二編:芸術には目的がある
わたくしはその夜、創作部屋(居住地)で、湧き上がる怒りと悲しみをぶつけるかのように、わたくしの芸術を詰め込んだ同人誌『メメクラゲは電気クラゲの夢を見るか?(以後、メメクラゲ)』を密かに、しかし確かに、ここに結晶させたのです。
この作品は、清く正しい漫画とは真逆の、陰鬱で破滅的なストーリーで、不道徳で不健康なキャラクター、それでいて強烈な魅力を放つ怪作でございます。
わたくしはこの『メメクラゲ』をひっさげて、反逆の狼煙を上げるように、体育館裏の掃除道具入れの陰で、怪しげな取引を始めるのです。それはまるで、喉が渇いた生徒諸君に密造酒を売りさばくかのような心持ちでございました。
薄暗い掃除道具入れの陰で、囁きのような声と、わずかな紙の擦れる音だけが交わされる。受け渡しは決して目線を合わせず、まるで秘宝を埋めるかのように、無言で、迅速に。
わたくしは、彼らの心の奥底に眠る不満、焦燥、そしてほんの少しの破滅願望を刺激する『メメクラゲ』を手に、ひっそりと闇商人のように、生徒諸君と向き合ったわけでございます。
――『メメクラゲ』は、一部の生徒の間でカルト的な人気を博しました。
生徒諸君はこっそりとそれを回し読みし、風紀委員の前では決して見せない、この世界を呪うような、静かな嘲笑を浮かべた表情に、不条理な“清く正しい世界”からの、密やかな離脱を代弁していると感じた。
“嗚呼、なんと美しいのでしょうか”
愛すべき“わたくしの芸術”が、確かにこの学校に蔓延していると、わたくしは悦に入っておりました。




