9、身を清めて
これまでのあらすじ
ロベルティーナは緑なすアイビー・コテージの自室でお着替えを済ませました。
ロベルティーナは一人きりになった。
あとには照明にと置かれたランタンがいるだけ。
ため息の落ちた先、素朴な草花の描かれたタイル敷の床がルームシューズを脱いだ裸足にひんやりする。
素敵な猫足のバスタブにあたたかい湯が張られて、中には桃色の花びらが浮いている。
薔薇だ。甘い香りの正体は、入浴剤としてひとつかみ入れられたこれだった。
部屋着を肩からそっと落とすと少し肌寒くて、粟立てた勢いのまま湯船に足を入れた。
温かさに包まれる喜びでそのまま肩まで浸かると、呼吸がにわかにゆるみはじめた。
知らず知らずのうちに張り詰めていたようだ。
甘くも高貴な薔薇の香りを胸いっぱいにとりこんで、細く長く吐き出す。
そしてしんみりと思う。
なんて贅沢なのかしら。
送り迎え、着替えの手伝い、湯と食事の支度。
幼い頃は当たり前に思っていたこれらも、修道院での質素な生活に慣れ親しんだ今では身に余る幸福でそわそわしてしまう。
貴族の令嬢が貞淑と品格を守るために入れられる箱庭――修道院の寄宿舎に、ロベルティーナももれなく入れられた。
そして十年の間、規律と戒律、手仕事と祈りの中で生きて、その生活にすっかり慣れたころに結婚適齢期だとして取り出されたのである。
あの方に見初められてさえいなければ、ずっとあそこにいられたのかしら。
ロベルティーナは苦々しく思った。
成人してもいつまでもお父さまのお人形なんだわ。
ちゃぷんと優しい湯船からしょぼくれた顔の女の子が揺らめきながらこちらを見返している。
この温かい湯もそう。
じいやが炊いてルフェルが運んでくれたもの。
実を言うと、駅で老け込んだシルザ氏を目の当たりにして少しショックを受けていた。
思い出の中の彼はもっとハリのある肌を赤く焼いていて、体つきもがっしりとしていた。
それが目に見えてしぼんでいた。
放っておけばどんどん縮んでしまってやがて消えてしまうのではないか。
老体に鞭打つような真似はすまい。
わたしはここで生きていかねばならないのだから。




