他人のものを平然と奪う双子の妹が可愛く思えるわけがない
初めに驚いたのは、図書館からの帰宅後の時だった。使用人からケーキを用意してあると言われて、ライラネルが喜んで食べようとしたら先に妹が食べていて、テーブルに着くと母に「あなたはもう食べたでしょ」と身に覚えのないことを言われてわけがわからなかった。
後から知ったのは双子の妹が先に食べたあと、ライラネルが食べたフリをしていたのだという。今食べているということは、妹はライラネルの分も食べて二個のケーキを奪ったということ。もう一つのケーキは姉が食べたと言えば済む話だったらしい。
先ほどまで図書館に行っていたことはどうなるのだと、アリバイがめちゃくちゃだ。そう思っていたら、なんと図書館に行っていたのは妹になっていた。図書館なんて行ったことなどないのに。周りをどうやって丸め込めたというのか。
双子なので顔が似ている。使用人なんて騙せるのは簡単にできたことだろう。一つ一つ用事を言いつけ、頼む人間を別々に替えればそれが姉か妹かあやふやになる。
そもそも、自分は姉だ妹だと一々確認しないし自己紹介しない。使用人の思い込みを使えばいい。ここにいるのは妹。でも、実は姉だったと言われたら再確認しても、どちらか嘘をついていることになる。
使用人たちが貴族令嬢に嘘つきだと言うわけにもいかない。どうせ言っても少し怒られて終わりになる。この怒りはどうすればいいのか。ケーキを頬張る妹を睨みつけると、不味いことをした自覚があるのか怯えて震えた。
その日以来、家族としてではなく、妹を他人のように扱うことにした。きっとこのままなぁなぁにしたら、永遠に奪われ続けるのだ。親に仲が最近悪いわねと言われたが、ケーキのことを話すと「その時言ってくれればよかったのに」と言われる。成り代わられた恐怖を説明しても、絶対に理解が得られる気がしない。
言ったところで、用意されていたケーキはもうない。次の日に用意をされようと、自分の分を盗まれた過去は消えない。その日以来、徹底して妹のものときっちりわけるように頼み込んだ。ドレスもアクセサリーも。
その日までは入れ替えたりして新しいものを買わなくて楽だったが、あの行為を見て、いずれまた自分のがまだだと言い始めるかもしれない。
妹が食べたのはケーキだけではなく姉として、姉妹としての家族愛もだ。食べたいからと卑怯な真似を許すわけにはいかなかった。徹底して無視した。ケーキ一つでと言われるかもしれないが、ただ血の繋がっただけの犯罪者だ。妹という肩書きを持つ、家内に人のものを盗む盗人なのだ。
「お姉様」
話しかけられたが嫌いなものを見る目で見た。ゾッとした顔で見つめてくる妹の形をした敵。
「話しかけないで」
「ごめんなさい」
冷たくしている理由を知らないから、人は可哀想だと言うかもしれない。顔を利用して舐めたからあんなことができたのだ。あんなことができる子供は大人扱いして良いだろう。姉の方が利口で賢いから良いだろう、なんて言い訳は聞きたくない。
親は仲直りさせようとしたが、双子の姉妹で同じ体験でもしないと共感は無理だ。こんな二人にも婚約者ができた。二人は同じ家の兄と弟。性格は正反対。
容姿としては兄はキリッとしていて、弟はおっとりしたタレ目。妹は顔合わせの時、ライラネルの婚約者に惚れたらしい。ずっと顔を赤くしてふらふらしていた。
また取ろうとしているのだろうかと冷めた目で見ていると、ライラネルの婚約者が来る日と妹の婚約者は同じ日に来て交流する。もちろん、場所は離れている。あちらは穏やかというより、お互い話すことが得意ではないから、空気が重いと言ったほうがいい。
うまく行っているように見えず、内心ため息を吐く。ライラネルは目の前の男を婿に貰うのでうまくいかなくてもいいが、妹は嫁に行くのでなにがなんでも相手とうまくやらなければ、あちらに行った時に苦労する。
