焦り
おさみは幼い従姉妹たちを抱いて行ってしまった。本当は記憶を失ったおさみの性格の変化を調べて、伯父上に早くとせっつかれている妻候補にしようと思っていたのに。だいたい、俺はまだ16だ。結婚なんて早すぎる。
「和陽の義伯母上、私はまだ結婚なんて早すぎるとお思いになられませんか?」
「あら、それは思ったけど、皇帝の同母の弟の息子ですもの、しょうがないわ」
「しょうがないで済ませないでいただきたい」
樹衣が苦し紛れに言うと、和陽は笑う。そういう明るいところが和陽の良いところだが、今は笑わないでもらいたい。
「だいたい、伯父上のように正室を選べる身分ではないのですから、妻くらい自由に選ばせて欲しい」
「樹衣、いくら私の前だからって、不満を言い過ぎよ」
和陽さまは苦笑する。だが、本当に笑わないで欲しい。今のところ妻にしたい女はいない。妻にするのは和陽さまのような明るい人がいい。和陽さまも笑う時は少し控えめだ。できるのであればあっけらかんと控えめさを知らない明るい人がいい。その点は、おさみでもできない。言い合えるのはそれで良いが、それとこれとは話が別だ。
「ただいま戻りました」
落ち着いた声だ。おさみの声だが、いつも俺が聞いている声ではない。外行きの声か。ふうぅーん。俺には聞かせたことがないのに、和陽さまには聞かせるのか。ふうぅーん。樹衣は笑顔を作る。
「おさみ、それはよそ行きの声か?」
「よそ行きの声などございません。これが普段の声ですよー」
「ふうぅーん。棒読みということは、嘘だな?」
「違います」
やはりそこは普通の話し方だ。そういえば、ついこの間もこのやり取りで舞雪に止められたっけな。
ともかく、和陽さまはこのあと茶会があるというので、すぐに別れた。
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