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012. 道作り

 





「精霊様、お届け物が複数点ございます。」


「…………。」


「まず衣装系統が二十五点、髪飾りが十三点、首飾りが九点、耳飾りが…、」


「ま、待って覚えきれないから良い!」




 左様でございますか、そうサーヤは綺麗に礼をとると、他のメイドと共に持ってきた箱という箱を積み上げ片付け始めた。


 それを唖然とした顔で見つめながら、友歌は頭痛がしそうな米神を揉む。──朝っぱらから一体、どういう事だ…。


 友歌の疑問を感じ取ったのか、にこりと笑ったサーヤが自慢げに口を開く。




「皆、精霊様の歌に感銘を受けた貴族からのものです!」




 ──もといた場所に、もとい持ち主の所に返してらっしゃい!思わず言いかけた友歌の頭は、混乱の極みに達した。


 部屋の隅に積み上げ終わり、テキパキと朝食の準備をしながらサーヤは、項垂れた友歌に嬉しいのですねぇなんてのんきに考えているのだった。





















 *****





















 宴の場での友歌の歌は、好評すぎると言ってもいいくらいであった。今まで触れたことのない歌に、貴族達は心の底から揺さぶられた。


 旋律、歌い方、呼吸──地球にとっては当たり前に慣れ親しんだそれらだが、この世界にはないものだったらしい。


 地球は、娯楽に溢れているのである。その中で、古くから歌が生き残ってこられたのは発展を遂げてきたからに違いない。


 時代に合わせて、思想に、世代に…そうして、歌は娯楽競争の中で独自のジャンルを確立したのである。


 よく聞くフレーズだが、地球は魔法ではなく科学をとった。だからこその探求心、機械に溢れ寂れているからこその満ちる事ない欲。いわば、地球は新しいものを求め、この世界は守り伝える事に重きを置いた差であった。




 だからこそ友歌にとっては、ただ歌い慣れた歌を、ただ歌っただけなのである。このような貢ぎ物は、はっきり言って要らない。


 友歌が受け取って良いのは、賞賛と酷評、新しい歌との出会いである。──これは祖母だけではなく、母からも厳しく言い聞かされている事だった。




『周りに理解されない事は悲しいよ、友歌。

 けれど、ただ褒める者より、何処が悪いか言う人の方が、きっとずっと友歌のためになるからね。』


『歌との出会いは必然で運命。いい、友歌?

 あなたも歌手を目指すなら、歌を歌う権利よりも尊い価値のあるものなんてないと思いなさい。』




 友歌自身もそう思っている。歌が好きで、歌が歌えて、歌いこなせる声を持っている…なんと幸運な事か。


 だから、装飾品はいらないのだ。確かに雰囲気作りで必要な時もあるが、着こなす量を超えたらそれはもう“歌のための服”ではなく、“着飾るための服”になってしまう。


 そんな寄り道は、夢に一直線な友歌にとってありがた迷惑なのだ。息を吐いて、友歌はその箱の山を見つめる。




(…これ、受け取った時点で何か要求されそうだよなぁ。

 だって、普通に考えてこれ賄賂だもんね…私のご機嫌とっておいて、レイに意見を通して貰おうって事かなぁ。)




 感銘を受けたというなら、自分で来い。確かに、言葉に出来ないから贈り物を、なんてロマンチックな事もあるんだろうけどこれは確実に違う。


 いやでも、もしかしたら本当に感動してくれた人のものも混じっているのかも…。実際に講評してくれないのも、王子の精霊という名前が壁になっているのかもしれないし。


 友歌の思考は大迷路である。考え込んでいる姿に、朝食を出し終えたサーヤはにこりと笑った。




「全て、精霊様の歌に捧げるもの…だそうです。

 気軽に、その日の気分に合ったものをお選び下さい。」




(…ん?)




