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第1話:泥の中の青春

コンビニの自動ドアが開くと, むせ返るような夜の湿気がどっと押し寄せてきた。

雨に濡れたアスファルトから立ち上る、生臭い匂い。

そして真夏特有の、肌にまとわりつくような空気が肺の奥深くまで突き刺さった。


昼間は炎天下の建設現場で土方仕事。

夜はコンビニの夜勤バイト。

睡眠は数杯のコーヒーで代用し、食事は廃棄の弁当で済ませる生活。

20代の青春と呼ぶには、俺の時間はあまりにも荒々しく摩耗していた。

肉体も魂も、そのすべてが歯車にすり潰されていくような感覚だった。


トボトボ。


トボトボ、トボトボ。


午前3時、コンビニのバイトを終えて家路につく道。

重い靴が、セメントの地面を低く踏みつけた。

一歩踏み出すたびに足首を伝ってくる鈍い痛みが、今日一日の労働量を証明していた。


俺は習慣のようにポケットの中のスマートフォンを取り出し、電源ボタンを押した。

その後、まるで待っていたかのように通知が降り注いだ。


― 【ローン利息納付のご案内:本日24時まで……】

― 【カード決済予定金額:12万円……】

― 【未納のご案内:滞納時、断水措置予定……】


指先で通知を払いのけた。


ツッ。

ツッ、ツツッ。


無造作に弾き飛ばされた通知が、暗闇の中へと消えていった。

数字と督促で埋め尽くされていた地獄のような通知がなくなると、その下に静かに沈んでいた背景画面の写真が姿を現した。


それは、明るく笑っている母の写真だった。

隅の方で光が滲んだように撮られた、焦点すら合っていないぼやけた写真。

いつ、どこで撮ったのかさえ記憶が朧げな、そんな写真が一枚。


「……すぐ帰りますから」


写真の中の母に投げかけた嗄れた声が、湿った深夜の空気の中へ低く沈んでいった。

その一言を吐き出してようやく、こらえていた息を大きく吐き出した。


ふぅ。


長く、とても長く。


肺の奥深くに溜まっていた工事現場での苦役と、コンビニでのストレスが一気に抜けていく気分だった。


カチッ。


スマートフォンの電源を消し、ポケットに入れた。


トボトボ。


トボトボ、トボトボ。


重い安全靴の音がリズムに乗り始めた頃、路地の先に広い大通りが現れた。

そして遠くの方に、古い連立住宅の微かな街灯の光が見えた。


あの横断歩道さえ渡ればいい。

この退屈な徹夜の果て、母が待つ家だ。


辿り着いた角で足が止まった。

視界に入ってきたのは、血のように赤い赤信号。

誰もいない8車線道路の上、ぼんやりと立っている人間は俺一人だった。

通り過ぎる車一台ない静寂の中で、遠くから聞こえてくる野良猫の鳴き声だけが鼓膜をかすめた。


その時だった。


クアアアアアア――!


鼓膜を切り裂くような轟音が静寂を粉砕した。

本能的に首を捻った。

眩しかった。


視界を埋め尽くしたのは、夜の闇を無残に切り裂く巨大なヘッドライトの白色光だった。

そしてその光の渦の向こうに、怪物のような音を立てて千鳥足で突進してくるダンプカーのシルエットが見えた。

それは文字通り、巨大な死の塊だった。


『避けなきゃ。』


頭の中で警報が鳴り響いた。生存本能が脳を切り刻みながら叫んだ。

今すぐ横に身を投げろ、あの軌道から外れろと。


だが、体が動かなかった。

足首に力が入らなかった。

まるで酷い悪夢の中に閉じ込められ、地面に張り付いてしまったかのように。


頭の中が真っ白に塗られた。

山のような借金。絶え間なく降り注いだ督促。

そして……俺がいなくなれば一人残される、あの人。


短い刹那が奇妙なほど長く引き延ばされた。

急いで息を吸い込んだが、酸素は胸の端に届く前に虚空へと散った。


クアアアアアン――!!


