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073. マイペースに

 



「うう…へこたれません…!」




 くらくらとする頭でレティは決意するが、アリエラとイルエナに肩を押され、思わず座り込んだ。双子は苦笑気味にその様を見つめ、ため息を吐く。




「ちょっと頑張り過ぎよ?

 精霊様に頼られて嬉しいのはよくわかるけど…。」


「油断大敵…少し休んで。」




 次々に繰り出される息の合った言葉に、レティは反論する気力もない。座らされた衝撃で、貧血気味の視界は白黒で埋め尽くされていた。




「…精霊様が私を頼りにしているのです~!」




 それでも抗議の声を上げるレティに、双子は今度こそ苦く笑った。





















 *****





















 友歌とレティは、夜、欠片の同調と“思念の腕輪”を使って連絡を取り合っている。もちろんそれだけではなく、二人ででしか出来ない舞姫の練習をするためだ。


 遠くに居ても脳裏に互いを描けるそれは、離れてしまう二人にとっては最後の頼みの綱である。舞姫にとって大事な時期に友歌は旅に出ることとなり、それでは舞いを覚えることもできないからだ。


 “春冬の舞姫”の舞いは、特別なものだという。歴代の舞姫たちの記憶にしか残すことは出来ず、人の記憶にも書物にも、舞姫の舞いは記録出来ないのである。


 そして、友歌の傍にその舞姫はいないのだ。つまり、レティから伝えてもらわなければならず、イメージを伝える意味でも腕輪は役に立っていた。




 そんな高性能な腕輪は、数週間前、レティにとてつもない衝撃を与えることとなる。――友歌の欠片が、その力を解放出来るようになった、と。


 それは微力ながら、レティにもうっすらと感じられた。けれど、意図しない繋がりは小さな違和感しか生み出さず、その時は流してしまったのだ。


 夜、告げられた言葉に、レティは歓喜のあまり叫ぶことをこらえるのに必死だった。友歌が欠片の力を使えないことに気を病んでいたのは知っていたから、それが自分のことのように嬉しかったのだ。




「…精霊様のイメージでは、もっとすごかったですのに。」




 さらに後日、レティは友歌に頼まれ事をした。いたってシンプル――レティも一緒に、欠片を解放してくれないかということだった。


 時間は一緒でなくていい。けれど、毎日一度、春の精霊シュランの欠片をラディオール王国に満たしてほしいのだと。


 二つ返事で了承したレティだったが、そこで難関が立ちふさがった。それは、友歌と同じ、体力が奪われていく不便さ。


 気力は有り余っている。遠く危険な所で頑張っている友歌の手伝いが出来るならと、張り切っているのも自分でわかっていた。


 けれど、体力のみが削られていくそれは、正しく心と体が一致していない。アンバランスなそれは、脳に違和感を覚えさせるため、調子が悪くなるのも当然だった。




 が、友歌はそれ以上に力を解放することを望み、欠片もそれに応えてみせたようである。ほとばしる蒼い光は、今までレティが感じたことのないほどに強いもの。


 友歌が伝えるイメージでさえ、そんな印象を受けたのだ。実際、傍にいるサーヤやレイオス、騎士たちがどのように感じたのか、レティは羨ましくもあった。


 けれど――今のレティを圧倒的に上回るそれは、一気に差を縮められたどころか、置いて行かれたような気さえする。




「…精霊様には届きません。」




 一日に一度。レティはその言葉通り、その一度を全力で行っているつもりである。


 友歌と同じく、しっかり眠って次の日になっても回復しきれないほどには欠片も推し量ってくれているのだ。それなのに、友歌のような、目に見えるまで濃縮されているかと言えば、確実に違う。


 ちびちびとカップの紅茶を飲むレティに、アリエラはぽん、と頭に手を乗せた。




「そりゃあ、“精霊様”だもの。

 どの舞姫たちより、相性は抜群でしょうよ。」


「…レティさんは、別の精霊も宿している。

 反発しているのかも。」




 イルエナも頷き、アリエラの言葉に肯定してみせる。




「以前の舞姫もそうだった…。

 精霊を宿す舞姫は、体の中で欠片と精霊が居場所を取り合う。


 火と春、水と冬の属性ならともかく、レティさんは木…おかしくはない。」




 イルエナの仮説に、今度はアリエラが頷いた。




「そういえば、私たちに代が映った後も悔しがってたわねぇ、先輩。

 対《つい》は平民の出だったものだから、欠片の解放は彼女の方が凄かったらしいわ。


 でも、負けん気も強くって…まあ、年の終わりくらいには同等くらいになってたようだけど、貴族のプライドもそこまでいくとすごい…って、ごめんなさい、貴女もだったわね。」


