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075. 送られた人

 





 初めて城に疫病の報告が入ったのは、流行り初めて三日ほどらしい。なぜそんなにも早かったかと言うと、鳥便《とりびん》と呼ばれる、いわゆる伝書鳩のように手紙で連絡をとる手段らしい。


 もちろんこの世界に鳩は存在しないので、人に慣れやすく、またとても速い種類の鳥を使うのだという。決まった場所を覚えさせれば、基本、忠実に届けてくれるらしい。


 ――それが途絶えたのは、その一週間後。そう、おそらく、二週間とたたないうちに、この街は機能しなくなった。





















 *****





















 まずは、ここに送られた研究者を探そうということになった。そう、疫病の存在が知れて、正式にここまで踏み行ったのは、友歌たちが初めてではない。


 それはそうだ、原因を探るにもまずその懐《ふところ》へ入らなければならない。もちろん人を行き来させては感染の危険もあるため、近場に居たという休暇中の精霊医師を送り込んでからの連絡は鳥便だ。


 食料は全て、竜便《りゅうびん》と呼ばれる、今度は荷物を専門にする獣たちが空から降ろす。操縦者はおらず、地図を見せて指さすだけで運んでくれる知能を持つ獣たちであるからこそ出来たことだった。


 もちろん獣だけでなく竜も居るそうなのだが、あまりに稀少すぎて捕獲が禁じられているため、昔の呼び名だけをそのまま使っているらしい。竜に準ずる飛行速度に知能、外敵から狙われても回避・もしくは撃退出来るレベルの獣を使う、いわば上級階級用の運び屋。


 荷物には全て、木の精霊の仲間である風の精霊と水の魔法をかけるため、荷物が崩れる心配もなければ、中身が腐ることもまずない。けれど――物資を願うもの、被害の状況、疫病についての些細なこと…一日と間も空かずに来ていた鳥便は、ぱったりと途絶えた。


 こちらから送っても、手紙をくくりつけたまま戻ってくるという。物資だけは送り続けているが、上空から放るだけのそれは、近隣の村や街とは違い、無事届けられたか否かの連絡すらこなかった。




「竜便の獣が荷物を落としていた場所に行きました。

 軽く一ヶ月、この街の人々が暮らせる分だけの量がそのままの状態です。」




 大きな木箱を、五人で二つ持ってきた騎士たちは息を切らしながら言った。頷いたレイオスは、全ての物資を運ぶよう言い、難しい顔をして考え込む。


 ――やはり、急激に病の進行が早まったとしか考えられなかった。何通もの報告には、症状が詳しくなって、増援を願うものが増えてきた以外に、変わったことはなかったという。


 竜便は違うが、鳥便は誰でも使え、可能であるなら自ら捕まえて仕込むことだって出来るのだ。幼い子供さえ知っているそれがぴたりと止まるなど、普通はありえない。


 街全体が、一気に沈黙化した。でなければ、やはり説明がつかないのだった。




(…でも、どうやって…?)




 逆を言うなら、個々の免疫に偏《かたよ》るであろう疫病が、何故誰一人連絡が取れなくなるほどに沈黙させられたのかも説明出来ない。友歌の地球の知識であっても、流石にそんな事例はなかった。


 たとえば、これが毒なら、同じくらいの体型、性別で時間は揃ってくる。けれどもちろん、街にはいろんな人々が住んでいるわけで、しかもこれは毒ではない。


 ――ただの毒ならば、欠片がとっくに退けられているはずなのだから。そして、これが毒でなく疫病なのは、城の精霊使い達が口を揃えて肯定した。




(…この街にあって、他にないものって言ったら…。)




 視線を動かせば、簡単に目に入る白い岩山…やはりこれしかない。四方を山で囲まれたラディオール王国は、けれどそれに面している村や街は案外少ないのだ。


 それは住みにくいからに他ならないし、二大精霊の加護で気候にも恵まれ、山の幸も穀物も、動物もよく育つ。一応は鉱石などの産地であるが、それを生業《なりわい》としている者はあまりいないのだ。


 この付近もまた、この街以外に山の麓にある集落は少ない。そこまで考えて友歌は、ふと、炭坑でありがちな有害物質が頭に浮かんだ。




(…なんだっけ…山の中に空洞があって、そこで育ったガスが一気に炭鉱内に流れ込むとか、あった気がする。)




 うろ覚えの記憶。おそらく、フィクションものの漫画や小説にも影響されているだろうそれは、友歌にも、自信のないものだ。


 情報社会となった地球で、正確なものと捏造のものとの区別が薄くなってきた。それっぽい現象をそれっぽく想像してそれっぽい文にしてみました、なんてものも溢れかえっている。


 それが降り積もった記憶の中。長くそういうものに触れてこなかった友歌には、それが漫画から得たものか小説から得たものか、はたまたドラマか映画かドキュメンタリーだったかなど思い出せなかった。


 けれど――案外、的を射ているのではないか?