世界のすべての色が混ざり合い、視界が反転した。


何か巨大なものが全身を押し潰す感覚。

自分の体が砕ける音さえ轟音にかき消され、まともに聞こえなかった。


体が浮き上がった。まるで重力が消えたかのように、あまりにも軽く。そして虚しいほど簡単に。


同時に、ポケットからスマートフォンが滑り落ちるように脱出した。

スマートフォンは放物線を描きながら、虚空をゆっくりと回転した。

そして。


コツッ。


無情にもアスファルトの上へと落ちた。


ピキッ。


落下と同時に液晶が無残に砕け散った。

四方に飛び散った破片の間から、スマートフォンの微かな光が最期の息を吐き出すように滲んだ。

割れたガラスの隙間から、さっき見た母の写真が見えた。


その写真の中の母は、相変わらず明るく笑っていた。


けれど、何かがおかしかった。

クモの巣のように四方八方に広がった液晶のひび割れが、目元を伝って流れ落ちていた。


それはまるで、そう――。

母が俺の代わりに泣いているかのように。


……


ゴミのような人生だった。


誰かが俺の人生を一冊の本にまとめて書店に出したとしても、おそらく一ページもめくられることなくゴミ箱に放り込まれるだろう。

いや、そもそも誰の目にも留まることなく、隅っこで埃をかぶったまま廃棄される運命だった。

それほどまでに俺の人生には、ただの一行の希望も、劇的な逆転など存在しなかったからだ。


韓国の地図のどこにあるかも分からないような田舎の片隅。そこで俺は生まれた。

そこでは貧乏が日常であり、未来を夢見ることなど贅沢だった。

鼻の先がもげそうなほど酷寒の冬の日。

水道がキンキンに凍りつき、水一滴出なかったあの朝を覚えている。

割れた隙間から染み込む木枯らしを浴びながら、洗顔さえできずに薄汚れた顔で学校へ行っていたあの悲惨な気分を、あんたたちは分かるだろうか。


登校路、子供たちの綺麗な肌と対照的だった俺の身なり。

うつむくほどに鮮明になっていった、古い運動靴の穴。


就職?

大学?

