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侯爵夫人の暴走

息子の誕生とアンヌの救出を終えてほっとするも束の間デンマーク宮廷ではロシア帝国の外交団を迎える式典が開催された。


王太后とホルツ伯爵の悪だくみはシンメルマンの見事なゲンターベン嬢の追放劇で回避出来幕を下ろした。

彼らの地団駄する様子を想像するだけで気分がいい。

私はほっとしたのも束の間今は息子のお世話に夢中だ。


手のかからない子で健康そのものでほっと胸をなでおろす。

愛らしさは益々増して、穏やかでこれといった気難しい様子も事もない良い子。

世話を担当する者達や宮廷医からは心身ともに太鼓判と報告をうけてほっとしている。

良い子すぎて心配になるくらい。彼に関わる誰もが私の息子を賞賛してくれる。

乳母につけた者達は生まれよりも乳の出がよい性格の穏やかな者を選んだ。


私は度々彼の部屋を訪れては可愛らしい子を腕に抱きしめては、窓辺で椅子に座り我が子を抱きながら窓越しに見える内庭を眺める。

再び母としての喜びに心はうかれるけれど、いずれこの子とも別れが来る。

嬉しいけど物悲しさもあり、物悲しい茜色の夕暮れ時には涙が流れ子の赤い頬を濡らした。

その赤い頬をその小さな手を、絹の金糸の柔らかい髪を撫でては時を過ごした。


私は何がしたいのだろうか?

こんな可愛らしい我が子を残しデンマークを去る。

何をしに?

何がしたいのか?

本当にこれでいいの?

そんな気持ちと自由になりたいという自我が戦っている。

そんな母の気持ちを知らずぼんやりと覗くと我が子は無邪気に笑っている。

どうあれ父親が病で君主の務めが出来ない状況に変わりはない。

この子の為に信頼出来る者が必要だ。

愛情を持って忠誠を尽くす。

限りなく愛おしんで傍にいてくれる保護者が。


宮中に居る者から厳選しある女性に目をつけた。

マーグレーテ・マリー・トマシーヌ・ヌムセン夫人だ。

夫は将軍で軍部の高官。

シンメルマンやヘッセン公とも繋がっている。

つまりホルク伯爵の懐柔は防げる。

私は出来るだけ彼女と息子を結びつけよう。

しばらくは育児にかかりきりになったけど全てが新鮮で喜びに満ち充実した日々。


けれどまだやり残した事が一つあった。

けれどそれは私だけの手では出来ない。

しかし暗黙と放置する事でその事件は必ず起こる。

そう信じてその日を静かに待っていた。


そんなある日にプレッセン侯爵夫人の何気ない一言で事態は動いたの。


どうやら後継者が出来私の影響力が大きくなるタイミングで、プレッセン侯爵夫人は政治に口を挟み始めたの。


以前から侯爵夫人のサロンは反ホルク伯爵派のたまり場になっていた。

最近は血気盛んな若者達が何やら物騒な話題を口にし始めていたという噂は私の耳にも届いていた。


例えば現在の保守的な廷臣を追放して新興貴族へ総入れ替えしようとしたり、果てはクーデターすら口にしているという。

勿論まだ表立って表面化していないものの。

不穏な空気に敵は敏感に反応するだろう。


そんな時にその事件は起きた。


その日はロシア高官のデンマーク訪問を歓迎する夜会で、大臣達はその接待に躍起になっていた。

ロシア帝国は東に位置する大帝国。

デンマークはスゥエーデンとは敵対していたから、もしスゥエーデンと同盟でも結ばれて攻撃されたらひとたまりもないのだ。

なので隣国のロシアとは友好関係を維持しないといけない。

この夜会は彼ら外交団の慰安歓迎会だったわ。


貴族達は皆おべっかを使う様にロシア高官達の廻りを囲み彼らを賞賛していた。


私は王と共に少し離れた場所で外務大臣とホルク伯爵と共に歓談していた。

その場には私の侍女長たるプレッセン侯爵夫人の姿もあったが、始終不服そうな顔を隠さない。

珍しく怒りの感情を表してグラスの葡萄酒をぐっと口に運んでは乱暴に次々グラスを変えて飲干していた。


飲み過ぎでは?

