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王妃と侍女と俳優とⅡ

キャロラインマチルダ王妃は次席侍女のアイベンと共に宮廷劇場でオペラを鑑賞した。

前世の出来事を回想後、俳優の楽屋を訪ねる。

前世ハノーファー宮廷で形身の狭い生活を強いられていた頃、娘の誕生日に催された祝賀で出会った人と恋に堕ちた。

不倫だったけど。


最初は警戒していた。

でも実は彼は少年の時に見習いに来ていたスゥエーデン貴族の子息だったの。

私も父に内緒で遊んだこともあった幼馴染だったの思い出話に酔っていって話が弾んだわ。

そのうち機会がある毎に会うようになっていった。

結婚生活の辛さをついつ言って愚痴を話してしまった。

彼懸命に聞いてくれて。

それからドンドン惹かれたわ。

禁断の愛に燃えてしまったの。

夫との性生活は子を成すだけの痛いものだったけど、愛する人と1つになるそれは至福の喜びだと知った。

まだ若かったし、息の詰まりそうな生活から逃げ出したかった。

子供達は可愛いわ。

でもどうしても辛くて苦しくて。

宮殿を飛び出し実家の父に離婚をうったえたけど説得されてしまって。

いろいろ手を尽くしたけど離婚出来ない。


だから彼ね。

駆け落ちしようと持ち掛けて東にあるザクセン王国に逃げる計画を立ててくれたのよ。

最後の逢瀬の時に夜に会いましょうと約束して別れたの。

でもね……。

その逃亡前夜に私は夫に拘束され計画は失敗したの。


夫は「彼は計画が失敗した事を知ってお前を捨てて母国へ逃げて行った」って言っていたわ。


あの夜の絶望と夫や彼に横恋慕したプラーテン伯爵夫人が加担して阻止をしたの。

プラーテン伯爵夫人は舅の公娼だったのだけど彼がハノーファー宮廷に出入りする為に肉体関係を持った間柄だったの。私は当然彼女に憎まれたわ。

私は二人を心底恨んだ。


監禁された後、離婚を主張したけれど、結局無理やり田舎の城に幽閉されたの。

多くの見張りのつけられた牢獄の囚人のような生活が始まった。

彼がどうなったかはどうか当時の私にはわからなかった。


暫くは監禁生活を強いられたけれど時と共に馬車で出かけられたり、母や親しい人とも面会出来たわ。

子供達と父には生涯会えなかったけれど……。

会えない寂しさ、彼への心配と、夫への憎悪が入り混じった不幸な生活が60年間も続いたの。

今考えれば愚かだったけれど。

あの時にああするしかなかったと思っていた。


でも今世でいろいろ当時の資料を調べてみたの。


そしたら彼は逃避行する先のザクセン国王に士官として雇い入れてほしいと謁見した際に、私「公子妃と恋愛関係になって2人でハノーファーを逃げる為」と言ってしまったのよ。


案の定ザクセン国王は事の顛末を近隣諸侯に愉快な話として広げてしまった。

そしてとうとう夫の耳に入ってしまった。


あの好色王に馬鹿正直に言ったら伝染病のように広がるのはわかっていたのに。

彼自慢したかったのかしら?


夫や舅はハノーファー宮廷内だけの噂話程度なら黙認していたわきっと。

でも諸侯に知られては黙っていない。

なによりも体裁を気にするのが宮廷というのもだったの。


彼も浅はかだったのね。

そういう彼に恋をして愛した私も愚かだったわ。

このオペラを見て当時の事が走馬灯のように頭を駆け巡った。


そして今世では恋愛なんか絶対にしないわ。

そう誓った。


オペラが終わった後にアイベンは私を誘って俳優の楽屋を訪ねる様に誘って来たの。

誘うというよりもかなり圧の強いお願いだったわ。


そして支配人に案内されて楽屋を訪れたの。


「あぁ…あの日の空の色……」

私は今日の主人公役の俳優を見て脳裏にあの日を思い出す。


挿絵(By みてみん)

そうあれはデンマークへ向けてテムズ河から船に乗り、海峡を渡ったあの空の色の様だ。

澄み切った青い瞳が自分を捕らえて離さなかった。と同時に初めて生まれ育ったキューヺ離れる寂しさと異国で1人会った事のない夫との宮廷生活への不安全てがほろ苦い思い出の日の空の色。


淡いプラチナブロンドの髪は黒いリボンで後ろで束ねている。

少し緊張しているのかぎこちなく頭を垂れて私の手を取るその骨っぽい長いしなやかな手が触れたかとおもうと、ぷっくらとしたピンク色の唇が私の甲に触れて甲に熱を感じた。


胸の奥にズキッとした、ほろ苦いそして何か後ろめたい気持ちも蘇る。

何だろうか?

自分でも不思議な気持ちだ。

今まで経験した事のない全ての感情が混在してマーブル模様の様のそれは複雑に絡み合う。

胸の中で木々の葉が揺れて騒めいて胸の奥で何かがチクチクいたんだ。

でもその正体は知らない。


「見事な演技でしたわ」

アイベンは弾むような声で賞賛の言葉を投げかけ、その俳優に近づいた。

その極めて自然に優雅でありながらも色めいたその仕草に否が応でもわかった。


二人の関係が。


「そうね。素晴らしかったわ」

悪いが心からではないけれど私は口元を緩めながら同調するように言葉を選んだ。


「ありがとうございます。

 ダニエル・ラトゥールと申します。

 王妃陛下に見ていただけたなど光栄の極みでございます。

 また度々来ていただければ嬉しく存じます」


まさに模範解答ながら、嫌な感じはしない。

「えぇ。

 そうね時間があれば伺うわ」


私は不思議な感覚を覚えた。

彼の表情に違和感を感じたから。

懐かしそうでいてそして愛おしさと後ろめたさと。

近づきたいという欲求と離れなくてはいけない自制とが混在している複雑さが垣間見れたから。


「私貴方にお会いした事があったかしら?」

なんとなくそう自分でも不思議に口から出た疑問を伝える。


ダニエルは一瞬驚いたような表情をした後、僅かな後ろめたいような伏し目がちなベールを纏った様な暗い瞳が影を落とした。





ウキウキ気分のアイベンから思わぬ提案が?

それが待ち起こす事件になろうとは?


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