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紅の御簾とき  作者: 秋華水零
第一章 始まり
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13/65

父親

 叩かれた扉から聞こえてきたのは、しわがれているが、それでいて穏やかな声だった。

「樹衣(ジュイ)さま、入ってもよろしいでしょうか」

「立栄(リツエイ)、入っても良いが、何用だ」

入ってきたのは七十近いじいさんだった。これが実の父親とは呆れ返る。立栄が樹衣にさま付け呼びなのは、立栄はあくまで皇族の婿だからであろう。というかわたしって、実の父親も名目上の父親も嫌ってるな。

「美美(ミイミイ)、そなたが私の娘か。美栄(ミイエイ)に似て、なんと美しい」

「なぜ不義の子のわたしが娘だと分かったのです?もしかして、兄さまがばらしたのですか」

美美はあくまで平静を装う。そして、この空気の中から逃げ出そうとする。

「わたしは出ていきますゆえ、お二人で会話をお楽しみ下さい」

さっさと部屋を出ていこう。別に、立栄に恨みがあるわけじゃない。けど、面倒臭くなりそうだ。

「おや、なぜだい。せっかく愛する美栄の娘に会えたのだから、語り合おうではないか。美美の部屋には高価な調度品を用意するぞ?」

「お言葉ですが、わたしには今ある物だけで間に合っております。更なる贅沢など、する必要はございません。必要がありませんから」

「おや、そうかい。では、張今(チョウキン)の妻の話でもしよう。優しい義姉だろう」

「いいえ、兄さまに媚を売って色目を使っているような女なので」

 立栄はおそらく、わたしのことを会話に引き込んで会話を長引かせようとしている。どうにかぶったぎらなければ、わたしに自由時間という名の最高の未来はない……!

「失礼なことを言いました。立栄さまはお怒りと存じますので、わたしは退出させていただきます」

「いいや、怒ってなどおらぬよ。では、張今の話にしよう。それならいいね?」

終わった……。兄さまの話なら断る理由がない……。

「はい」

美美はしぶしぶ返事をした。

 「実は、楪蝶(ヨウチョウ)殿が身籠ってね」

結局あの女の話か。

「それは、兄さまの子だと認識してもよろしいでしょうか」

「ああ、ようやく初孫だよ」

「つまりわたしの甥か姪だと」

「ああ。なんか、男だったら張凜(チョウリン)で、女だったら愛唯(メイ)という名にするそうだ」

「愛唯のほう、そのまんまの名前ですね。まあ、わたしや菻明からしたらの話ですけれど」

「それもそうだな。張今に美美からの伝言だと言って伝えておこう」

そう言うと、立栄は美美が抱いている蘭蘭には最後まで興味を示さず、部屋を出ていった。

「そういえば樹衣さま。旅の際、護衛はどうするのですか?皇族の場合、他の者は馬車なのと違って牛車で行動されるのでしょう」

「ああ、そこは、四人ほどにしようと思っているのだが、お前は絶対に入れる」

美美は驚きを隠せず、口をあんぐり開けた。これこそまさに空いた口がふさがらないというやつである。

「な、なぜ、女の身であるわたしなのです?他にもっと腕が立つ方がいらっしゃるのでは?」

「それがな、他の護衛候補だった者達と一応手合わせをしたんだが、腕が立つ者が三人しかいなかったんだ。護衛候補の者達は俺が手加減をしたのに負けたんだ。それなら、俺が手加減をしたからでも勝ったおさみの方が良いだろう?」

「それもそうですね。つまり、樹衣さまはわたしに二つも借りを作ると」

美美が手をもみ、にやけながら言うと、樹衣は意味がわからないという顔をした。

「は?護衛の件は分かるが、もうひとつとはなんだ?」

「大祭りの時、招待を受けて差し上げたでしょう。あれ、一応条件付きですけど」

「お前が何もなしに素直に受け入れるはずはないと思っていたが、やはり条件付きだったのだな」

樹衣は諦めたように言った。

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