私の嫌な予感はドンドン心を浸食していく度にプレッセン侯爵夫人は酒に酔い始めてきたようだった。

いつもよりもかなり早いペースで酔っているようだった。


私はぎゅっとグラスを脱ぎりしめ、何もいわず、ただ黙って作り笑いで何事も起きない。何語事悟られない様にその一点に全てを観察している。


「国王陛下。

 あまりロシア依存は我が国デンマークにとって害でしかありません。

 ロシアと敵対しなくともある一定の距離を保つ事が重要です。

 どうか次の王太子殿下の御為外交の見直しを是が非でもすべきです」


王はそのプレッセン侯爵夫人の一言にきょとんとした表情を見せては、次にニッコリと微笑んでは一言話そうとした時だった。


「プレッセン侯爵夫人。

 お言葉が過ぎます。

 この宴はロシア帝国外交団の一行を歓迎する式典。

 夫人の立場で政治に口出しするのはあまりに唐突で害になるのでは?」


ホルク伯爵は珍しく声を落しながらもその表情には鋭い牙の表情を露わにした。

しかしプレッセン侯爵夫人はそんな避難ももろともしない。


「ホルク伯爵。

 女ながらに政治に口を挟むなといわんばかりなのでしょ。

 でもフランスのルイ15世公娼ポンパドール夫人は女ながらに政治に強い影響力を発揮してフランスを導きました。

 女だかれという理由では何の正当性もございませんわ。」

悪びれた様子もない。


「………」

王は何を言っているのか理解が出来ない様できょとんとしている。


「プレッセン侯爵夫人。

 さすがにこの場に相応しくない言動です。

 控えるのが一番でしょう」

外務大臣はそれ以上の言動を許さなかった。

当然だ外交は自分の裁量だからだ。

たかが侍女長に口を挟まれただけでも不快のようだった。


それはそうだろう。

プレッセン侯爵夫人だけが意見を述べているのなら無視はできるが、彼女の背後には反ロシア派が控えているのだ。

廷臣達は自分の地位を脅かされる事には極めて敏感だった。


「何をおっしゃっているのか?

 我がデンマークの危機ですわ。

 政治に関与してはいけないなどど。

 怠慢ではありませんか?」


ええ~~~。

というか。

やはり予定通りの回答だった。


プレッセン侯爵夫人は最近私にも政治言動を進める様に発言していた。


「王太子殿下がいらっしゃるのだから王妃陛下の発言にも重みが増していらっしゃいます。

 国王陛下にも粘り強くご意見されれば耳を傾けられますとも。

 王妃陛下の御助言を是非この機会に。

 政治活動をなさいませ!」


って言ってたっけ………。

残念ながらゲンターベン嬢を追放して王太子を産んでから夫とは夜の生活はありません。

だって後継者はもういるし。


このままではいけない。

暴走する侯爵夫人には宮殿を退出してもらおう。

穏便で彼女の自尊心を損なわない様に。

その矢先の出来事だ。


この夜会の後廷臣達はすぐさま閣議を開きある決定がなされた。

プレッセン侯爵夫人は日を置かず私にも事前に説明もないまま、宮廷の侍女長の座から解雇されすぐさま宮廷を追われた。


私はなんの抗議もせずに静かに静観の構えながらも、この解雇事件に了承をしていないと姿勢を見せる為、新しい侍従長の信任を拒否する宣言をしたの。


もう大体わかったと思うけど、この事件の後方には王太后とホルク伯爵がいたわね。

アンヌの排除とおそらく頭の上のたんこぶプレッセン侯爵夫人を排除する計画が組まれていたようなの。

表立っての事件を起こすのではなく、相手が油断やつけあがる様にわざと政治活動を放任していたようなのね。


プレッセン侯爵夫人はその罠にはまってしまった。


そして私は彼女の危機を知りながら。

彼女が宮廷を追われる事を望んだわ。

何故なら彼女の助言は的を外していたし、彼女の隙だらけの態度や言動はいずれデンマークを去る私の害になると判断したからなの。

彼女が宮廷を追われても決して殺される事はないはず、デンマークでは公爵につぐ地位の侯爵夫人。

それに今の所彼女のサークルは大きな革命を企てるほどの力はなかったから。

ホルク伯爵は芽は小さいうちに摘めという戦略に出たの。


そして退任の挨拶の出来ないうちに早々に宮殿を出て行っという。


侍女達は悲しみのあまり涙する者も多かった。

特にマチルダは崇拝すらしていたので、大声を出して泣いていたわ。

さようならプレッセン侯爵夫人。

御免なさいね。

貴女がいると私の計画がばれてしまう。

せめて領地で静かに暮らせるように願っています。



お元気でプレッセン侯爵夫人。

またお会いする機会があれば貴女の労をねぎらうわ。





史実ではプレッセン侯爵夫人とキャロライン・マチルダ王妃は友情以上の信頼に満ちた関係でした。

彼女が宮廷を去った後、後任の侍女長を認めずしばらく空席が続いた事からもわかります。


さて物語は次の展開へ。

夫の外遊が決定し王妃は一年近く独身の様な生活が出来、次の準備を始めます。


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