 言い方にひっかかりを覚えた友歌は、サーヤの言葉をもう一度脳裏に描く。──“精霊様の歌”に捧げるもの…。


 瞬間、はっときた友歌は、サーヤに尊敬の瞳を向けた。サーヤはそれを受け、ほんの少し得意そうな笑みを向ける。




 つまり──これは賄賂ではなく、純粋に歌に感動したからという気持ちの表れ。


 何せ、“歌”に誓ってしまった。“捧げるもの”だと、他ならぬ精霊に言ってしまったのである…捧げるとは、相手のものになるという事。つまり、受け取ったらそれはもう相手のもの。


 これは事前に約束事がなければ何に誓わなくてもそうなのだが、賄賂の意味を深く知る者ならば受け取った時点でそれが成立してしまう。けれど、この世界では──“精霊”が居る世界ならば、話は違う。




 相手は至高の精霊、捧げたものは自分のものなのだから、なんて言うのは通じない。そう、他に意味はないのだと言葉にした事で、文字通りただ“捧げる”といった意味しか持たなくなったのである。


 精霊に嘘はつけない…たとえその場に友歌がいなくとも、友歌が“精霊様”とされている今、それは制約の鎖となる。


 腹黒い魂胆で来た者には僅かな制裁を、けれど心から贈りに来た者にとっては、なんの苦にもならない言霊。




 友歌は、サーヤがその言質《げんち》をとってきたのだと気付いて、キラキラとした目を向けたのである。




「精霊様の事は、レイオス王子から心の底から大切に…と仰せつかっております。

 余計な気苦労など、背負わす予定はございません。」




(レイっ、サーヤをお世話に任命してくれて本当にありがとう…!)




 本当にそう思っているのだろう、にこにこといつもより三割り増しに笑顔のサーヤに、友歌は姐さん!と抱きつきたくなった。


 友歌としては、頼れる人が増えるのは心強い事である。王子の精霊なんていう利用抜群な位置は、精霊であるという肩書きよりもマイナス面が大きい。


 ──無事に、何事もなく地球に帰るには、そんなものに振り回されるわけには、いかない。




「さあ、お食事が冷めてしまいます…紅茶を淹れ直しますね。」


「うん、ありがと。」




 頷いたサーヤは、いつも通りの動作で、置いてあったカップを下げたのだった。





















 *****





















「書庫へ…?」


「うん、この世界のこと、まだよくわからないから。」




 午後になり、訪ねてきたレイオスに友歌はさっそく帰るための手段探し──名目、世界の事を知るために、図書室のような場所に行けないかと聞いてみた。


 書庫…なんとも古びたネーミングだと友歌は感じたが、お城に図書室、という言葉もあまり似合わないかもしれないと思い直す。


 定位置となった、窓に近い場所にあるテーブルと椅子に座り友歌は手を合わせた。




「本音を言うと、ちょっと暇というか、退屈というか…駄目?」


「…本をこの部屋に持ってくる、というのは嫌なんだな?」


「…………はい、その通りです。」




 別に持ってきて貰っても構わないのだが、自分で手にとって読むものを選ぶのも醍醐味だと友歌は思っている。


 それに、持ってきてもらうのでは、どうしても内容が偏るだろう。好きな著者だったり、読んだ事のある本だったり。


 それでは、範囲が狭まってしまう可能性がある。友歌は、それを危惧していたのだった。


 友歌の仕草に、レイオスは少し考える。──歩き回ってもらうのは、問題ないだろう。顔合わせとでも言うべき宴はすでに終わったし、それによって正式な護衛も近々選べる事となった。


 王子の精霊という、ラディオール王国の切り札とでも言うべき位置に定まってしまった友歌は、これから城の中だけで過ごすと言うことが難しくなるのだ。




 そう、政治に参加する事はないにしても、王族の仕事とでも言うべき行事や式典などには出席して貰わなければならないかもしれないのだ。


 通常、召還者と精霊は一心同体とでも言うべき姿となる。けれどそれが出来ない友歌は、出来る限りレイオスと共に行動するという義務を負う事になるのだ。


 その事は友歌に確認済みである。それは、城の中ではまだ許されるが、民衆の前ではそうもいかない。──間違っても、精霊の心がレイオスから離れている、などど言った感想を持たれるわけにはいかないからだ。




 確かに、慣れていってもらった方が良さそうだ、そうレイオスは考え頷いた。友歌は内心ガッツポーズを決めていたが、流石に表には出さず頬を緩ませるだけに終わらせる。


 以前頼んでおいた料理関係の本も、後少ししたら届くらしい。


 友歌は、少しずつ帰る道が出来はじめているような気がして嬉しかった。そのまま、一直線に道が繋がれば言うことはない。




 ──召還…そう、召“喚”でないなら、望みはあるのだから。


 友歌は、書庫にある本の種類などを聞きながら、見え始めた未来に思いを馳せていた。











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