8、着替えて
これまでのあらすじ
ロベルティーナは豊かな庭園を持つ別荘に到着、ばあやと再会できました。
ロベルティーナはシルザ夫人の手であれよあれよという間に柔らかなモスリンの部屋着に着替えさせられた。
なんという手早さだったろう!
ロザリンド家本邸を出る際に着付けを任せた若いメイドとは段違いだ。
彼女がおそるおそるやっていたのに対して、シルザ夫人の遠慮のなさといったら。
そして気づけばロベルティーナはドレッサーの前に座らされていた。
塵ひとつない鏡面に鼻と頬を赤く染めた金髪娘が現れた。
口元は面白くなさそうに曲がり、痩せて病的に白い顔面からは沈鬱な青い目がだけがぎょろりと飛び出して見える。
そこに表情らしきものは見当たらない。
形容するならば、何事にも不服そうで夢も希望もない幸薄そうな顔をしている。
これだもの。
ロベルティーナは日陰でしみじみ思った。
じいやに心配させて、ルフェルにそっぽをむかれて当然だわ。
ただ、すっと伸びた首筋と姿勢だけは悪くないと思った。
そこへシルザ夫人のふっくらした笑顔が入り込んだ。
「見違えましたねえ。こうしていますと奥さまにそっくりでいらっしゃいます」
「髪の色だけよ」
「そりゃあ生き写しだなんて思っちゃおりません」
シルザ夫人が髪をほどいて梳いている間、ベッドやテーブルの上にさきほどまで令嬢を包んでいたものが剥かれて散乱しているのを鏡越しに見た。
修道院では部屋の清掃を徹底するように叩き込まれたせいか、いささか居心地が悪くてそわそわする。
それに訪問着はロベルティーナにとって数少ない財産のひとつだ。
流行りの型でなくなっても、ぼろきれになるまで大切に着たい。
部屋に据え付けられた衣装箪笥に目が止まる。
シルザ夫人の手が離れた隙にそこへふらりと手を伸ばす。
「あら。お寒いですか?」
「いいえ。ハンガーが欲しいの。ドレスを掛けたくて」
「そんな。お嬢さまはお構いなく」
「でも、吊るしておくと少しましなのよ」
「ええ、そうでしょうとも。でも今はお嬢さまの気分をましにするほうが大事です。さあ、お召し物はばあやに任せて、お風呂になさって。バスタブのお湯が冷めないうちに」
そしてロベルティーナは、シルザ夫人に引っ張られるようにして降りた一階、そこにあるバスルームに押し込まれた。
すると、ふわりと花の咲く香りに全身が包まれた。
「タオルは足りなければ――」
シルザ夫人の声を聞くなり、ロベルティーナはさっと視線を走らせた。
「十分にみえるわ」
「そうですか。ではごゆっくり――」
「ばあや。夕餉を早めるって、あなた言っていたわ。何時かしら」
と、令嬢が尋ねるのにシルザ夫人が目を丸めたので慌ててつけたす。
「ええと。いつ夕食を摂るのかしら。その時間に間に合わせるわ」
「まあ、お構いなく! ここはあなたさまの家ですから、ご自由になさってください」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
じわじわです。
英国のカントリーサイドで暮らす気分をお届けできたらとおもい研究しながら書いていますよ。
展開がゆっくりでごめんなさい。
先輩のヘルプに入ったので脱稿までしばらくおやすみします。
次回更新は年内にしたいです。
引き続きよろしくお願いします。




