若草
ガラス製の棺に入れられた死体は、病に臥せっていて家から出ていないはずの和陽さまの父親・和懣だった。和陽さまには兄がいるため、家の断絶は防げるものの、現当主が死んだとなれば一大事だ。和陽さまはお辛いだろうに、気丈に実家への伝令の手配をしている。皇帝は心配そうに和陽さまの肩を抱く。
「…好奇心で見てはいけないものでした」
美美は樹衣の隣で呟く。
正直言って、少し気持ち悪い。人の父親の死体を見て、痛わしいとか思わないのかとか言われそうだが、正直なところ本当に人の死体は気持ち悪い。眠っているようなのがまた気持ち悪い。不快だ、早くここを去りたい。
「見て気持ちの良いものではないな」
樹衣も少し気持ち悪そうだ。
美美がそう思っていると、樹衣が美美を、俗に言うお姫様だっこする。そして、人波に紛れ、屋敷に戻った。
美美は湯上がりほっこほこの状態で布団にダイブする。
ここは樹衣の部屋だ。樹衣の方は己の部屋なので、ベッドにダイブしてる。なぜ、樹衣と共に奴の部屋に居るかというと。あの死体を見た後、樹衣にお姫様だっこをされたまま屋敷に戻ったので、樹衣の部屋に連れて行かれた。そしてなぜか樹衣の部屋の隣に短い通路を渡れば入れるそこそこ大きな風呂と露天風呂があったので、そこを借りた。そして、裸で自分の部屋に戻るわけにもいかず。舞雪さまが用意した寝間着を身につけ。そのまま樹衣の部屋から出るのも疲れているので面倒くさいというわけだ。結局、舞雪さまが老体に鞭を打ち、床にわたし用の布団を用意してくれた。現状は、そこに顔からダイブしてる。とにかく、風呂で死体の匂いを洗い流せてよかった。
「お前も抵抗なしに俺の部屋に来るのだな、お前が寝た頃に間違いが起きるかもしれないのに」
樹衣が顔を美美の方に向ける。
目が笑っているので冗談なのだろうが、間違いとはなんぞや。
美美がきょとんとしていると、樹衣は目を細めながら苦笑する。
「ははっ、その様子では意味がわかっていないようだな」
「はい、間違いといっても眠りながら勉強なんてしませんし、どういうことでしょう?」
本当に分からん、どういうことだよ。
美美が苛立ち始め、言葉使いが荒くなってきたとき、樹衣が美美の布団に乗り、美美の手を取った。それを見た舞雪は「あら」と言って部屋を出ていった。
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