無いので、相談しようと暗に持ちかけたのだが……
「よし、行こう!」
「は?」
「ほら、行くよ? 早くしないと!」
――――こいつは一体何を言っているのだ? と言いたげな表情で睨むキリシアだったが力強く引っ張られ小さな抵抗も空しく空回りで終わってしまった。
大木の様に太く剣先の様に鋭い尾を叩きつけ、騎士達を薙ぎ倒す。
巨大な大顎の威力は凄まじく、地面に埋まっていた岩石をも噛み砕く。
鋭く曲がった大爪は騎士達の肉体を易々と引き裂いた。
「怯むなぁぁぁぁ!! 進軍を続けろ!! 相手も徐々に疲れ始めている筈だ!!」
フェルニゲシュは苦い顔をしていた。
目の前にいる人間達を傷つけようとは思っていなかった。
尻尾を大きく振るった弾みで前衛を担う人間の一団を薙いでしまったのだ。
巨木をも倒す破壊力を持った蛮力を振るわれた人間達は激昂し、抵抗を強める。
抵抗を強めた人間達は槍や斧を手に取り目の前にある獲物を屠ろうと力を行使する。
なし崩しに応戦しなければいけなくなってしまったのだ。
「進め!! 怯むな!! 臆するな!! 我等にはあの方が必要なのだ!!」
馬鹿の一つ覚えの様に同じ様な事を幾度も喚き散らす。
だが、その鼓舞に応えんと騎士達の士気は上がり続ける。
それは、竜の咆哮をも掻き消すほどの大音声を張り上げるまでに大きな奔流を作り出した。
『嗚呼! 鬱陶しい!!』
それでも、最上種である竜にとっては蟲の蠢きに値する程度のもの。
『焼き殺してやりたい!』
だが、怒りが頂点に達すれば幾ら温厚な者であろうと堪忍袋の緒が切れてしまうのはなにも人間だけではない。
そして、竜、フェルニゲシュにはその限界が訪れようとしていた。
竜の動きが静止し威圧的な眼光を送りながら大きく息を吸う。
吸引された空気が巻き起こす豪風の風声は清く美しい音色。
蛮声を上げていた人間達も呼応するかのように静まり返る。
緋色の瞳を目標を定める為に写る情景の細部まで眺める。
そして、一拍の後。
漆黒の大顎を盛大に広げ、火球を放った。
その火球は流星の如く騎士達に着弾し、弾け、砕け、爆ぜ、そして業火が全てを焼き尽くす。
直撃した騎士達はその形を留めぬまま、消し飛んだ。
「ああ、ああああ、ああああぁぁぁぁっ」
直撃を間逃れた騎士ですら肉が爛れ、呼吸が出来ず、苦しみながら息絶える。
爛れた肉を引き摺り、激痛に大地をのた打ち回るその情景は地獄絵図と化した。
「なんということだ……」
デニスは言葉を失っていた。
自分の指揮で仲間を率い、そして死なせた。
先導する者としては当たり前のこと。
だが、デニスは今まで一度も人を率いたことが無かった。
この、法王庁直属第六大隊に就く前にも傭兵紛いとして戦に出ていた事がある。
そう、第六大隊の唯一の戦の経験者なのである。
それでも、尖兵としてや歩兵として出撃したに過ぎない。
軍の先頭にいて、何度も生き残ったその手腕は賞賛に値するが、所詮は唯の雑兵である。
大群を率いて駒の様に扱う。
そんな冷徹で重厚な心など持ち合わせている筈が無かった。
「おお、おおお、おおおおおぉぉ!!」
単身、特攻した。
喚く様な
男はそう言った。
キシリアにはそんな声や音など聞こえなかった。聞こえていなかった。
それがどうだろう。
男が向う方向に共に駆け、目的の場所へと近づけば近づく度に声が、音が、大きくなる。
それは、まるで竜の咆哮のような地表を揺るがす巨大な爆音。
それに続いて轟く人の胴間声。
人の声には聞き覚えのある声が幾つもあった。
何かが起こっている。
そう確信した。
「今向おうとしている場所で何が起こっているのか分かるのですか?」
遥か前方を疾走する男に向って大声で問う。
「詳しい事は分からない! でも、フェルニゲシュに何かあったのかもしれない」
男の口から出た言葉には聞き覚えがある。
フェルニゲシュ
もう一人いると考えられるこの男の仲間。
だが、何故今この時にそいつが関係あるのかと疑問に思った。
「其処に貴方の知り合いがいる可能性があるのですか?」
今、この男が向おうとしている、何かが起こっている地点に仲間がいるのかと言う問い。