「い、いえ…身分の高い方は、やはりそれに見合った風格を身につけますので。」




 “先輩”の弁護をしつつ、レティは思わぬ先々代の舞姫の情報に驚いていた。平民と貴族…普通なら交わらないはずの二人が舞姫に選ばれたのは当時の話題だったが、まさか貴族の令嬢がそんな対応をするとは思っても見なかったのである。


 普通、貴族というのは平民を下に見る。もちろん見下す意味を込める者もいるが、この場合は庇護すべき対象としてだ。


 つまり、貴族は平民のすることに一々構わないし、基本的に良くも悪くも放っておくものなのである。領民への指導はしつつも、同等を見ることはまずないのだ。


 けれど、対抗心を燃やすということは、そんな壁も取っ払ってしまったということ。貴族にとって、平民のことは“流す”対象なのだが――“先輩”は、対にそのような態度は取れなかったらしい。




「…その、“先輩”というのはどのような…?」




 サーヤとレティの家は中流貴族で、基本、そのような令嬢は皆、修行と称して女中になる。一人娘の場合は婿を取らねばならないためそれはないが、次女や三女は、必ずと言っていいほど城に働きに出るのだ。


 自分で手を使い、動き回って仕事をすることを覚えれば、下手なプライドは消え去る。そんなものを抱いていては、女中なぞやっていられないからである。


 けれどおそらく、レティの記憶が正しければ、“先輩”は上流の御方だったはずだ。上流ともなれば、たとえ次女でも三女でも、貴族同士の繋がりを強化するためか、もしくは強力な精霊使い、そして精霊石を生み出すためにとっておかれる。


 レティの疑問に、アリエラは首を捻った。




「まあ、私たちも冬月にしか会うことなんてなかったし、うろ覚えだけど…。

 でも、“貴族令嬢”を地で行っているお人だったわね。」


「…端から見ていて、気持ちの良いくらいに貴族だった。」




(……どう反応を返すべきでしょうか。)




 弟が家督は継ぐとはいえ、貴族の端くれだと自負するレティ。気にするなとは言ったが、平民の意見丸出しなそれに、微妙な気持ちになる。


 イルエナまでもが頷き、足された言葉に、レティは空笑いをするしかなかった。




「まあでも、だからこそ“春月の舞姫”さんとは上手く噛み合ってたわ。」


「…面白かった。」




(面白いってなんですか!?)




 レティがイルエナの意見に絶句していると、アリエナがくすりと笑う。




「いいコンビだったわよ。

 平民出の素朴で堅実な意見と、貴族ならではの芸に富んだ見解…あれは最強だったわね。」


「舞姫のこと以外でも、あの二人のアイディアは凄かった。」




 そういえば、先代の彼女たちが双子の舞姫と呼ばれているのに対し、先々代は舞踏の舞姫と呼ばれていたことを、レティは思い出した。


 もともと楽器を作る仕事をしていた春月の舞姫と、幼いころから歌や舞いを嗜《たしな》んでいた冬月の舞姫。平民と貴族がぶつかり合った生の意見は、当時の芸に変化をもたらしたほどで、それもまた話題になっていた。


 それは次世代に教える時までそうだったようで、レティは懐かしそうに語る双子に笑みを漏らす。




「…って、先輩たちのことはどうでも良いのよ!

 そんなわけで、精霊同士が反発しちゃうのはわかってたことだから!!」


「出来る限りで、出来る精一杯のことを。」


「……そう、ですよね。

 …この子はもとから力を貸してくれているんだし…折り合い、見つけないとですよね。」




 右手の甲を撫で、レティは頷いた。明るくなった表情に、双子は笑う。




「さて、今日はこれくらいにしましょ!

 まあ、それでも気になるなら、あと一月以上は精霊様も帰ってこれないし、先輩みたく努力して驚かせてみたら?」


「…はい、頑張ります!」




 精霊である友歌が、精霊同士の反発など知らないはずがない。それでもレティに頼んだというからには、それほど助けてほしいということであり、頼りにされているという意味だ。


 レティはそう解釈し、握り拳を作る。――レティに頼んで良かったと、そう言わせてみせます…!


 気合いの入ったレティは、勢いよく立ち上がろうとして…力の入り方がおかしかったらしい体から力が抜け、再び椅子に沈むことになるのだった。











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