いざ、討伐へ!
絆堵が目覚めた時には、もう一人人間の姿をした生き物が増えていた。姿をした、というのはその人間は蘭蘭が化けた姿である、ということである。
「うおっ、おい!そいつ誰だ!知らねえ顔だぞ!?」
「絆堵さん、寝起きでよくそんな大声出せますね」
「感心してねーで答えろよ!そいつ誰だ!」
寝起きに大声を出せることに素直に感心していると、絆堵がキレてくる。
「蘭蘭です。黒猫の」
「はあ!?あの猫公、化け猫だったのかよ!」
淡々と答えると、今度は大袈裟な反応をする。
「まったく、うるさい人ね」
思わず口を突いた言葉に、わたしははっと真っ赤な唇を押さえる。だが、もう遅かった。絆堵は目尻を吊り上げてわたしを睨む。そしてずんずか近付いて来るとわたしの腕を掴んで口から離そうとする。わたしは全力で離すまいと抵抗をする。彼はきっとわたしの唇が赤く染まっていることは知らないだろう。バレたら討伐なのに化粧をしていると勘違いされる
「何をそんな頑なに!」
「あふしふょうがあふんでふ!(ある事情があるんです!)」
わたしは口を塞ぎながらモゴモゴ言う。
「なんつってるかわかんねーし!」
「わはんふぁふてふぇっふぉうふぇふ!(わかんなくて結構です!)」
「なんつった?」
がみがみ怒鳴っていた今度はきょとんとするものだから、こちらの調子が狂う。この人の相手、難しいな。男の人の相手するの樹衣さまで慣れてたつもりなのに、この人の攻略難しすぎる!
「ふぁんでもふぁりまふぇん!さっふぁととうばふいふぃまふよ!?(何でもありません!さっさと討伐行きますよ!?)」
そう言い放ったわたしは、森の中を歩いて行く。慌ててわたしの後を追ってきた一団の先頭は白いオオカミになった蘭蘭だ。もういいやと思ってわたしは蘭蘭に乗っかって行進する。ふと一番体力を温存しないといけない者は蘭蘭なのではという考えがよぎったがなかったことにしよう。
「蘭蘭、頼むわよ」
「オゥン」
蘭蘭の首筋をポンポンと叩くと、蘭蘭がわたしの手をなめながら甘えた声を出す。というか蘭蘭って人間の言葉が分かるのか。まあ、化ける対象の言葉は話せないと不便だから、分かるようにできているのかも。でも、蘭蘭の尻尾って不思議。だって他の生き物に化けても尻尾だけは二股に分かれているんだから。そう考えていると、へし折られた木が何本もあるかつては森の一部だったであろう空き地に出た。
「何?」
こんなのとても樵がやったとは思えない。というか、樵だったら木材を持って帰るはず。じゃあ、まさか……。
「バオーッ!」
わたしの背後で咆哮が聞こえる。やっぱりそのまさかね。木をへし折ったのは督羅さんが言ってた怪物。そして今鳴き声を轟かせたのも怪物。わたしは蘭蘭の背中からから降りて蘭蘭を軽く叩く。すると、蘭蘭が一瞬で竜の姿に化けた。
「ヒュオー!」
へえ。竜ってこんな鳴き声なのか。初めて知った。まあ、そもそも竜に会うこと人生に一度あるかないかくらいらしいからなあ。超レアってことだ。わたしが呑気にそんなことを考えている間に、蘭蘭竜の色が黒から白に変わっていく。白銀の竜。わたしは、こんなに美しいものを見たことがなかった。この竜の前では樹衣さまも廃れて見えるだろう。そんな風に考えているうちに、怪物は蘭蘭に襲いかかっていた。
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