表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された翌日、私は王宮の墓場に就職して定時退社を選んだ  作者: 九葉(くずは)
SS

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/41

SS : ルンと過ごす、ある休日の三度寝計画

SS書きました!!

休日の朝における最大の敵は、太陽の光ではない。

ましてや、目覚まし時計の音でもない(そもそもセットしていない)。


私の安眠を妨げる最強の敵、それは――。


「……キュウ!」


腹部に感じる、ずしりとした重みと、湿った鼻先の感触だ。


「……うぅ……ルン、まだ寝かせてください……」


私は布団の中から手だけを出し、お腹の上に乗っている「それ」を押し退けようとした。

しかし、相手は伝説の幻獣ダストドラゴン(猫サイズ)。

鱗のついた体は意外と重く、そして体温が高い。

まるで湯たんぽが意思を持って暴れているようだ。


「キュウ、キュウ!」


「……ゴミは逃げませんよ……」


私が抵抗していると、背後から伸びてきた太い腕が、私とルンをまとめて抱きしめた。


「……エリアナ。ルンを無視して、二度寝しよう」


クロード様の寝起き特有の、低く甘い声が耳元をくすぐる。

彼の体温と、ルンの体温。

前後から挟み撃ちにされ、私は蒸し焼き状態だ。


「クロード様……苦しいです。ルンが重いんです」


「ん? ……こら、ルン。ママの上に乗るな。そこは私の場所だ」


クロード様がルンの首根っこを掴み、ひょいとベッドの端へ移動させた。

そして、空いたスペースにすかさず自分が滑り込んでくる。


「……よし。これで平和だ」


「貴方も重いですよ」


「愛の重さだと思ってくれ」


彼は満足げに私の首筋に顔を埋め、深呼吸をした。

休日の朝の、いつもの光景。

本来ならここで甘い二度寝タイムに突入するところだが、今日はそうもいかなかった。


「キュウ〜……」


ベッドの端に追いやられたルンが、悲しげな声を上げた。

そして、つぶらな瞳で辺りを見回し――ターゲットを見つけた。


クロード様が脱ぎ捨てた、シルクのナイトキャップだ。

その先端についている、フワフワの飾りタッセル

それがルンには、極上のデザートに見えたらしい。


「あ」


私が声を上げる間もなく。


パクッ。


「キュウ!」


「……ん? 何か音がしなかったか?」


クロード様が顔を上げる。

そこには、ナイトキャップの房を食いちぎり、モグモグと美味しそうに咀嚼しているルンの姿があった。


「ああっ! 私の安眠グッズが!」


「キュルル〜」


ルンは悪びれもせず、尻尾をパタパタと振っている。

どうやら、最近は埃だけでなく「布製品(特に高級品)」の味も覚えてしまったらしい。

困ったグルメだ。


「……はぁ。起きますか」


私は観念してベッドから出た。

これ以上寝ていると、部屋中の布製品がルンの胃袋に消えかねない。


          ◇


リビングに移動し、ソファでくつろぐ。

結局、三度寝は諦めたが、パジャマのまま過ごす権利は放棄していない。


クロード様は本を読み、私は編み物をし、ルンは部屋のパトロール(掃除)に勤しんでいる。


シュッ、パクッ。

「キュウ!」


ルンがカーペットの隅に落ちていた糸くずを見つけ、瞬時に吸い込んだ。

素晴らしい吸引力だ。

我が家の床が常にピカピカなのは、彼のおかげである。


「……優秀だな、ルンは」


クロード様が本から目を離さずに言った。


「私のナイトキャップを食べたこと以外は、完璧な同居人だ」


「根に持っていますね」


「気に入っていたんだ……」


彼が拗ねたように唇を尖らせる。

宰相としての威厳はどこへやら。家ではただの大きな子供だ。


その時、ルンがトテトテとクロード様の足元へやってきた。

そして、彼の膝の上に顎を乗せ、上目遣いで見つめた。


「キュウ……」


「……なんだ。反省しているのか?」


クロード様が眉を寄せる。

ルンは、口からポロリと何かを吐き出した。


それは、先ほど食べたはずの「タッセルの芯(硬い部分)」だった。

綺麗に汚れだけ舐め取られ、芯だけが残っている。


「キュウ!」


「……ゴミじゃないか」


「ルンなりのプレゼントですよ。一番美味しいところを食べ終わった後の、お裾分けです」


「全くいらん!」


クロード様は苦笑しながら、それでもルンの頭を撫でてやった。

ルンは気持ちよさそうに目を細め、喉をゴロゴロと鳴らす。


「……ふふっ」


私はその光景を見て、自然と笑みがこぼれた。


窓の外は快晴。

部屋の中は、愛しい人たちが立てる穏やかな音で満ちている。

ページをめくる音。

ルンの喉の音。

編み棒が触れ合う音。


「……エリアナ」


「はい」


「こっちへおいで」


クロード様が本を置き、腕を広げた。

私は編み物を置いて、彼の隣に座り、その肩に頭を預けた。

すると、すかさずルンも私の膝の上に飛び乗ってくる。


サンドイッチ状態だ。

重いし、狭い。

でも、温かい。


「……幸せだな」


クロード様が私の髪にキスをした。


「ええ。……最高の休日です」


私は目を閉じた。

掃除はルンがやってくれる。

公務は明日から。

今はただ、この温もりの中に溶けていればいい。


「キュウ……」


ルンが寝息を立て始めた。

釣られて、私も眠気が戻ってくる。


「……クロード様。やっぱり、三度寝しましょうか」


「賛成だ。……このまま、夕方まで」


私たちはソファの上で、小さな塊になって微睡みへと落ちていった。


計画通りの完璧な休日ではないかもしれない。

帽子は食べられたし、少し騒がしかったけれど。

これこそが、私が選び取った「愛すべき日常」なのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
SS嬉しいです(≧▽≦)ありがとうございます! ルン君←勝手に男の子かな?って感じましたw ヤキモチ旦那様のお話に和みました(*´ω`*)
はぁ…二度寝のお供に最高です(*゜∀゜)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