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084. 終わりと始まり

 



 舞姫として選ばれた方だからなのか、欠片は基本、友歌に逆らわない。友歌の意に添うように、応えるように動く。


 それは、とてつもなく便利で、けれどとんでもない爆弾を抱えることと同じなのだ。引き金を引けば簡単に爆発する、意思を持たない兵器と言っても良い。


 けれど、思考がないわけでないのだと、友歌は理解していた。ただ、友歌の思いを最大限汲み上げてくれているだけなのだ――。





















 *****





















(まだ、足らない…?)




 蒼い草原の中心に友歌はいた。否、今はその蒼も友歌の周囲から消えていっているが、それでも洞窟の大きな部屋の蒼い結晶は数え切れないほどにある。


 胸の内の欠片が、その強さと勢いを取り戻しているのを感じつつ、友歌は奥にある黒い精霊石から目を離さなかった。蒼い煙が流れて行かなくなった今、少しずつだが、溜まった穢《けが》れが流れ出しているのがわかる。


 大きな黒い精霊石と、欠片の大半の力では欠片が勝っていた。しかし、今黒い精霊石を抑えているのは、外殻を覆おうとしている四分の一ほどの結晶。


 今まで、蒼い結晶が抑え、浄化していた黒が勢いを取り戻しているのだ。おそらく、そう時間も経たないうちに広がり始めるだろう。




(まだ…まだ、欲しい…!)




 ――それが不味いだろうことは、友歌もわかっていた。そして、今自分がやろうとしていることが失敗すれば、今までの苦労も水の泡だということも。


 ここで無理をしなくても、あと一月と少し待っていれば、おそらく全ては解決するのだ。疫病は消え去り、二大精霊の祝福が満ち、眠りについていた人々の目も覚めるのだろう。


 待てばいいのだ。この数日見守っていただけでも、欠片の力は明らかに黒い精霊石を抑えつけていることがわかる…そしておそらく、もし疫病を消すことが出来なくても、欠片の力が続く限り闇は外に出てこられない。


 そして、また数千年という単位で、溜められ増幅させられたものを浄化していけばいいのだ。もしかすれば、重ねられる【春冬の祈願】と【朱月の顕現《けんげん》】でさらに短い期間で済むかもしれない。


 ここまで来れたのだからと、この数ヶ月をよく耐え抜いたと、このまま城に帰ればいいのだ。そう、なんの問題もない。




(――冗談じゃない…!)




 友歌だってわかっていた。これはただの我が儘で、努力が実らないからと駄々を捏ねているだけなのだ。


 それでも、どうしても納得がいかない。否、二大精霊に期待をかけるのはわかるし、それについては友歌も何も問題はないのだ。


 ただ――誰かの思惑通りになるというのが、我慢ならなかった。




 友歌が疫病を退けられれば万々歳。もし無理でも、結局は二大精霊がなんとかしてくれる。


 評判が城に返っていくことに、友歌も異論はない。この数ヶ月、精霊としては役立たずであっただろう友歌を、勘違いしているとは言え無茶も言わずに危険から遠ざけてくれていたのだ。


 それが、結果として国の名が売れることに繋がるからとは言っても、そこは本気で感謝すべき所なのだ。友歌自身にも、周囲にも実質的な危害は及ばず、ただ精霊としての名がついて回るだけなら、いくらでも利用すればいいと友歌も思う。


 けれど――流れに身を任すのは、意思を押し殺すのは、とても大変なことなのだ。とくに、やりたいことがある場面では。




(…ごめんなさい。)




 ここも、流されておくべきなのだろう。城の、ラディオール王国の皆のことを考えれば、ここは二大精霊に頼っておいた方が確実だ。


 レイオスが弱ってしまったことだって、言ってしまえば友歌の我が儘から始まったことだ。疫病を退けたいのだと、願ってしまったから、レイオスも引きずられて無茶をした。


 友歌一人に影響があるなら、まだ自業自得だと笑ってしまえた。けれど――頼ったわけではないとは言え、結果的にレイオスにまで背負わせてしまった。


 眠っているだけだからまだいい。もしこれが、本当に取り返しのつかないものだったらと思うと、友歌は胸にヒヤリとしたものが落ちるのを感じるのだ。




(ごめんなさい…!)





















 それなのにここで退《ひ》くのは、自分自身が許せなかった。





















『良いかい友歌、力なんてのはね、結局、我が儘を押し通すものだ。』




 ふと、笑う祖母の顔を思い出す。そして、こうして思い浮かべるのも、本当に久しぶりだと、友歌は目を細めた。




『純粋な力も、言葉も、権力も…自分の思うとおりに我が儘を貫けるのが、力だよ。』


『…?』


『ふふ、難しいかい?

