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王の居ぬ間に サロンドゥキュー 新進気鋭のデザイナーとお針子

大好評に終えたサロンのイベントの後、意気揚々とサロンを去るキャロライン・マチルダ王妃に出会いが?


「無事に終わってなによりよ。 

 ショーの後のお店の盛況ぶりはすざまじかったわね。

 とりあえず入りきらないお客様には予約と必ず納品するという約束をして。

 予約表をお渡しして帰っていただけたし。

 モスリンと材料は十分確保しているから。

 問題はお針子の方かしらね。

 素材が良くてもそれを製作出来る優秀な人材の確保が今必須ね」


高名な詩人を招いての朗読会とファッションショーは招待客を満足させ、しかも購買意欲を掻き立て商売は盛況となりすぎて、店の在庫はすぐに品切れとなったわ。

急ピッチで製作しないといけなくなり、嬉しい悲鳴をあげたわ!!



「はいオーナー。

 頭が痛い問題です。

 だからといっても誰でもいい訳にはいきません」

チーフデザイナーは渋い表情をして深い溜息をつく。


「そうよね。

 おいおい話合いましょう。

 帰りは正面からだと何かと煩いから裏の御用扉から帰るわ。

 後は任せたわよ支配人」


「かしこまりました」


裏口から出ようと1階の店舗とは逆の使用人が出入りするバックヤードを抜ける。

暗いバックヤードの先。

バタバタ!!

人の足音か?

耳について思わず足取りを止める。


「おい! 

 お前どこのどいつだ。

 どっから勝手に入ってきやがった!」


男の怒鳴る声がする。

えっ?!

顔をその声の方向を向くと体格のいい下働きの男2人が頭を下げて床に蹲って座る女性が目に入る。


何事?


私は近づいて彼らの後ろからそっと小さな声で尋ねた。


「どうしたのです?

 私はキュー。

 何があったのですか?」


男達ははっとした顔つきをした後、思い出したかのようにあたふたとあわて始めた。

この仮面の事は商会でも知らせてあり、オーナーが仮面をつけているのは周知しているらしい。


「オーナー!

 俺等今日の後片付けでバックヤードに来てみたら。

 女が!

 ここで隠れているのを見つけて」


「そうです。

 他の商会のスパイかもしれません。

 拘束して秘密警察に知らせましょう」


「そうです。

 窃盗犯かもしれません」


「……。

 私は窃盗犯ではありません」

床に転がる様に蹲ったまま塊から声が聞こえた。


「えっ?」

茶色がかった黒髪は埃に乱れ顔は煤と埃で黒く汚れている。

瞳は狼狽しなが強い輝きがあるが、来ているドレスは汚れてあまり裕福ではない平民だとわかった。



「店の前にいたら綺麗な刺繍糸と素晴らしい生地が目に入って。

 あまりの美しさに何も考えず。

 ついつい勝手に入ってしまったのです」

彼女は蚊の鳴く様な声で話始める。

顔は青白く声も小さく震えていた。


「はっ?

 窃盗犯は捕まった皆そういうさ。

 見つかった後ならなんとでもいえる」


「何発か殴って追い出しておきます」


「本当です。

 私はお針子をしていて。

 本当に見事な…。

 本当です。

 信じて!!」


彼女の必死の訴えは嘘をついているとは思えなかった。


 「本当に申し訳ありません」

額からはうっすら汗が滲んで顔も紅潮してどうしても正直に言っているしか思えない。


「では今から針と糸、生地をお渡しするわ。

 試しにこれを刺してみて。

 出来たらあなたを信じるわ」


私はすぐ近くに何気なく置いてある針と糸、絹の生地の端切れを手渡した。

彼女は震える手でそれを受け取り、真剣な眼差しで1針1針を刺していく。


目を見張った。

正確な動き、まるで機械のようだわ。


それに生真面目なのがよくわかる。


「貴方お名前は?」

何かに誘われる様に口から言葉が出る。


「ヨハンナ・マリー・リヴィルと申します」


「そう…ヨハンナ。

 明日またいらっしゃいな支配人には私から伝えるから。

 一度来て」


「えっ?」


「明日午前にきてくださいね。

 貴方のお話を信じるわ」


「あっ…はい」


ん〜よし!

