轟く宮廷 宇宙の恋人の顛末Ⅶ
シンメルマン邸に現れたサンジェルマン伯爵にキャロライン王妃はとある願いを依頼する。
「……。サンジェルマン伯爵。
暫くデンマークに滞在してもらいたいの。
しかも秘密裏に………。
私はタイミングを見計らってデンマークを
離れようと思っています。
ただ流石にすぐには無理ですし……。
宮廷から簡単にと逃走するのは困難です。
財力はキュー商会で十分確保しました。
後はお腹の子が王子なら後継者を残す使命
は果たせますが、君主に相応しい教育を与える義務があります。
まだ具体的な計画はこれからですし……。
貴方様の類まれな叡智で私を助けて欲しい
のです」
ここで伯爵は一瞬戸惑ったようなそれでいて訝しんだ表情でじっと私の顔を眺めて軽く息を吐いて話始める。
「王妃陛下。
陛下がそこまでして。
その輝かしい地位を捨てるには理由がある
はずです。
デンマーク国王陛下の病の他に。
いや。
もはやそれすら理由てばないかもしれない
また別の本当の理由があるはずです。
理由をお話いただかないと協力は出来な
いとお答えするしはございません」
伯爵のその瞳は確信を持っていると言わんばかりに私を凝視にて視線を外さない。
私を真剣に思ってくれているのではないか?
そんな期待を持ちながらも私は答えを躊躇するかのように伯爵から視線を外し、霜で曇ったガラスを指で擦る。
冷たい水滴が指から伝い身体へと移動すると同時に心も氷ついたように全てから閉ざそうとしているのを自覚する。
視線を外に向けると。
硝子窓の外には忙しく馬車が行き交う大通り老いも若きも、見るからに貧しい者、富める者がひしめき合うこのコペンハーゲンの都市をまるで書物のページを捲るかの様に繰り返される街並み。
私がいてもいなくてもこの光景は続いていくだろう。
この子が産まれても。
そう……この先も………私がいなくても。
そぅふと視線を外した私に伯爵が問いかける。
「陛下。
私は全ての英知を得ております。
隠し事はできません。
私は全てを見て感じる千里眼の持ち主なの
です。
私はすでに全てを承知しております。
しかし事の次第はあまりに刺激的で衝撃的であり。
善福の信頼関係を築くには全てを当事者から聞く必要がございます。
さぁお答えくだされば私の全てをかけて尽力いたします。命に変えても。」
命にかえましても…。
その言葉でようやく伯爵の瞳へと視線を動かす。
その言葉が胸にジンと響いて氷ついた心をまるで春の日差しの様に少しずつ溶かしていく感覚を感じる。
初めて会った異国の王妃に命をかける。
たとえそれが形式的な言葉でも枯渇した今の私の心に沸き立つ泉を授けてくれる。
ポカポカしたあったかなじんわりとして何かに解き放たれたようだった。
私は決めた。
示された道を進む為に。
ゆっくりと身体を伯爵の視線へ向けて静かに答えた。
「そうですね。
伯爵のような方にはすでに承知されている
のでしょうね。
……。
私がこれからお話する事は狂人のたわごと
と聞こえるかもしれません。
いえ聞こえるでしょう。
いえすでに狂人かもしれません。
でも私の記憶の中には静かに奥底に確かにあるのです。
確かな記憶が。
……。私キャロライン・マチルダは………。私は…。
父方の曾祖母である……ソフィ―ドロテア公子妃の…生まれ変わりという……事実を…」
私の静かに告白した唇は震えが止まらない。
訳もなくなんの感情もないにも関わらず自然に涙が頬を伝った。
悲しくもなく、辛くもないのに。
いやこの感情はきっとようやく人にこの言いようのない絶望感と閉塞感からの解放だったかもしれない。
この事実で簡単に人は納得しないわ。
不安に揺れる瞳を僅かに伯爵のその顔を上目使いに見る。
はっとするほど伯爵は満足そうに微笑んでいる。
感心したかのようなまるで可愛らしい孫娘を見るかの様な愛おしい者への慈愛の表情だ。
「陛下。
この私に告白くださりありがとうございます。
私は全ての世界を。
全ての精神世界を知り尽くす。
それが私サンジェルマンです。
この世にはあり得ない事が。
常識が非常識で非常識が常識な事も存在するのです。
何を隠そう。私は不死の身であり。
ソロモン王やシバの女王と会い。
リチャード1世とも会話し。
そしてタイムトラベラーでもあるのですよ
~~ハッハハハ~~~」
その高らかな笑いは私の心にポカポカとした温かさをもたらしてくれる。
自然と安心感と11年間誰にも話せなかった秘密を打ち明けられた。
なんと表現したらいいかわからない重責を降ろせた安堵感からか。
涙が後から後から流れて止まらなかった。
自分で指で涙を拭い告げる。
「伯爵。
改めての御願いです。
あの過去の再現は二度と御免です。
どうか私がこのデンマークから無事に出国出来るように。
手助けしてほしいのです。」
「王妃陛下のお望みのままに。
全てを捧げてご希望に沿える様にこのサンジェルマンにお任せくださいませ」
伯爵は朝の光のようなそんな存在になると確信した瞬間に会ったことも無い父の面影を感じて、心は淡い灯火に照らされて自然と笑う事が出来た。
やっと会えた気がした。
心から信頼出来る人を。
秘密を共有したからか。
そうね。
だから伯爵は理由を聞いたのよね。
さてキャロラインはサンジェルマン伯爵を味方につける事が出来た。
シンメルマンはどうやってアンヌの暗殺を阻止するのか?
次回アンヌの運命が決まる。