母も言い聞かせているが「お姉様の婚約者を好きになったんだもの」と言うらしい。親もほとほと困り、どうしたものかと思っている。ライラネル的には妹の婚約者が相手になっても構わない。
しかし、親は簡単に交換できるわけがないでしょうと、説得して言い聞かせる。それでも嫌々と言っては泣き暮らす。痺れを切らしたのは、いつまでも関係をよくしない相手に付き合っていられない、弟の方。
兄を見て弟を見れば落ち込むなど、どんなに心が広くても腹が立つに決まっている。ライラネルだってそんな態度を受けたら殴りたくなるから。相手が女だから何もされずに見放されるだけ。
ライラネルの親たちは相手の親から目に余る態度だと抗議され、一度話し合いの場が持たれ、妹の婚約は解消された。かといってこちらの婚約者が妹にスライドするわけじゃない。兄の方は入婿なのだ。
解消したとして入婿ではなく妹と共に平民になるか、後ろ盾のある平民ではないものの裕福でなくなる補佐として生きるしかない。妹は恋をしたが兄の方は好意を持たれていることは知っているものの、妹に恋をしているわけじゃない。
物語じゃないんだから、婚約者の妹に恋をする姉の婚約者が誕生するなんて、あるわけもなく。呆れるライラネルたちと違って障害がなくなったと言わんばかりの態度の妹に、逆に不快感が浮かぶ兄。
忘れているのだろうが、素っ気なくした相手は兄の弟で、家族なのだ。なぜ、妹はその関連を忘れてしまうのだろう。
両親も姉の婚約者に恋情を向ける妹に不安が募り、一回り年上の男に嫁がせた。同じ歳に近い弟と婚約を解消したからといって、同じ条件の相手が転がっているわけがない。当然、候補は狭まり減る。
自分勝手な結婚適齢期になりつつある妹は、相手からすると関係を進める気のない相手であり、不良債権に見られてしまう。
結婚することも当日に伝えた妹は、どうしてどうしてと馬車をめちゃくちゃに叩きながら、こちらに助けを求めるように見てくる。
「たす、助けてよ!」
「嫌よ」
「なんで!?どうして!?」
「人のものを悪気なく盗む手癖の悪い人と一緒に暮らしたくなんて、ないもの」
「……えっ」
姉の婚約者に夢中な女なんて、どれだけ縁談を組もうと全て御破算にしてしまう。両親にそう説明すると、婚約中の態度を聞いていた彼らはどうしようと悩んでいた。
だから、程よく放置してくれそうな相手を選べばうまく行くとアドバイスしてあげたのだ。親は自分たちが悪者になりたくないから、子供の自分の案を採用した。そういうところが甘い。
なかなか妹の婚約解消に至らなかったのは、婚約解消しても貰い手がいないと薄々わかっていたのだ。ずるい人たちだが、親が子供に嫌われたくない気持ちもわからないでもない。
妹に嫌われても構わないが、親に嫌われるのは避けたいライラネルとそんなに気持ちは変わらないだろう。
ドンドンと叩く音は遠ざかるまでずっと鳴り響いていた。我が妹ながら、自身の婚約者に向ける執着心は恐ろしい。あのまま家に居させ続けたら姉のふりをして彼を騙して、妊娠しましたとでも言いそうで。
婚約者の彼もそんなことがいつか起こりそうな妹の様子に、悩んでいたのでちょうどいい。自らの行いで破談したのだから、まだ貰ってくれる人が居てよかった。これで嫁に行ける身ではなくなれば、確実に修道院だろう。
婚約者がこんなにも協力的なのはわけがある。妹の元婚約者は、婚約を機に別れた女の子と相思相愛だったが、家位の低さで候補にできなかったけれど妹との婚約がダメになって。ダメ元で言ってみたら両親は許可してくれたらしく、最近ようやく婚約に至れたとのこと。