俺のような奴には、ただテレビの中のファンタジー小説よりも遠い話だった。


だが、外が貧困という寒風の吹く野原だったなら、真の地獄は家の中に潜んでいた。


親父は人間というよりは、獣に近い何かだった。

玄関のドアが開く音と共に流れ込んでくる、吐き気のする酒の匂い。

続いて始まる無差別な暴力。

毎晩、狭苦しいワンルームを埋め尽くしていたあの恐怖の騒音たちは、幼い俺の魂をズタズタに引き裂いた。

しかし、その地獄のような空間で俺を支えていた唯一の柱は、母だった。


獣の咆哮の下で俺を抱きしめていた母の痩せた背中。

飛んでくる鞭打ちを全身で受け止めながら、呻き声さえ堪えて俺に向かって「大丈夫、大丈夫」と囁いていた、あの嗄れた声。

母は腐り果てた地盤の上で、俺という惨めな家が崩れないように、自らの身を削って柱を立てていた。


本当、酷い人生だった。

母を置いて先に逝くこの瞬間まで、俺はその柱に寄りかかって生きていただけの無能な息子だった。


母は幼い頃、俺の頭をよく撫でてくれた。

工場で、食堂で、他人の家の裏部屋で転がり回りながら、すっかりたこができた手で。

裂けて割れた隙間に歳月の垢が染み込んだ、傷だらけの手で。

世界で一番大切な宝物でも扱うような、その慎重で優しい手つき。


だが、俺にとってその手つきは、世界の何よりも重かった。

俺を食べさせ着せるためにすり潰した母の青春と、数千回の屈辱が、その手の甲の上のシミのように咲いていた。


優しさが鋭い刃となって俺の首を掻き切るなら、きっとこんな気分だろう。


俺を愛しているというその無言の手つきが、実は俺を生かすために自らを削り取った肉の記録であることを知っているから。


すぐに親父の大きな手が母の髪を荒々しく掴み取った。

続いて弾け飛んだ悲鳴。静かな夜の静寂を無残に引き裂く残忍な騒音が鼓膜に突き刺さった。


「あなた……! お願い……! 子が見てるわ!」


母の絶叫が部屋の中に響き渡った。

体が固まり、その場から動けなかった。まるで石になったかのように。

俺は暗い部屋の隅に虫のようにうずくまり、呼吸さえまともにできないまま、痙攣するまぶたの向こうで繰り広げられる生き地獄を凝視するしかなかった。


ドスッ。

ドスッ、ドスッ。


肉と肉がぶつかり、骨が響く鈍い打撃音。

その音が聞こえるたびに、俺の中の何かがゆっくりと、しかし確実に死んでいった。


『助けなきゃ。止めなきゃ。あの怪物を止めなきゃ。』

頭の中では数千回、数万回も悲鳴を上げながら怪物を止めるために駆け出した。

だが、現実の俺は卑怯だった。

まるで床に太釘を打ち込まれたかのように、俺はただ無能な観察者として残された。


……その瞬間だった。

胸の深い隅っこ、最も暗い隙間から何かがゆっくりと蠢き始めた。

粘ついて熱い感覚。深淵よりも濃く黒い何かが血管を伝って逆流した。


―― 殺せ。


とても低く、静かな声だった。


―― 殺してしまえ。ただ、あの人間を消してしまえ。


歯を食いしばった。口の中で生臭い血の味がした。

瞬間、すべての思考が停止した。

今、俺は何を考えたんだ?


