三編:メメクラゲの在り方
この“愛すべき流行”は、やがて風紀委員会の耳に入りました。
ゴミ箱を携えた風紀委員が、秘密警察さながらに校内を巡回し、『メメクラゲ』を手にした生徒諸君を次々と見つけ出すではありませんか。彼らは『メメクラゲ』を回収してゴミ箱に捨てさせ、“不都合な発想”を吐き出させ、その言葉もまたゴミ箱に収めていく。
わたくしは、自分の作品が次々と否定される光景を目の当たりにし、心に大きな痛みを覚えました。
――やがて、その排除の矛先は、わたくし自身へと向けられるようになりました。
わたくしの愛する不道徳なストーリーや、破滅的な台詞を描くたびに、それを“不都合な思考”としてゴミ箱に捨てられる。そればかりか、わたくしによる、わたくしの芸術を頭に思い浮かべる妄想でさえ、ゴミ箱に放り込んでいく始末。
不都合なものと捨てられた芸術たちが、ゴミ箱の中でごちゃ混ぜになって蠢き、わたくしに語りかけてくる気がするのでございます。まるで、わたくしの内から響くように。
――わたくしは、来る日も来る日も、風紀委員の前に立ち、ゴミ箱の中を見つめる日々でございました。
そこには、わたくしの人格を形成し創造した美しき芸術たちが、ぐちゃぐちゃになって転がっていて、わたくしの愛した世界のすべてが、ゴミ箱の中で輝いて見えるのです。
――漫画研究部部長、影星。いまさら迷いませんでした。そもそもわたくしが、迷うようなことなど、一切なかったのでございます。
この学校が求める清く正しく美しい世界に、わたくしの居場所はない。ならば、この学校にとって不都合なものたちが集まるこのゴミ箱の中こそ、わたくしが愛した芸術、わたくしが求めるべき世界なのだと。
――かくしてわたくしは、この学校で最も不都合な存在であるわたくし自身を、このゴミ箱へと捨てたのでございます。 ゴミ箱の中に埋もれたわたくしは、人知れず、内からわたくしの芸術の声が溢れ漏れるのです。
“嗚呼、なんと、なんと美しいのでしょうか”




