蘭蘭
いや、待て待て待て。待て。こいつ、何してるの?いくら何でもたかだか侍女にこんなに近づく?まさか、わたしに気がある?
「ジュ、樹衣さま、何を?」
「何をって、お前の青筋を確認するだけだ」
無理!!
「無理無理無理、無理です!」
あっ、言っちゃった!
美美は慌てて口を押さえる。
「ほう。無理?なぜだ?」
この人、鈍感だ!!ヤバい、どうしよ!青筋浮いてたのバレる!
「じ、実は、額に傷痕が…。」
美美はとっさに嘘をつく。
「そ、そうなのか?大丈夫か?」
「はい!大丈夫です!では、失礼します!」
美美はすごい勢いで部屋を出た。
はあ~、びっくりした。わたしは、実は男嫌いだ。安喜によってそうなった。わたしのために殺された兄がいれば男嫌いにならなかったかもしれない。ともかく、あんな男でも、わたしの主人だ。頑張って仕えなきゃ。
翌朝、美美は舞雪よりも早く台所に立ち、朝餉の準備をしていた。
「ふうぅ~」
美美は額の汗をぬぐう。そこへ、舞雪が来た。
「あら、美美。朝餉の準備が早いわね。昨日の額の傷痕は嘘なのでしょう?」
「あ、はい。その場しのぎです」
美美は苦笑いをする。
「坊ちゃんはあなたにしかああいうことはしないの。大目に見てあげて」
「…はい…?」
「あら、にわか返事ね」
うっ、バレてた!?
「とりあえず運びましょう」
二人は昨日と同じように樹衣の寝室に向かう。
「あなたから入っても良いか、聞いてみなさい」
「ええぇ~…。」
「その顔は何?ほら、聞いて」
「はあ、樹衣さま、朝餉をお持ちいたしました。」
「お、おお。入れ」
なぜか少し緊張したような声だ。起きてからしばらくたったような声だ。
「失礼します」
樹衣の目は輝いていた。どうしたんだ?
「今日はお前に見せたいものがあったのだ!!」
「な、なんでしょう」
樹衣は寝台の下から籠を取り出す。中にはすやすやと眠る黒い子猫が入っていた。
「客人にもらった。珍しい生き物だから、お前に見せたかったんだ。ほしいのならやるぞ」
「ほ、欲しいです!猫は大好きです!特に黒猫!!」
「そうか!よかった!では、やろう」
美美は黒猫を籠から出し、抱く。
かわいい。この子分の恩は返そう。
美美は子猫に蘭蘭と名付けた。
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