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紅の御簾とき  作者: 鈴のたぬき
第三章 逃亡
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旅芸人

 馬で駆けて旅美(リョメイ)に辿り着いたわたしたちは、感嘆のあまり言葉を失った。煌びやかな提灯(ちょうちん)がところせましと吊るされ、色付き硝子(ガラス)でできた細工物が窓という窓に飾られている。

「………きれい」

思わず呟いたわたしの言葉を肯定するかのように、二人も頷く。わたしたちは町のすぐ前の森で馬を止め、蘭蘭(ランラン)を猫の姿に戻して相狼(アイロウ)の手綱を引きながら歩いて町に入った。外からでは見えなかった旅芸人たちが見える。銭湯揚がりに舞を舞う旅芸人を見ている観光客。道具を使って芸を披露し、器に硬貨を入れてもらっている旅芸人。どれも、わたしが見たことのないものだ。でも、この人たちの誰かに気に入られないとわたしたちの安定した生活は望めないと思う。だから、わざと顔を見せるようにして歩く。すると、柔和な顔立ちの好好爺が雲風(ウンプウ)に声をかけた。

「君、あの女性の従者かい?」

「あっ、はい。主人に、何かご用でしょうか?」

わたしはその二人の会話に割り込んだ。

「あの、わたしを楽団に入れてくださいませんか?」

なぜかこの人がどこかの楽団に所属している人だと思った。すると、好好爺は明るい笑みを浮かべる。

「おお、入ってくれますか。実は今、あなたたち一行に我が楽団に加入していただきたく思い声をおかけしたのです」

「まあ、本当ですか!?あ、でも、わたしたち、実は少し訳ありで……」

わたしが躊躇うと、好好爺は首を振って言う。

「そんなものは関係ありません。どれ、あなたたちのお名前を聞かせてくだされ」

「わたしが美美(ミイミイ)、この子が妹の菻明(リンメイ)、彼が従者の雲風です」

わたしがそう自己紹介をすると、好好爺も自己紹介をしてくれる。

「では、私も自己紹介を致します。(リン)楽団が副団長・(ショウ)と申します」

「晶殿ですね。わたしはどのようにして楽団の皆様の前に出れば?」

「そうですね、あなたには、私の生き別れの娘、という設定で入ってもらいましょう。そちらの菻明さんは妹御でしたね。でしたらそちらも私の生き別れの娘という設定でよろしいでしょう。雲風さんはそのまま、従者の設定で」

晶殿……いや、父様の提案に、わたしは頷く。そして、気になっていることを訊いた。

「あの、名前を変えてもよろしいですか?どこで足がつくか分からなくて……」

「ああ、いいよ。なんという名にする?」

父という設定になったからか、父様の口調が砕けたものになった。わたしは考える。そうだな、菁凛(セイリン)というのはどうだろう。なんか良い響きだ。

「では、わたしは菁凛で」

「お姉様が菁凛なら、私は菁明(セイメイ)でお願いします」

続く菻明、いや、菁明。そして、雲風は少し悩んでからこう言った。

「では、僕は徠戵(ライグル)で」

「分かった。それと、私には養子がいてね、安琴(アンキン)、というのだが」

嘘。安琴?わたしのお兄様の名前。でも、死んだはずだから別人よね?きっと。

「そうなのですね。その方には、また個別でお話を致しますわ。楽団の宿にご案内していただいても?」

わたしはそう言って案内を促す。父様に案内されて辿り着いたのは、一番煌びやかな雰囲気を纏う館。ここに泊まれるということは、かなり名の知れた楽団のはずだ。本当に、この顔で良かった。わたしは相狼(アイロウ)の背中に蘭蘭(ランラン)を乗せ、父様に案内されるままに鈴楽団に与えられた部屋のある方に向かう。歩いている途中で楽団の芸人とおぼしき数人が父様に声をかけてわたしたちのことを不思議そうに見ていた。やっぱり副団長だから目立つのだろう。そうしているうちに、わたしたちは大広間のような場所に通された。

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