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紅の御簾とき  作者: 鈴のたぬき
第二章 旅
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怪物

 旅館の娘は、怪我をして2週間が経った今でも部屋から出られないらしい。それに、父親と兄弟しか見舞いに来ていないんだそう。こういう時、普通は母親が見舞いに来るものじゃないのか。まあ、母親がいないわたしには分からないが、わたしが熱を出した時などは、少なくとも育ての親である風鈴(フーリン)さまはしょっちゅう見舞いに訪れてくれた。旅館の娘の母親ー確か、矢旬(シジュン)と言ったかな。矢旬は娘が心配じゃないのか。そんなことを考えているうちに、旅館の娘の部屋に着いた。一応の礼儀として、部屋の扉を叩く。

「失礼いたします。旅館のお嬢様、緑の宮が侍女・明美美(ミンミイミイ)と申します。あなた様が大怪我を負われた理由を聞きたく思い、参った次第でございます。お部屋に入ってもよろしいでしょうか」

格式ばった挨拶をし、そう問うと、小さな声で「どうぞ、お入り下さい」と言うのが聞こえたので、遠慮なく入らせていただく。部屋に入ったところで、まず目に入ってくるのは包帯がたくさん積まれた棚と、薬棚。その後にようやく、寝台と病人が見える。

「ようこそお出でくださいました、美美さま。旅館の主、捫苓(モンレイ)が長女・督羅(カミラ)と申します。どうぞ、お見知りおきを」

「督羅さま、こちらこそ、本日は無理を言って申し訳ございません」

「良いのです。私が話すことで今後この村の人間が怪我をしないのであれば、話すことは惜しみません」

督羅さんの言葉に、わたしは軽く頷く。そして、どうぞと勧められた木の椅子に座る。そして、椅子に付けられた紋章に目を見開く。なぜって?見覚えがありすぎる物だったから。

「っ……!」

わたしとて、実家に情がないわけではないので、いざというときのために明家のことを学んだ。そして。明家と敵対する家のことも。明家の天敵。それは、(モン)家。その、們家の紋章が、椅子に彫られていた。

「美美さま?どうかなさりましたか?」

督羅さんが不思議そうな顔でわたしを覗き込んでくる。そうか。督羅さんは旅館の娘。政治家同士の敵対なんて知らないはずだ。だったら、他意はない。そういえば、們家は木材を加工した物を売る家。ここに們家の紋章付きの椅子があってもおかしくはない。

「いいえ、何でもありません。では、早速ですがお話を伺っても?」

「はい……この部屋を見てお察しかと思いますが、私は医者、というか、薬師をやっております。その日も、足りなくなった薬草を採りに行っていたんです。そうしたら……か、かい、怪物が…襲って来て……思い出すと今でも恐ろしいです。もう、森には行けない…!」

督羅さんはカタカタと震えだした。わたしは思わず立ち上がり、背中をさする。

「督羅さん、大丈夫。大丈夫だから。ここには怪物はいない。わたしが守る」

「はあ…はあ…はあ…」

「大丈夫よ。わたしたちがあの森からいなくならせるから」

「本当に?」

「ええ。大丈夫。だから、その怪物の特徴を教えて」

「はい。……私を襲ってきた爪は、猫の爪を大きくしたようなものでした。顔は、まるで熊のようで、胴と手足は獅子のもの。そして、尾は蛇でした」

それは本当に怪物じゃないか。そんなに目立つ生き物がいればどこからでも見えそう。

「大きさは?」

「大きさは、丸太のような巨体でした。あんなモノに襲われて生きていられたことが奇跡のよう」

確かに、奇跡だ。あ。待って。本当に良いこと思い付いた。

「督羅さん。わたし、とてもよいことを思いつきました」

「えっ?」

不思議そうな顔をする督羅さんに、わたしはあることを教えた。

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