実家
美美は寝台に横になる。
また薬を盛られないように水は自分で持ってくることにした。せっかくどの人が誰なのか分かったのに、また忘れるなんてたまったものじゃない。
「はあぁ~…」
きっと、わたしの父親だと認めたくない人は、案じているだろう。わたしの身ではなく、自分の権力が落ちることを。父親だと認めたくない人は、一応は皇帝の臣下だ。名を安喜という。表向きは字の通り優しい人。だが、裏は字とは真反対だ。男児は可愛がり、女児はごみのように扱う。母はわたしの他に男児を産んでいたので、安喜は母を殺さなかった。だが、女児しか産めなかった女がどうなるか、わたしは知っている。生まれて1日の赤子の女児を、母親に抱かせ、重りを持たせ、冷たい水路に沈めるのだ。わたしは男児を産んだ母親の娘だということで生かされた。そして、生まれつき唇に紅がついているという珍しい特徴を持っていたから、ということも理由だろう。そんな風な父親の下で娘として育つのはかわいそうだと思った兄がわたしを連れてきたのだと、舞雪さまが言っていた。だが、思わぬ誤算があった。いくら可愛がっている男児でも、安喜のお気に入りのおもちゃであるわたしを逃がしたとして、兄が女児しか産めなかった女と同じように殺されたのだ。その後、母・美栄ミイエイは娘を手放したことと息子を亡くした心労で亡くなった。容姿も心映えも素晴らしく、舞の名手だった母を亡くしたにもかかわらず、安喜は悲しむこともせず、すぐに新しい女を迎えた。そんな男を父親と思え、ということは無理だ。
「母さまが亡くなったのにあんなことをしたということが世間に知れても、無駄に頭が回るから、解決するんだろうな。」
もっと普通の家で普通に幸せになりたかったな。
そう思いながら、美美は眠った。
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