心臓が胸壁をぶち破るほど激しく躍動した。あの怪物を憎みながらも、同時にその怪物を処理する殺意を抱いた『自分自身』が、世界の何よりもおぞましく感じられた。

俺も結局、あの人間と同じなんだろうか。

俺の体の中を流れるこの汚れた血は、とうとう隠すことも洗うこともできない刻印なのだろうか。


……


俺が高校生になる頃、一本の電話がかかってきた。


「……現場で即死されました。」


雨の日の交通事故。スピードを出していたダンプカーとの正面衝突。

警察は形が分からないほどにひしゃげた、無惨な即死だったと淡々と告げた。

俺を地獄に突き落としていたあの巨大な怪物が、鉄屑の間で一握りの肉の塊になったという通報だった。


瞬間、唇の間から妙な音が漏れた。

笑いなのか、抑え込まれた呼吸なのか分からない、微かで不気味な音だった。


心臓が狂ったように鼓動し始めた。

ドキドキ。ドキドキ。


……嬉しかった。

頭で道徳を考える前に、本能が先に反応していた。

ようやく終わった。

毎晩俺を窒息させていたあの生臭い酒の匂いと容赦ない鞭打ち、俺を蝕んでいたあの生き地獄が、これほどまでに虚しく終止符を打ったのだ。


「は…… はは、ははは!」


肺の奥底から抑圧されていた何かが、発作のように跳ね上がった。止められなかった。

目元が痙攣するほど、俺はその死を歓迎していた。


けれど、変だった。

笑いが大きくなるほど、胸の内側は非情なほど冷ややかに空っぽになっていった。

まるで巨大なブラックホールが心臓の真ん中を抉り取っていったかのように、何も残っていなかった。


俺の悲惨な人生を支えてきた二つの柱。

母への切実な憐憫と、親父への酷い憎悪。


俺の世界を支えていたその巨大な憎悪の軸が一瞬にして消え去ると、バランスを失った内面が轟音を立てて崩れ落ちた。


……


葬儀場。

湿った空気に混じった、鼻を突くお香の匂いが短刀のように刺さった。


黒い服を着た人々が近づいてきて、唇だけを動かしながら形式的な慰めをかけた。

だが、俺の耳にはどんな言葉も届かなかった。

ただ、祭壇の上に置かれた遺影写真だけをはっきりと見つめていた。


父親という名の怪物、あの人間だった。

写真の中で彼は不敵に笑っていた。

まるで生前犯したあのすべての悪行が夢ででもあるかのように、何事もなかったかのように平穏な面構えで。


そしてその面構えの下、母が無惨に崩れ落ちていた。


「……うっ、ううっ、ああ……。」


母は獣のような鳴き声を漏らしていた。

節くれだった手で床を掻きむしり、痩せこけた肩をガタガタと震わせた。

その姿はまるで、去っていくあの人間の裾でも掴みたいかのような切実な身振りだった。


「……なんで。」


俺の乾いた唇から小さく呻きが漏れた。


一体なぜ?

理解できなかった。頭の中が怒りと疑問で掻き乱され、破裂しそうだった。

あの人間があんたにしてくれたことが何がある。

あんたの青春を踏みにじり、体に青あざを刻み、苦しみを与えたあの怪物が死んだのに。

なぜあんたは世界が崩れたかのように泣くんだ。


あの地獄で俺を支える柱だと思っていたあんたが、なぜあの地獄の主のために涙を流すんだ。

理解できなかった。本当に、ただの一つも。

母の慟哭が聞こえるたびに、俺の胸の中の柱も共に砕け散った。


……


あの日以来、高校を中退して働き始めた。

仕事が終わる毎晩、古い家計簿ノートを広げた。

擦り切れた紙の上にボールペンの先をぎゅっと押し付け、数字を書き留めていった。

ローンの元金、利息、そして残高。


幸せだった。

少しずつ、本当に少しずつ、俺を押し潰していた巨大な沼が干上がっていくのが分かった。

ヒマラヤのように遥か遠くに感じられた借金の山が、俺の指先で少しずつ削られていった。

まるで俺の首を絞めていた首輪が、一目ずつ緩んでいく気分だった。


和真カズモト…… あんまり無理してるんじゃないの?」


背後から聞こえてくる母の声には心配がこもっていた。


「お母さんも食堂の仕事を少し増やしたわ。だから、あんたは勉強も少しして……。」


俺は母の言葉を最後まで聞かなかった。

代わりに首を横に振り、静かに母の手を握りしめた。


ゴツゴツしていた。数万回の皿洗いと熱い鉄板の前で固くなったたこ。

手首のあたりに勲章のように残った古い火傷の跡。

あえて言葉を交わさなくても大丈夫だった。

その無骨な手から伝わってくる微かな温もりを感じるだけで、俺の心はもう満たされていたから。


昼間は建設現場の砂埃の中で、肩が抜けるほどレンガを運んだ。

夜はコンビニの蒼白い蛍光灯の下に立ち、黙々とレジを守った。


足は象のように腫れ上がり、腰は今にも折れそうだと悲鳴を上げた。

明け方、家に帰れば洗うこともできずに床に倒れ込むように眠るのが常だった。

だが不思議なことに、次の日太陽が昇れば体は再び機械のように動いた。


通帳の数字。

昨日よりたった数万ウォン増えたその数字を確認する時だけは、口の中に溜まっていた疲労の苦みが一瞬で洗い流された。

それは俺のようなゴミみたいな人生でも、世界に何かを積み上げることができるという、唯一にして確実な証拠だった。


仕事が終わった深い夜。

玄関を開ければ、いつも母が俺を待っていた。

他愛もない冗談、迷惑客の話、食堂の厨房長への愚痴のような些細な会話。

古い卓の上に並べられた冷えきったチゲを囲んで向かい合ったその時間だけは、世界中のどんな親子も羨ましくなかった。


だが、あの時はまだ知らなかった。

少なくとも、あの夜、あの狂ったダンプカーが俺の目の前の光を遮るまでは。

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