「あの…レイ、」


「まだだめだ。」




 声をかけた友歌だったが、瞬時に却下を食らう。目を丸くして、山からレイオスに視線を戻せば、レイオスは友歌がしていたように遠い山を見上げていた。


 ――レイオスも同じ考えに行き着いたのだと察した友歌は、頷き、また山に視線を戻す。削られた山は白く陽を返し、ただそこにそびえ立つ。




「…送られた精霊医師を捜させてる。

 おそらく、診断書や日記が残されているはずだ。」




 近場にいた休暇中の精霊使いにしてみれば、災難としか言いようがなかっただろう。けれど、城に仕える以上は応えなければならない。


 そのための高給取りで、そのための知識だ。また、当時の詳しい状況などが書かれた日記は貴重な資料となるため、教養を受けた者はそういう癖がついているらしい。


 ある意味先陣を切ることとなったその人以外に、城から人は送られなかった。手遅れになるかもしれないとは思いつつ、不確定要素の多い中、貴重な精霊使いの無謀投入は避けたかったようである。




「出来る限り急いでここまで来た。

 けれど…ここからは、用心に越したことはない。」




 静かな声に、友歌は頷く。次々と物資が街の中央に運び込まれ、山を築いていった。


 それを眺めながら、友歌はあまり反応がなくなったサーヤに気付き、山から目線を逸らして振り返る。――いつも通りの青い瞳が、じっと山を見つめていた。




「…サーヤ?」


「え、…あ、はい、なんでしょう。」




 現実に戻ってきたらしいサーヤは、友歌に視線をやって首を傾げる。やはり、少し顔色の悪いサーヤは、この街の中ではさらに儚く見えた。


 もちろん、疫病に感染した者に比べたら血色が良い。けれど、それ以上にいつも明るいサーヤを見慣れているため、違和感を感じるのだ。


 ――調子が悪いのか、とは聞かない。十中八九、友歌にかけられている体力の減りを誤魔化す魔法のせいだろうので、サーヤを問いつめることは出来ないのだ。




「どうしたの?

 何か、感じるものでもある??」


「…いえ、そういうわけではないのですが。」




 さらに首を傾げ、サーヤは困った顔で笑う。




「ただ、山に…この場合は炭坑でしょうか?

 さすがに、そこに入り込む準備はしてこなかったなぁ、と。」


「…いや、まあ、普通はそうだと思うよ。」




 疫病を退けに行くと言って、誰が登山、もしくは作業服を持参すると言うのだろうか。相変わらず真面目なサーヤに、友歌は苦笑いを返した。




「まあ、それくらいはこの街にあるだろう。

 何せ、それで稼いでいる街だ…服屋にでも行けば見つかるさ。」


「ですよねぇ…でも、折角ならお父様から頂いた登山道具を使いたかったなぁと。」




(…頂いた登山道具?お父さんから??)




 いったい娘に何をさせたいのだろう。というか、貴族だと言うのにむしろお父上が何をしているんだ?


 疑問符を浮かべる友歌に、けれど、レイオスは面識があるのか、「ああ、」と頷いた。




「なるほど…あの人、いろんな専門職の道具や服を集めているからな。」


「収集家も、あそこまでいくと病気です。」




(…確かに、広いジャンルだ。)




 普通なら、そのどれかを極めたりするものじゃないのか。しかもそれを、サーヤにも贈っているらしい。


 ――けれどそれなら、道具の使い方などはサーヤがわかるはずだ。おそらく、サーヤも山を見ながらそれを思い出し、おさらいしていたに違いない。


 相変わらず有能で頼りになるサーヤに、会ったこともないお父上の顔を、プラスの意味で見てみたいと思った友歌だった。











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