事態の終息……?
結局、怪物は蘭蘭が本気の一撃で気絶させた。念のため麻酔も打っておく。地元の武人たちが怪物を運んでいく中、わたしは空き地に一人残っていた。どうしても、們家のことが気になったからだ。後で、樹衣さまに報告しなくては。それにしても、この長期滞在もようやく終わる。本来、八ヶ月ほどで帰れたはずの央都に十ヶ月ほどで帰らなくてはならなくなった。別に特別会いたい人間がいるというわけでもないが、兄様や舞雪さまには会いたい……かもしれない。もちろん、非公式の義姉には会いたい気が一つも起こらない。それどころか、顔を出すのもやめてほしい。
「はあ……」
義姉・楪蝶。元は妓女だった義姉。彼女は今までにも胎に子種を付けられたことくらいはあるだろう。このような森での仕事をする男たちや、果ては高官まで。妓女に魅了され妓楼に通う者は数多いる。かくいう自分の母・美栄も、妓楼に通う男に妓女が子種を付けられ生まれた子である。妓楼に存在してはいけない赤子。妓楼の主は美栄を金蔓としか見ていなかった。美栄は不幸ではなかった。美栄が妓女として客を取り始めた時の最初の上客が、安喜だったというだけで。
ごつっ。
「あ?痛えな!あんたかよ、この化け猫使いが!」
考え事をしていて絆堵にぶつかってしまった。うるさい。今考え事してんだ。静かにしてろ。
「ああ!?てめえ、うるさいだか静かにしてろだか、そっちの方がうっせーわ!」
どうやら声に出ていたようで、絆堵が突っかかってくるが(物理的面でも)。わたしは無視と張り手を貫き通す。
「てめえ、生意気なクセして強いのがむちゃムカつくんだよ!」
「それはあなたの鍛錬不足が招いたこと。もっと頑張れば越せるかもしれないわよ?」
あーもう、們家の首輪はなんなんだー!
「そんなに悩んでいたら、頭がおかしくなるぞ?」
後ろから聞こえてきた声に驚く。樹衣さまの声。
「俺に気づかなかったか?」
振り返った所に樹衣さまはおらず、代わりに恰幅の良い用心棒の小父さんがいた。さっきわたしと絆堵が決闘をしようとした時に止めに入った人だ。
「変装なさっていたのですか?」
少し歩く速度を落として隣同士で歩く。
「まあな。お前が怪我したら嫌だからなぁ」
「そんな呑気な。怪我をする可能性は考えなかったのですか?皇族が怪我したら大騒ぎですよ、擦り傷一つでも」
わたしがそう言うと、樹衣さまはニコニコ顔になる。
「おや、この間骨折していた皇族のご落胤は誰だったかなぁ」
あー、あれか、雲風君の兄(?)の賊ね。あの時は結構酷くいったもんなあ。なんだっけ。確か親指と中指と薬指の骨折ったんだっけ。あれはキツかった。愛馬の相狼に乗る時間も制限されたし。
「ですがわたしは公式にはただの一家臣の娘であなた様の護衛ですので、気にされません。護衛など切り捨てられるモノーー」
「モノだと?お前は、記憶と共に自分の価値も忘れたのか?」
わたしの言葉は樹衣さまの怒気を孕んだ声に遮られた。
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