姫
はあ~、かわいい…。
美美は、蘭蘭を撫でていた。
「おやすみ~、蘭蘭」
美美は蘭蘭を枕元にそっと寝かせる。蘭蘭は雄猫だ。つぶらな瞳はとてもかわいい。
この子をもらったお礼は何がいいか、樹衣さまに、聞こうかな。
ー1週間後ー
美美は樹衣に呼ばれ、屋敷の中庭に来ていた。できるだけいい服を着てくるようにと言われたので、美美なりに着飾ったつもりだ。髪型もいつものひとつくくりではなく、頭の後ろで左右に細い三つあみをし、真ん中で結んだ。紅は目元にさりげなく付けた。
「樹衣さま、お呼びでしょうか」
「あ、ああ。う、美しいな」
「それはそうでしょう。もとがいいので」
「自分で言うな。今日は俺の従姉妹が来る」
「皇帝の姫君ですか?」
美美は訪ねる。
「ああ、そうだ。まだ5つと4つと2つだ」
「なぜ、あなたにつく侍女が舞雪さまではなくわたしなのですか?」
「お前の美しさをあてにしているのだ。考えろ」
「無理です。あなたもお美しいでしょー」
「やっぱり棒読みだな」
「そうでしょうか」
「いきなり普通に戻るな」
「戻っていませんー」
「今度は棒読みに戻るな」
これが始まったらきりがない。ついこの間もこのやり取りで1時間を過ごして、舞雪さまに止められた。
「樹衣、そんなに言い合える侍女がいたのね」
突然、朗らかな声がした。美美は声がした方を振り向く。
「和陽姫。お久しゅうございます」
若草色の髪に深緑の瞳をした姫がいた。後ろに小さな娘が3人。ということは、この姫が皇帝の正室・和陽姫。お美しい方だな。その和陽姫はぷくっとほおをふくらませる。どうしたのかと思っていたら近づいてきた!?
「あなたも一声くらい発しなさいよ」
ずいぶんと幼い所作だ。だが、皇帝の正室にそう言われたら一声発するしかない。
「すみませぬ、無礼でした。何かご用件が?」
わたしより年上だったと思うが、少し煽ってみる。
「いいえ、ないわ。あなた、私のことを煽ったでしょう?」
心なしか、樹衣の顔が青くなった気がする。
「お気付きでしたか。皇帝の正室として相応しい方なのか調べようと思いましたもので。一応、都にいた年月はわたしの方が長いので」
美美は少し口角をあげて言う。
「おさみ、ストップだ!!和陽姫、どうかお許しを!!」
「あははは、私、そのようなことを物怖じせずに言える子に初めて会ったわ。皆、無礼だとか言ってそんなこと言ってくれないもの」
和陽姫は朗らかに笑う。幼そうに見えたが、そうでもないらしい。
「あなた、おさみっていうの?」
「いえ、あの人が勝手に言っているだけです。美美と申します」
「出はどこ?」
っ!一番聞いてほしくなかったことだ。だが、答えるしかあるまい。
「明家です」
「そのわりにはお美しい方ね」
「恐れ入ります」
きっといい人なのだろうが、質問と答えが最悪だ!
「みどり!」
「ううん、あお!」
「わかんない!」
うん?これが樹衣の従姉妹3姉妹か。何を言ってるんだろう?
「あら、美美お姉さんの髪の色を言っているの?この色は青緑っていうのよ」
えっ!?わたしの髪色のこと言ってたの!?
「あおみどり?」
「姫様がた、なぜ、わたしの髪色なんかをお気になさるのです?もっと面白いものがこの屋敷にはございますよ」
「美美、あなたの髪色は、意外と珍しいのよ」
「へっ?」
間抜けな声を出しちゃった!ちょっと恥ずかしい。
「ああ、こいつは驚くと間抜けな声を出すんですよ」
はあっ!?お前に言われたくないわ!この間縁談が入ってきて間抜けな声出してたの知ってるんですけど!!
「そんなことはございません。あ、そういえば、樹衣さまもこの間間抜けな声を出していたのですよ~。」
美美は少し口角を上げ、樹衣を横目に見ながら言った。陽三姉妹(陽姚、陽无、陽犂のことを美美はそう呼ぶことにした)は、不思議そうに見ている。
「では、わたしは姫様がたを連れて屋敷の案内でもしてきます」
美美は末っ子の陽犂がよちよち歩きだったので、抱き上げながら言った。
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