とりあえず1人は確保した。

意気揚々と更に奥へと続く廊下を抜けて裏口の扉を開ける。  


目の前の真っすぐの小路を足早に駆け抜けると門が見える。

そこに質素な馬車を待機させていた。


「おかえりなさいませ。

 ご主人様」

御者は辺りには聞こえるか聞こえないかと思うくらいの声で私をむかえた。


「ええ。急いで帰らなくてはね」


その馬車に乗り込もうとした時だった。


ドン!バン!

ガタガタガタガタ!!



「うっ!!」


大通りの方から何が倒れたような大きな音が耳を裂く。

挿絵(By みてみん)

はっと反射的に身体が動いて大通りに出る。

流石に昼の市街は人通りが激しい。

荷を馬車に積み込む労働者、行き交う人々、そして当てもなく彷徨う貧しい人々。

老若男女が今を生きている。


空耳?

それとも?

そう思った瞬間に私のすぐ脇にある路地で何かが動くのが目に入る。


そちらに身体を低くして大きな樽に隠れて用心深く見てみる。


さっきのヨハンナが3人の汚い身なりの男達に絡まれている光景が入ってきた。


「お前!

 俺が寝ている間に金を盗んだろう」


「なんの事?」


「なめんなよ。

 せっかく大勢の娼婦の中で大金を払ってやったのに。

 人の金を盗む娼婦だなんて!」


「私は盗んでないわ」


「まだ言ってやがる!!」


「殺してやる」

男はそう言って大きな拳でヨハンナを今にも殴りそうに拳をかかげた!


「誰か!

 誰か!! 

 うちのお針子が!

 襲われているわ。

 憲兵を呼んできて。

 人が殺されそうよ!」


大通りにわざと聞こえるくらいありったけの叫び声を空に投げた。


「くっそ…!」


「皆!行くぞ。

 ヨハンナ覚えておけよ!」


私の必死の剣幕でドタバタと男達は逃げていった。

後に残されたヨハンナは髪を振り乱して呆然と震えながら地べたに座り込んでしまっていた。


「ヨハンナ大丈夫?」


「オー…オーナー?」


「ええ。大丈夫?」


「あっ!私。

 私誰の物も盗んでいません。

 私を信じて」


「ええ。

 わかっているわ。

 どう見てもたちの悪そうな連中だったもの。」


「私…私は」


「いいのよヨハンナ」


「えっ??」


「貴方がどんな仕事をしていようが。

 貴方はキュー商会の専属お針子よ」


「オーナー!」


「私のことはオーナーではなくデザイナーとでも思って。

 それより。

 賃金はお針子で生活出来るように支給するわ。

 そのかわり素晴らしい作品をお願いね」


「オーナー……。

 ありがとうございます。

 キュー商会の専門お針子と言ってくださって。

 縫子だけでは食べていけず。

 街角に立って娼婦を生業としなくてはいけませんでした。

 縫物だけでは飢え死にするしかないのです」


「そういう女性は沢山いるの?」


「……残念ながら……」


「そう……。

 そうね。

 貴方の目で縫子の技術の高いそういう女性をうちの専属お針子を推薦してくれるかしら。

 お針子として十分食べていけるだけの給与はお支払いするわ」


「オーナー!!」


「支配人には話しておくわ。

 明日詳しい話し合いをして給与や待遇を決めましょう」


「オーナーありがとうございます」


無事にお針子を確保出来た王妃に待ち受ける次週は?


BM評価ありがとうございます。

部門・時間毎ランクインしました。

重ねて御礼申し上げます。



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