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紅の御簾とき  作者: 鈴のたぬき
第三章 逃亡
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養子

 大広間に通されると、たくさんの芸人とおぼしき人たちが芸の練習をしていた。でも、その人たちはわたしたちが入ってきたのを見て動きを止める。

「副団長?誰ですか、その方々は。また拾ってきたんですか?」

わたしたちの方に近寄って来たのは若い女性。美人な方で、艶のある緑の紙を腰まで伸ばし、芯のある勝気な(だいだい)色の瞳を輝かせている。

「私の生き別れの娘たちと付き人です。さっき外で出会いましてね」

「あら、副団長の娘さんたち?きれいな方々ね」

いえ、あなたも十分きれいだと思います。わたしはそう思いながらも口に出さない。というか、人生二度目だ、人に容姿で負けるのは。

(ショウ)副団長の長女・菁凛(セイリン)と申します。芸者になりたく、旅美(リョメイ)に出てきた所存でございます」

わたしが嘘の自己紹介をすると、菻明(リンメイ)……否、菁明(セイメイ)も前に出てくる。

「同じく、晶副団長の次女・菁明でございます」

「お二人の付き人、徠戵(ライグル)です」

最後に徠戵。わたしたちが自己紹介を終わらせると、緑髪美人はあっけらかんと笑った。

「菁凜さん、菁明さん、徠戵、よろしくね」

彼女の言葉に、わたしは顔を輝かせる。

「それは、入団してもよろしいということでしょうか!?」

「ええ、もちろんよ。私はこの楽団の団長・鞠藍(マリラン)。24歳よ」

えっ!?この人、団長さん?それに、24歳って、若い。

「マ、鞠藍さん、よろしくお願いします。あっ、団長ってお呼びした方がよろしいですか?」

わたしが思わず噛みながらそう伝えると、彼女は微笑んだ。

「ええ、そうしてもらえると助かるわ。名前で呼ばれると、つい自分の立場を忘れてしまうの」

その言葉に安堵したわたしは、不意に強い視線を感じ、その視線の元を見る。すると、黒髪に赤い瞳の青年と目が合った。わたしと目が合った青年は目を逸らすことなく、逆にわたしを見つめ返してくる。すると、それに気付いた父様がふわりと微笑んだ。

安琴(アンキン)。来なさい。お前の妹たちだ」

父様がそう言ったのを聞いたわたしは、慌てて頭を下げる。すると、彼ーー安琴さんはこちらに歩いてきて微笑んだ。

「菁凛、といったね。俺は安琴。副団長の養子だ」

「安琴さんですね。兄様とお呼びしても?」

わたしが微笑んでそう言うと、彼はニコリと笑ってくれた。

「ああ、もちろん。きれいな妹ができて嬉しいよ」

人好きのする笑顔に、わたしはホッとする。刺のある言動を取られなくて良かった。菁明や徠戵がいるから心細いということはないけど。「ありがとうございます」、とわたしがお礼を言うと、他の芸人の方々がわらわらと寄ってきた。

「よろしくね!」

「あたし、舞踏が得意なの!良かったら教えるわ!」

「本当にきれいな人たちだな!客足が増えそうで助かるよ!」

そんな温かい言葉に包まれたわたしたちは、父様にわたしたちのための部屋へと案内してもらう。付き人とはいえ、さすがに男女を同部屋にするのはまずいので、ちゃんと分けてくれている。

「菁凜と菁明はこちらの部屋、徠戵はこちらの部屋だ。ゆっくりと休んでくれ。明日の朝は炊き出しをしてもらうからな」

父様のその言葉に、わたしは深く頭を下げる。

「本当に、何から何までありがとうございます、父様。明日からはこの楽団のために精一杯努めさせていただきます」

わたしがそう言うと、父様は「そうしてもらえると助かるよ」と言って去っていった。徠戵は先に自分の部屋に入り、父様を見送ったわたしたちも部屋に入る。が。わたしたちは部屋に入った姿勢で硬直した。

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