父親
叩かれた扉から聞こえてきたのは、しわがれているが、それでいて穏やかな声だった。
「樹衣さま、入ってもよろしいでしょうか」
「立栄、入っても良いが、何用だ」
入ってきたのは70近いじいさんだった。これが実の父親とは呆れ返る。立栄が樹衣にさま付け呼びなのは、立栄はあくまで皇族の婿だからであろう。
「美美、そなたが私の娘か。美栄に似て、なんと美しい」
「なぜ不義の子のわたしが娘だと分かったのです?もしかして、兄さまがばらしたのですか」
美美はあくまで平静を装う。
「わたしは出ていきますゆえ、お二人で会話をお楽しみ下さい」
さっさと部屋を出ていこう。別に、立栄に恨みがあるわけじゃない。けど、面倒臭くなりそうだ。
「おや、なぜだい。せっかく愛する美栄の娘に会えたのだから、語り合おうではないか。美美の部屋には高価な調度品を用意するぞ?」
「お言葉ですが、わたしは今ある物で間に合っております。更なる贅沢など、する必要はございません」
「おや、そうかい。では、張今の妻の話でもしよう。優しい義姉だろう」
「いいえ、兄さまに媚を売っているような女なので」
立栄はおそらく、わたしのことを会話に引き込んで会話を長引かせようとしている。どうにかぶったぎらなければ、わたしに自由時間という最高の未来はない…!
「失礼なことを言いました。立栄さまはお怒りと存じますので、わたしは退出させていただきます」
「いいや、怒ってなどおらぬよ。では、張今の話にしよう。それならいいね?」
終わった…。兄さまの話なら断る理由がない…。
「はい」
美美はしぶしぶ返事をした。
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