其処に本当に仲間がいるのならば確かに急がなければならない。
だが、其処にはキシリアの仲間もいるのかもしれないのだ。
「嗚呼、可能性じゃない。絶対にいる」
何に確信を得たのかは知る由も無いがその仲間を心配しているのはその表情から知ることが出来た。
「そうですか。実は私の仲間も其処にいるかもしれません」
「そう。だったらもうちょっと急ごうか」
キシリアは驚愕していた。
遥か前方にいたはずの男が何時の間にか目前へと移動していたのだ。
そして、束の間の浮遊感の後自分が抱えられていることに気づいた。
「ちょ、ちょっと! 何するんですか!」
所謂、お姫様抱っこ。ではなく唯の抱っこである。
鼻先には男の顔があり息が掛かる。
恥ずかしい事この上なかった。
「抱えた方が早い」
男は、そう吐き捨てると先程の数倍の速さで木々の間を駆け、小川を飛び越える。
過ぎ去っていく景色の中でキシリアは懸命に男の身体にしがみついていた。
物凄い振動がキシリアの身体を今にでも落下させようと迫ってくるのだ。
恥じている場合ではなかった。
「見えた!!!」
森を抜ける。
森の中とは比べ物にならない量の光が目を焼いた。
だが、其処にあるべき情景は信じられないものだった。
大地には、黒ずみ煤と化した人の形をした何かが。
その先には血を流しながら死に物狂いで剣を振るう騎士達の姿。
更にその前方には在るべき筈の無い存在。
竜
「フェルニゲシュ!」
――――今、自分を抱えているこの男は何に向って声を放った?
キシリアは愕然し絶句した。
――――この男の仲間とはあの化け物のことか?
――――この男は化け物の仲間?
――――あの化け物は一体?
疑問と不審。
嫌悪と忌避。
悪辣な思いが意思に反して込み上げる。
今直ぐにでも男から離れたかった。
「は、離せ! 今直ぐ離せぇぇぇ!!」
狂気が身を包み、身体を操る。
支えられていた腕を跳ね除け、地面に降り、そして駆けた。
仲間の下へ。
「?!」
男はキシリアの豹変に驚倒していた。
否
納得していた。
哀れむ様な、わびしむ様な。
見下しているともとれる表情。
それは、キシリアに見せた笑顔とは真逆。
「ああ、そうか。やっぱり人間ってあんな風なのか……」
落胆と哀愁と嫌悪を漂わせながら恐怖の表情を晒しながら自分から離れていくキシリアを眺めて、溢した。
「フェルニゲシュが言った通りじゃないか」
「何だ……期待するんじゃなかった」
明確な拒絶を示された空しさと、自分があんな【もの】と同等だと言う嫌悪が男の心を同時に襲う。
今、その人間と戦っている自身の友とも呼べる存在。
フェルニゲシュの下へと歩み寄る。
そして叫んだ。
「うぅあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
それは、竜の咆哮も、轟く大音声も、大地を流れる落ちる大流も、凌駕する。
声。
音色。
歌。
神々しく、禍々しい。
感情が溢れ、膨れ、また溢れ。
視認できる暗黒の光条の奔流が辺り一帯を竜巻の様に回転しながら包み込んだ。
『何が起こった?』
音を無くした世界に再び音がやって来た。
再び漆黒の竜が沈黙を打ち破ったのだ。
黒い光が晴れ、確認はしたが周りには何の変化も無かった。
否
変化はあった。
それは
「竜、が……喋……った?」
愕然とした肉声は誰ともなく発せられたものだった。
何だこの展開は?! と言う感じになっておりますがご了承下さい。
当初、主人公の天分の顕現の描写を長々と書いていたのですが消し飛びまして、大分短くなってしまいました。申し訳ない。閲覧者様の想像力に頼ることにします
えー所変わって、説明。
竜は現在その生息域を狭めています。
現在の人間の中で竜を見たことがある者はほぼいません
フェルニゲシュに突き刺さる武器類は昔の物なのです。たぶん。
そして大隊はキシリアにぞっこんというか、彼女を根幹としています。
彼等には彼女がいないと駄目なのです。たぶん。いろんな意味で。
この世界では 現時点での 魔法の類の能力は出てきません。
たぶん。
※お気に入り登録や感想を頂けると嬉しさのあまりタンゴを踊りだします。