王の居ぬ間に サロンドゥキュー 脱出計画に向けて
有能なお針子達を抱え順風満帆のキュー商会。
サロンとキュー商会の女主人として、王妃として2足の草鞋を履いて生活しているキャロラインマチルダ王妃のその元に吉報が届く。
「素晴らしいですこの生地ときたら~~」
イギリスから取り寄せたモスリンの柔らかな生地を手に小刻みに興奮し震えるヨハンナの頬は赤く染っつている。
まるで天使の羽にでも触れているような手の感覚に思わず口にした一言のようだった。
「貴方の素晴らしい縫製をお願いしたいわ」
「ありがとうございますオーナー。
でも楽しみです。
本当にありがとうごさいます。
皆不衛生で強欲な娼館の主人にこき使われ
て病で亡くなる者の多かったのです。
なんとかして生き残った者も客に辱められたり暴力を振るわれたり。
代金をくすねられたりもしました。
ここで雇っていただけて皆大喜びしているんです」
ヨハンナは瞳に涙を浮かべ、ようやく訪れた穏やかで満ち足りた生活に安堵したかのように穏やかな顔つきで心から寄りこんでいるようだった。
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
そう答えたものの、この国の王妃としてそんな貧しい虐げられた国民がいた事すら想像すらしなかった。
私は自分自身を殴りつけたい気分になる。
せめてもの償いにこれから多くの雇用をしようと彼女の出会いで心に決めたの。
「皆精一杯働きましょう!」
「は~~~~い!!」
商会のスタッフの元気な声が皆の笑いに誘う。
そうそうあのショーからドレスの注文はひっきりなしに入りキュー商会の工房は大忙し。
私もデザイナーとして腱鞘炎になるくらいデッサンしているわ。
それらを確実に納品出来ている。
ドレスだけじゃない。
帽子やアクセサリーなどの装身具やバック、リボン、シューズ店頭に出した商品は全て完売し、オーダーや予約も断り切れないほど入ってくる。
商会は大忙し、それらを作るドレスや小物の装飾にヨハンナが同僚や知人をたより、腕のたつ縫い子を集めてくれて仕上げてくれた。
納品されたドレスを着て田舎の別荘でのんびり過ごすのが今の流行りらしい。
そこで親しい人を招いてのパーティーをしたり、舟遊びや川遊び、中には農業体験をしたりしているのだそうよ。
あのドレスは締めつけがないし、柔らかな肌触りと着やすさで高評で、今や高位貴族もこっそりお忍びで来ては注文しているそうよ。
後サンジェルマン伯爵に頼んでおいたスキンケア商品も売り上げ好調なの。
デンマークは寒いでしょ。
保湿効果の高いローズ水と蜂蜜と蜜蝋と薬草を配合したクリーム、南国の高級オリーブオイルの美容液を発売したの。
大人気よ!
これも生産が追いつかないほどよ、
宣伝一切なくて、口こみだけで飛ぶように売れている。
あっ!
あの朗読会で詩を披露した詩集も重版を重ねて大盛況今やデンマークで文芸書籍売上トップ3に名を連ねているの。
キュー商会の経営は仁風満帆!!
従業員は大忙しで活気のある商会として知名度はドンドン登り。
今や流行の最先端を牽引していると新興貴族やブルジョア階級では評判になっている。
当然サロンドゥキューの催しも好調。
会員数は鰻昇りで最近は紹介者がいても入会を断る事もあるのよ。
だけどそれでもあまりにキャパがない。
ならばととなりの邸も購入したわ!
勿論即決即金でね。
そして各分野毎の文化事業を行なっているわ。
文学芸術部門、経済・政治部門を柱にして、それぞれの議題で皆思い思いの考えを論じては刺激し合っているのよ。
定期的に専門家の講義も開催しているわ。
すぐではないけれど、彼らの時代がやってくる。
一部の貴族が利権を独占するのではなく、新しい階層の人達の時代が必ずやってくる。
間違いなく。
その日の為に私は羽ばたく用意をしないと。
必ず大空に向かって自由に。
でもでもね。
本当にそんな事が出来るのかしら?
私の子は?
あの子と永遠の別れをしなくてはいけない。
出来る?
出来ない?
でも自由は?
私は答えを出せないまま王の居ぬ月日を王宮とサロンの往復を繰り返して過ごしていた。
そんな考えを巡らせたくない。
そうかもしれない。
きっとそう。
だから何も考えない。
そんなある日にサンジェルマン伯爵から時空間移動装置の完成の知らせがやってきた。
その連絡方法が独特だったわ。
ある日キュー商会から感謝の印として贈り物を受けたの。
私が自分に贈るはずはないわよね。
以前フランスの王お抱えの詩人の召喚を間接的にしたのが私だった。
その礼に贈られたと侍従が言っていたわ。
デンマーク王妃が仲介役を引き受けたの。
その贈り物は金彩と瑪瑙やラピスラズリ、トルコ石を飾ったオルゴール。
蓋を開けると軽やかな音楽が流れてきた。
なんでもまだ若い演奏家ヴォルガング・アマデウス・モーツァルトという名の少年の作曲家だそうよ。
成人したら高名な音楽家になるでしょうね。
このオルゴールを持ってきた商会の担当者は満面の笑顔で「下の引き出しに面白い仕掛けをしている」と言っていた。
すぐに引き出しをすっと引くと、オルゴールの上層部が開く。
中から小さなバレリーナが出てきて手に丸まった紙を持っていた。
「あら可愛らしいわ」
私は何気にその紙を手にして胸元に隠しいれた。
そうキュー商会からの伝言だと察知したからだ。
担当者は不敵な笑みを浮かべながら一礼して謁見の儀は終了した。
私室に戻り、着替えてからその手紙を侍女の居ない寝所で開く。
案の定サンジェルマン伯爵からの手紙だった。
我が主にてデンマーク王国の王妃殿下
王妃陛下に御挨拶申し上げます。
ご依頼の品確かに完成いたしました。
つきましては明日お越しくださいませ。
お待ち申し上げております。
陛下の下僕 サンジェルマンより
いよいよ脱出の日が近いのか?
次話キュー商会に試練が待ち受ける。