 今はわからなくて良いけど、この先“力”を持つことがあったら、よく覚えておくんだよ。


 本当の意味での我が儘なんて、そうそう叶うものでもないからね。』




 首を傾げる友歌に、優しく笑った祖母は、そっと頭を撫でた。柔らかで、暖かかった手の平…瞳を閉じて、友歌はふっと、息を吸い込む。




(うん、そうだね、おばあちゃん…今なら、使っても良いかなぁ?

 私自身の力じゃないけど、ずっと拒んできたものだけど、






 ――このままじゃ、私は私を許せない。)






 レイオスが居なければ、契約のせいで、力は解放できない。確かに、契約は精霊の力を抑えるもの…けれど、ただの精霊のための契約が、欠片とはいえ二大精霊に効くものだろうか?


 否…そんなもので縛れるものではないことを、宿す友歌自身がよく知っている。ならば何故、舞姫の修行の時、欠片の力を使えなかったのか。


 答えは簡単、ただ、欠片が外に出ようとしなかっただけのこと。


 契約が、もともとないとは言え、友歌の精霊としての力を制限するものであることは間違いない。つまり、友歌の中に入り込んだ欠片にもそれは影響する。


 もちろん、それは、猛獣を紙で作った檻に捕らえるようなものだ。つまり、形としては存在するものの、対して意味はない。


 けれど、それを壊してしまえば、欠片にはなんともなくても、友歌に全てが返っていく。欠片は、友歌自身のために、自ら捕らわれていてくれたのだ。




 召還主であるレイオスが触れることで、一時的にそれが解除される。レイオスが欠片の使用を認めることで、紙の檻は扉を開くのだ。


 ――それが、離れて出来ない道理はない。契約とは、精霊をこの世に留めると同時に、召還主との繋がりでもあるのだ。




(レイ…力を貸してね。)




 今までは、一人で力を解放しようとしていた。けれど、“精霊”である友歌は、それでは駄目なのだ。


 召還主であり、鍵を持つレイオスが居て初めて、心優しい蒼き猛獣は、外に出てくれるのである。じわりと、暖かいものが胸に広がり、熱いほどの痛みが、額《ひたい》で疼く。


 けれど、気にせずに友歌が瞳を開けば、道中の時よりは小さな、けれど強く激しい蒼が見えた。地を見れば、十分なほどに広いスペースが出来ている。


 友歌は、そっと体勢を、息を整えた。




(――私が操れる程度の欠片だけじゃ、まだまだ。)




 くん、と手首を回す。




(歌っても、まだ足りなかった。)




 そのまま、体を回転させる。




(なら――踊りも加えればいい。)




 息を深く吸い込んだ。




(歌も舞いも、大好きなんでしょう?

 頑張るから――拙《つたな》くても、失敗しても、心だけは込めるから!)




 視線の先には――闇を伸ばし始めた、黒い精霊石。




「――ありがとう ありがとう


 感謝を 伝えよう


 歌って踊って みんなで祝おう


 春の風も 夏の雨も


 声を合わせて 歌ってしまおう


 秋の葉っぱも 冬の雪も


 みんなで手を取り 踊ってしまおう


 ありがとう ありがとう


 感謝を 伝えよう――」




 友歌が持っているものなど、これしかないのだ。仮初めとは言え、舞姫と定めついてきれくれた欠片と、歌と、付け焼き刃ながらも様になってきた舞い。


 所詮は“欠片”なのだ。二大精霊が力一杯にばらまいてくれる力とは比べものにならない、人間であっても操れるくらいに削られた欠片。


 ならば、それを効率よく解放していくしか、友歌には出来ない。歌に乗せて、舞いで表現して、欠片に祈るしか出来ないのだ。




「――悲しいことも 怒ることも


 今は忘れて 祝ってしまおう


 明日から 頑張るよ


 みんなで一緒に 頑張っていくよ


 だから今は 祝ってしまおう


 みんなに感謝を ありがとうを


 伝えられるだけ 伝えてしまおう


 声を合わせて 歌ってしまおう


 手を取り合って 踊ってしまおう


 ありがとう ありがとう


 感謝を 伝えよう――」




 これしか出来ないと、必死になるしかないのだ。




 そうして、ふと、視界がぐらつき、気付けば友歌はその場に倒れていた。まるで、糸が切れたかのように、がくりと力を失ってしまったのだ。


 欠片を力一杯解放してしまい、また、歌い、舞ってしまったために、前以上に体力を使い果たしていた。着いてきてくれた精霊騎士が、慌てて駆け寄ってくる音が聞こえる中、力が入らない体を横たえ、友歌はそっと瞬きをする。


 視界の端で、黒い精霊石のある部屋が、蒼く光っているような気がして、友歌は落ちそうになり瞼を必死に繋ぎ止める。けれど、それを確かめる前に、友歌の意識は黒く塗りつぶされた。











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