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紅の御簾とき  作者: 鈴のたぬき
第二章 旅
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奇跡の舞姫 1

 盗賊を恨みつらみしている間に、梅川地方(バイセンちほう)ー東国に行く道筋の途中にある地方ーに着いたようで、馬車の外から馬車を降りるように声をかけられる。そうして馬車を降りたわたしたち一行は、宿に入った。荷ほどきをし始めて間もなく、樹衣からの使者がやって来た。

「美美さま、緑の宮がお呼びです」

「分かりました。すぐに行く、とお伝えください」

美美は下ろしていた太刀をはきなおし、ほどいていた髪をひとくくりにして樹衣の部屋に向かう。

 あーもうなんなんだあの人騒がせ皇族。本当にあれで東宮なの?あんなんが国の皇帝になったらこの国終わるて!

「あーもう!!」

一人で廊下を歩いているため、美美の言葉が炸裂する。

「あの人騒がせ皇族が!!」

「人騒がせ皇族というのは、俺のことか?」

「ぎゃっ!樹衣さま!?」

樹衣の悪態を突いている間に樹衣の大部屋に着いてしまっていたらしい。だが、「あの人騒がせ皇族が」と叫んでいるのを聞かれてしまった以上、弁解の余地がない!と思ったけど、わたしのことっていう言い訳しちゃおう!あ、やっぱり立栄のことだって言っとこ。なんか手紙が届いてめんどいこと言われたとか!

「いえ、樹衣さまのことではごぜいませんよー父が…あ、皇族の方の父ですよ?父がめんどくさいことを手紙で言ってきたので、悪態を突いていただけです」

「菻明によると、姉妹のどちらにも手紙なぞ届いていないと言うぞ?観念しろ。処罰はしないから、ほんとのこと言え」

「はい…実は樹衣さまの悪態突いてました。まだ荷ほどき終わってないのに呼ばれたので」

「なるほどな。それより、緊急事態だ。この宿の大家の娘が、薬草狩りに言った後、大怪我をして森から帰ってきたそうだ。お前は何があったと思う?」

「単に狼に襲われたりしただけでしょう?」

「それがな、その森には狼はおろか、肉食動物など一種類も生息していないそうだ」

「そんなこと、ありえない、と言いたいところですが、何も見ていない状況だと何も言いようがありませんね」

「では、調査をしてみろ。それと…この宿の大家の奥方が、奇跡の舞姫の舞を見たいそうだ」

「そうなんですか。…ん?奇跡の舞姫って、どなたですか?」

美美がきょとんと首を傾げると、樹衣は「やっぱりか…」と言いながらため息をつく。

「何がやっぱりか、なんですか」

「奇跡の舞姫ってのは、おさみ、お前のことだぞ」

「えええええええええええええええええええええっ!?聞いてません!しかもわたし骨折してるんですけど!舞なんてできるわけないですよね!?」

「それが、お前が舞えば宿泊費はただになるんだそうだ。宿泊費は和陽さまが出しておられるから、なるべく出費が少ない方がいいだろう?」

「なるほどですね。よし、分かりました。お受けしましょう。けれど、扇は左手で持ちますので、少し質の低い舞になる、とお伝えください」

「分かった」

こうして今夜舞うことが決まり、予定計画(スケジュール)を叩き込まれた。叩き込まれたと言っても、軽く覚えられたので、幸いだった。そして、余った時間で荷ほどきをし、さっさと着替え、菻明に髪を結ってもらうと、もう時間だった。今日も樹衣の隣の席に招待されているので、急いでそちらの席に行く。

「樹衣さま、お待たせしました。2度目のお招き、恐悦至極に存じます」

本当に、何で2回もわたしを呼び出すのかしら。

「あ、ああ。それにしても、今日は話し方がどこか堅苦しいな?」

あれ?普通に話したはずだけど。

「そうでしょうか?」

訊いてみると、樹衣はうんうん頷く。こんなので東宮でいられるとは…皇帝の甥っ子への甘さが見てとれる。ここは、一つ年上の幼なじみとして、物申した方がいいだろう。きっぱり言ってやる。

「樹衣さま、そのような子供っぽいはしたない所作、東宮としては相応しくありませんよ」

「ほ、本当か!?」

しょんぼりするかと思っていたのに、逆にキラキラおめめで見返される。あっ!そういえばこの人、東宮辞めたいんだった!(第一章~記憶~にて書いています)全く、困った性格である。

「うるさいですね。もう舞台裏に行きます」

「…行かないで」

わたしが立ち上がると、樹衣は幼い子供が母に甘えるかのようにわたしの衣の先をちょんとつまむ。

「またですか?だいたい、わたしに舞をしてくれ、と言ったのは樹衣さまでしょうに」

「う…分かった。だが、大祭りの時のように勝手に給仕の変装をして動き回るのはやめてくれ。まっすぐ帰ってくるように!」

う…。給仕のふりしてたの、バレてら。

「はい…。」

こうして、美美は舞に向かった。


「あなた、奇跡の舞姫はまだかしら?」

美美に舞を要求した張本人で森から大怪我をして帰ってきた娘の母・矢旬(シジュン)は、夫・捫苓(モンレイ)の隣で目を輝かせながら舞台を見ている。35歳とは思えないほど若見えで、幼いこの妻のことを、捫苓はそれはそれは大事にしていた。おかげで、美しい娘二人と、賢い息子二人に恵まれた。だが最近、娘の内一人が森から大怪我をして帰ってきた。困ったことに、矢旬は子供たちに愛情というものがないので、今も呑気に舞を見ていられるのだ、と捫苓は思っていた。いくら大切にしているとはいえ、娘の心配をしない妻には少し腹が立ったが、やはり強く言えないのだ。そんなこんなで悪循環。奇跡の舞姫は右腕を骨折しているというのに舞を要求してしまうという愚行をやらかした。だが、よほど寛大な方なのだろう、当日に言われて当日に引き受けてくれた。そしていよいよ、奇跡の舞姫の登場だ。

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