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リュスティック・ラブストーリー〜追放令嬢は自然豊かな農村の屋敷で幼馴染の魔法使いに溺愛される〜  作者: 響 凛音
第一章 碧き美しきリュスティック

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11、あたたかくて

「お嬢さま! ティーナお嬢さま!」


 ちゃぷんちゃぷんという水の音と感触で、ロベルティーナは目覚めた。

 重たい頭をもたげた視界にシルザ夫人の顔が飛び込んできた。

 揺れる湯はすっかり生ぬるくなっていてよそよそしく令嬢を冷やしている。

 夢、だったのね。

 緊張の糸が緩んでうとうとしてしまったらしい。

 気づけばランタンの明かりだけが部屋を照らしていた。

 令嬢はまだぼんやりする頭でシルザ夫人の手を取ってバスタブから出た。

 マット越しの床があまりに冷たかったからか、温まっていたはずなのに肌が粟立つ。


「出ていらっしゃらないし、物音もしないから心配で……!」


 そう言いながら彼女は縮こまるティーナに分厚いバスローブを巻き付けて抱きしめてくれた。

 あたたかい。よく乾いたローブからシルザ夫人の体温が伝わるようだ。


「それは、ごめんなさい……」


「のぼせてしまわれたのはお湯が熱かったからでしょう。気をつけさせます」


「いいえ。わたしが考え事をしていたから」


 などと押し問答を繰り返しているうちに、ロベルティーナは寝巻きに着替えさせられていた。

 しかし、シルザ夫人がしゃがみ込んで室内履きまで履かせようとした時には慌てて止めた。

 彼女に世話をされていた十歳の少女はもういないのだ、と自分に言い含めるようにして。

 甘えてばかりではいられないわ。

 ロベルティーナが、ランタンを手に先行するシルザ夫人の背に続いて、ため息を細く長く鼻から出しながら浴室を出た、その時だった。


「ばあちゃん、ティーナは?」


 突然、切羽詰まった調子のテノールに名前を呼ばれた。

 どきりとした瞬間に足が止まる。


「お嬢さま! ご無事だよ。けどルフェル、あんたねえ、お湯を入れる時には熱くないか確かめないとってあれほど」


「だって午後だった。あんまりぬるくても冷えるだけだ」


「だからってねえ」


「大丈夫だって。ちゃんと手を入れた。じいちゃんのよりは熱くなかった」


 実の祖母相手にはなんと自然に話すのだろう。

 声の響きは深まったけれど、少し拗ねたような言葉遣いがどこか懐かしい。

 でも、わたしには……。

 シルザ夫人の陰からちらりと伺うと、やはりルフェルの視線は逸らされていた。

 やっぱり嫌われているのね。

 悲しいかな、相手から知らず知らずのうちに嫌悪されるのにはもう慣れてしまった。

 世の(ことわり)のうちで、できれば知りたくはなかったことの一つだ。

 理由を尋ねようものなら逆にこちらの品位を疑われてしまう。

 それにしても、一度心を許した相手にされるのは傷口に塩を塗り込むようで我慢ならなかった。

 ロベルティーナは背筋をピンと伸ばすと、顔から一切の表情を消し去った。

 

「ルフェル。いいお湯だったわ。ありがとうーー」


 と、右足で確かに踏み出した。

 そのはずだった。

 世界が突然真っ暗になって、目がちかちかしてしまう。

 くらりとした拍子にシルザ夫人の背中に寄りかかった。


「お嬢さま! まあ、ご無理をなさらずに! ルフェル!」


 なんてこと。

 ティーナはすぐに確信した。

 わたし、本当にのぼせてしまっていたんだわ。

 ここまで倒れずにいられたのは、シルザ夫人が手取り足取り導いてくれて、おまけに令嬢がドアの木枠に手をかけていたからだ。

 しかも、ふわりと体が浮いてまったく現実味がない。

 まるで両足が床から離れているようだ。

 それに暖かな体臭がどこか甘く、安心するもので……。

 瞳をしばたたかせていると、少し視界がはっきりしてきた。

 それでようやくわかった。

 寄りかかっていたのはシルザ夫人ではなく、ルフェルだった。

 いつの間に二人は入れ替わったのだろう!

 ロベルティーナはしっかりと横抱きにされているのを努めて無視しながら体をこわばらせた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

ティーナ、風邪引かないで…。

皆さんも暖かくしてお過ごしくださいね。


次回投稿は1月16日金曜日23時ごろを予定しています。

ブックマークにいれておまちくださいね。

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