出発
美美が樹衣に要求したのは借り物の太刀ではなく、自分の太刀だった。樹衣の護衛になる以上、主を守るのは自分の物が良い。
「樹衣さま、あなたはもうひとつわたしに、借りがございます。そこは…ぜひ、蘭蘭の猫塔キャットタワーをお取り寄せくださいませ!」
「…ん…。想定内というか、想定外というか…。」
樹衣は微妙な顔をする。ここはなぜ蘭蘭に猫塔キャットタワーが欲しいかということを熱弁しなければ…!
美美は猫だったら毛が逆立っているレベルに興奮しながら熱弁を始めた。
「猫には夏は涼しく冬は温かい寝床や休息する場所が必要で、プラス高くて隠れられる場所も欲しいです。布団では高さや隠れ場所の意味がないです。その点、猫塔キャットタワーは必要な条件すべてが揃っているため、猫を飼っている人には必需品!それに、蘭蘭は化け猫ですから、皇帝の密使として働いて疲れていることもあるでしょう。なので、休息の場としてーー」
「ストップだ!分かった!買ってやるから静かにしてくれ!」
「はっ!わたしとしたことが、ついつい興奮して熱弁してしまいました。すみません」
美美は樹衣の言葉で我にかえる。そしていきなり普通の声に戻る。
「それに、出立は来週だ。金は渡すから、好みの太刀を買ってこい」
「ありがとうございます!このご恩は一生忘れません!」
美美はそう言って、ダッシュで樹衣の部屋を出ていった。
ー1週間後ー
はあ、なぜこの格好なんだろう。
美美は髪を一つに束ね、護衛の服を着、革靴を履き、太刀を帯びて、樹衣の牛車の斜め左後ろー道の森側ーを守っていた。
後ろから見れば完璧な男なのだが、正面を見られてしまうと女だと秒でバレる。紅が唇についているからである。紅の金は浮くのに、こんな時に困る生まれつきのものだ。それに…。
「樹衣はなぜ薄布も何もかけていないのよ…。」
美美は小声で言う。
樹衣は東宮だ。外では緑の宮と呼ばれる。他の東宮以外の皇族は本名プラスさま付けで呼ばれる。それだけ、重要で神聖な立場なのだが、その男が一人だけ牛車に乗っているのだ、何か起こるだろう。
美美はそう思っていた。そして、結局何か起こってしまうのであった。
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