轟く宮廷 宇宙の恋人の顛末Ⅵ
シンメルマンとの取引を持ち掛け遂には交渉決裂かとなった時、客間の扉が何の前触れもなく開けられた。
そして!
ガタガタガタ!!ガタガタガタ!!
口を閉じていないと振動で口の中を切ってしまうほどの揺れ。
身体が上下に激しく揺られる。
いたっ…いたたぁ…。
石畳の道を走る粗末な馬車はクッションが悪い少しの間の乗車しただけでお尻が痛い。
私は窓側の取っ手を握りしめながらグッと歯を噛みしめる。
そんな緊張感の中、目の前に無言で座る男を恨めしくてじっと睨みつけるしかない。
泣きたい!
あんなに会いたいと猛烈にアピールしたのを袖にし続け。
あのタイミングで現れるなんて……。
恨めしいわぁ。
男は腕組をして瞼を閉じてはいるものの口元は僅かに口角が上がり機嫌はよさそうだ。
そうだろう私よりも断然いいはずだ。
ヒーロー気取り。
いやまさにヒーローなんだけど………。
そうそれは認める。
「キャロライン・マチルダ王妃殿下でいらっしゃいますね」
馬車に乗るや否やこの男は確信を貫く恐ろしい一言を告げた。
今は二人だけだが、これを人前で発したらとんでもない事態になるだろう。
血の気が全部足元へと落ちる感覚で顔面蒼白になり固まる私の顔を嬉しそうにその紳士は満面の笑顔で私を見ている。
そう私は王妃だとは名乗っていなのに!!
何故わかったの??
何故デンマーク王妃だと?
性別を当てるならまだしも。
何故??
あらゆる言葉を脳内で変換するも適切な答えは弾かれない。
しかも突然現れたのか?
あんなにアプローチしても無反応だったのに。
そう完全無視だったのに!!
何度もいや何十回も何百回もヘッセン領に滞在してた彼の元へ手紙を書いた事だろう。
勿論身元を伝えてだ。
ヨーロッパを豪遊し、各国を彷徨っていた彼がようやく安住の地ヘッセンにいる事を知った私は彼に是非会いたいと切望した。
王妃になってから猛烈ないわばラブレターを書き続けたのに、このタイミングであの場所であの時に。
まるでこのシュチュエーションを狙ったかのように颯爽と現れたこの人こそ。
「申し訳ございません王妃陛下。
サンジェルマンでございます」
低いコントラバスの様な響きの声の持ち主はやや口角をあげながら意味深な含み笑いを浮かべたかと思ったら、やや頭を垂れて礼をする。
中肉中背話でとうに70歳を超えもう後半の年齢だが外見は40代にしか見えない。
圧倒的な若さは輝いて私には眩しいくらいだった。
色黒の肌と髪はしなやかで黒々として光沢があり艶やかだ。
瞳には希望と意欲の強い輝きがあり、とても老人それとは思えない。
全体的に威風堂々とし、その仕草も優美で優雅だ。
王族である私以上に気品と優美さとまさに王の家系の一人と言っても間違い。
そしてなによりその金糸や銀糸、色とりどりの刺繍で描かれた異国の鳥や花の文様とカフスやボタンはどう見てもダイヤという豪華な服装。
下に目をやると靴の真ん中にはやはり大粒のダイヤが填められている。
いで立ちはまさに王侯のようだと言っても過言ではない。
「いいのですよサンジェルマン伯爵」
そう彼こそフランス王国国王ルイ15世に仕え、フランスで錬金術師として名を馳せたあのサンジェルマン伯爵。
彼はフランス宮廷を追われた後オランダ、イギリス、イタリア、ロシア、ドイツ領を転々として科学研究を極めた当時輝かしい錬金術をこなすカリスマ錬金術師だ。
「お手紙をいただいてから暫く調査をいたしておりました。
何せ私の名を語りどうにかして研究結果を手にいて一儲けしたいというあくどい連中が後を耐えません。
ご存じ通り現在はヘッセン公の元で錬金術の研究をいたしております。
この度本当にデンマーク王妃陛下が私に助けを求めていると確信いたしました。
丁度デンマークに入国し、部下に王妃陛下に御目通りの機会を伺っていた所。
王妃陛下が変装をしてシンメルマンの邸宅に入ったと聞き急いではせ参じました。
私の助言はお役にたて誠に嬉しゅうございます」
暫くの沈黙。
いや言葉を失ったための沈黙だったの。
起ったわけでもなく。
淡々と告げられる理由への返答に困ったからだった。