そのお礼なのだそうだ。弟は好きな子と別れて向き合おうとしていたのに、妹はそれを薙ぎ払ったのだ。こちらの婚約者の相手とは少しずつ交流していて、今も温かな関係を築いている。妹も双子であるからと交換が望めるかもしれないという、浅はかな願望を目を光らせて狙っていたこともお見通し。
家族として想っていないが、これだけ長く共にいると知りたくない胸の内だって簡単に看破できるようになる。双子だから敏感に察しやすい可能性もあるが、しかし、それはないだろう。
なんせ、妹の思考は読めるが共感することも、彼女がこちらの思考をある程度予想することもできなかったのだから。しばしば、双子を神秘的な存在にしたがる人は居て。
それを完全に否定しないものの、双子の妹はある意味双子だから期待していたところが、大いにある。双子だから好き、嫌いとかでもない。ただ、家族だから許せないこともある。それだけ。等身大の嫌悪感だ。
人のものを取る身内は裁きたくても裁きにくい。いつか嫁に行くから。父と母の口から出た時、全てわかった。改善するのではなくライラネルの我慢を前提としたものを、彼らは望んでいるのだと。
親は好きだが妹は好きじゃない。子を庇う親の心もある程度は汲んであげられ、その上で自分が嫌われない方法を考えた。別に子供に甘い親なんて、こちらの親だけじゃないのだし。
「強制的に離させておけば両親も目に見えないから、実害もないし。他家に嫁いだからあちらが泣きついてきても、別の場所を勧められるし」
帰ってきたとして、最初はいいかもしれないが当主の交代をしたあとは拒める。親はまだ拒まない。自身の夫になる彼は妹がいる間は別館で二人でいればいい。その場所だけは立ち入り禁止にすればいい。
本館なんてただ、当主がいるから本館なのだ。別館でも構わなかった。仕事が乱れれば親に妹が本館に居て夫に話しかけてきて、二人での仕事が捗らないとでも言えば。
実際仕事が詰まるという実感があるので親も妹ばかりを甘やかしていられないだろう。その時にならないとどうなるかわからないが、妹がいると仕事がうまくいかないというサイクルを繰り返せばわかることだ。
親が大切にしないといけないのは、養ってくれるわけでもなく婚家に帰らない妹でもなく。将来なんの不安もなく暮らすためにお金をちゃんと管理してくれる当主夫妻ということを。今すぐわからせる必要はない。
それに、それを無視してこちらへ害を与えてきた場合の策はある。実家でお金が自由に使えないからと、たまたま姉に会いに行った妹が部屋に来ることになったとして。当主印を目の前に置いておき、これ見よがしにぶら下げていれば。
『これってここに押せば良いのよね?』
などと、ポンと軽い気持ちで押すのが目に見える。そうした瞬間、文書偽造と身分盗用、その他の罪に問える。いくら親でも家族を理由に庇うことはできない。貴族には、して良いことと悪いことが深く分けられる。
その時が妹の真の終わりだ。つらつらと可能性を考えてみたが、未来に起こりうること。一番あり得る話だ。そうでなくとも、婚約者であり、いずれ夫になる男の部屋に行こうとして捕まる可能性の方が一足先に、あり得そうだが。
そんな未来が来ないことが何よりではあるが、あの妹の執着心ならば悲しいことだがやるだろう。人の婚約者を見る目が乙女というより狩人なのだから。ため息を吐くと婚約者の彼が薄いケープをかけてくれた。
ライラネルの婚約者の男の元にも、妹からここは辛いという手紙が届いているらしい。実の姉には届かないのに、不思議なこともあるものだ。
ありがとうと言うと、温かい紅茶も淹れてくれたらしく差し出された。そっとカップのふちに顔を寄せて、顔が鏡のように映る波紋を見つめる。
妹そっくりの顔をゆっくり、さよならを告げて味わった。
最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。自分のフリをされて奪われて怒らない人はいませんよね