それでも何か告げなくてはと紡いだ言葉が白い吐息と共に伝わった。
「おかげ様で。
シンメルマンはアンヌの件は穏便に済ませようと約束してくださったわ。
伯爵のお手柄です。
まぁ。
思うこともまったくない理由はありません
が……」
そうあの時満を持して現れたのがサンジェルマン伯爵だった。
私は事前に肖像画を手に入れていたので、驚きはしたものの彼が誰だかすぐにわかった。
なので酷く驚愕はしなかった。
しなかったが、シンメルマンの態度が一気に変わったのには驚いた。
確かに身分的に伯爵の方が上だが、シンメルマンも富と王室というバックボーンを持つ。
だから下手に出る必要はない。
でも明らかにその態度には敬意と尊敬と上下関係が存在した態度で、その後の話はトントン拍子に進んだ。
シンメルマはうちと取引の契約を結んで私の要求にも応じてくれた。
そして私は娼婦アンヌに巨額の貸付をしていているが、どうも宮廷に怪しい動きがありその調査の過程で彼女の暗殺計画がある事を掴んだ。借り逃げされるような事態は絶対にさけたいという話にもっていったの。
シンメルマは沈黙の後、どうにか策を講じてその計画を潰すと約束してくれた。
これでようやくゆっくり眠れそうと一安心で帰途についている。
「王妃陛下に対して失礼はお詫び申し上げま
す。
しかしお話がまとまりよろしうございまし
た。
まあたまたま…。
彼とは面識がございました。
しかもかなり信頼のおける方とも昵懇で。
ある時期大変親しくしておりました。
まあ宜しゅうございました」
ハァハァと温かな笑い声が響く車内が、一芝居うたなきゃいけない私は冗談にもならなく笑う気にならない。
「ええ助りました」
確かに助かった。
そう助かったと自分に言い聞かせる。
「それよりも王妃陛下は。
今回の事よりももっと重要な事柄を私にご
所望との事。
手紙でさえ伝えられない事とは?
非常に興味がございます」
「あっ!!そうなの。
私の望みはこの国を密かに出国する事。
その為にキュー商会を立ち上げました。
財力は必ず必要です。
でも財力以外にどうしても必要な物がある
のです。
その為には伯爵の知性、知識、知能あらゆる分野に精通し尋常を越え、超越した者の協力がどうしても必要なのです。
私に力を貸して下さい。
伯爵ではないと出来ない事です。
いかなる準備や後見をいたします。
どうか私の望みを!!」」
「王妃陛下は私に何をお望みに?」
「サンジェルマン伯爵。
貴方は瞬間移動について現実的に可能でしょうか?」
突然夢のような非現実的な話を持ち出してきょとんとする伯爵の顔はさっと鋭いものに変化した。
「王妃陛下。
それに関しましてはどの筋から私に?
…まあ良いでしょう。
瞬間移動はスキャン装置を用い、人のすべての原子、電子、素粒子の情報を収集した情報を、予め設定した受信ステーションに移送させて……物体を移動させます。
故に可能。
というかすでに私はその方法で今回シンメルマン邸を訪問いたしました。
何せ王妃陛下がシンメルマン邸に向かわれたという情報を、ヘッセンで入手した所でした。
すぐにテレポートしたばかりですよ。
あっと時空間移動も今研究中です」
私は完全に頭がフリーズした。
伯爵が何を言っているのか全くわからなかったから頭がおっつかない。
何?
スキャン?
テレポート?
電子?素粒子?
時空間移動?
なにそれ?
ちょっと言っている事わからない~~~。
1758年以降、彼が67歳の時パリ社交界で名を馳せた錬金術師
ルイ15世に気に入られ1760年に伯爵をスパイ容疑で告発されて以降はヨーロッパを放浪し最後はヘッセン公爵領で死去した。
一説にトランシルヴァニア地方(ルーマニア中部および北西部地域)の君主を代々務めてきたハンガリーの名門、ラーコーツィ家(The House of Rakoczi)の末裔ラーコーツィ・フェレンツ2世の長男レオポルト・ジョルジュともいわれているが素性不明、又伝説的に語り継がれた数々の伝説を持つ。
不死の身体と時空を超えたトラベラーという伝説すら残っている。




