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【ミコログ@神待ち配信】神様とVTuberやってんだけど、聴いてかない?  作者: 神代翁
1配信目 If it`s a sweet dream, don`t wake up(甘い夢なら醒めないで)
9/35

奴が来る……!

 俺は須佐から視線をそらし、話題も()らす為に言う。


「とりあえず、お前のあげた動画見せてくんない?」


「よかろう。括目(かつもく)せよ」


 須佐はノートパソコンを操作し、自分の投稿動画を映し出した。12.5インチの画面に映されていたのは、道路だ。古い下町の、(こけ)むした岩が横に退けられている。


「ん? 須佐? 須佐? 動画間違えてないか?」


「間違えておらんの。ちゅうか、こんな序盤で何が分かるんじゃ?」


 ()()と須佐が笑うが、俺は笑えない。間違っていないと断言されたのだから、よく見てみるしかない。

 ところが、なにも始まらない。そっとマウスを(うば)って表示されたシークバーをスライドしていく。シークバーが秒間3mmでスライドしていく中、画面ではひっくり返ったダンゴムシが延々と映されていた。


「須佐? これは…………これは、なんなんだ? 人類が理解できるものか?」


「道端のダンゴムシ、ひっくり返して見た! ――という動画じゃな」


 俺は、死を思う(メメント・モリ)ように瞑目(めいもく)した。ホームビデオじゃないんだから、加工して娯楽としての動画にしろ。

 そして何よりこれは、VTuberでも何でもない。関係性も世界観もクソもない。


 俺の脳内を光ファイバーの通信を超える速度で、無数の言葉がやり取りされる。湿気(しけ)た部屋で冷たいコップに結露(けつろ)が生じるように、否定の言葉が(したた)る。


「酷い、酷いよお前……これはもう動画を愛する人全てへの侮辱(ぶじょく)だよ? お前向いてねぇよ。VTuberなんてやめちまえ!」


「そんな!」


 須佐が大仰に驚く。


「動画本数2本にして、最高再生回数6回の天才的スタートなのに!?」


「それはもう失敗なんだよ! 失敗! クラウチングスタートの踏切に失敗して顔面からコケてる状態なの! 死んでるの! もう、ダメなの!」


 俺達のやり取りを邪魔するように、古びてざらついた音が割り込んだ。「ビー」という機械音は、ノコギリで引くヴァイオリンのように耳障(みみざわ)りだ。


「……なんだ?」


 ビー、ビー、と聞きなれない音が連続する。


「何を()()()の顔をしとるんじゃ……インターフォンじゃろ。このタイプの聞いたことないかの? 昭和の家とか大体この音じゃろ?」


「何歳じゃ己は」


 今は令和ぞ。昭和末期なんて40年近く前だ。


 須佐が面倒くさそうに立ち上がると共に、誰かが()を叩き始めた。軽い音だ。しかも戸の中段から聴こえるということは、背が低いのだろう。


 須佐がピタリと動きを止めた。


「――――邪気が」


「何を()()()なことを言ってるんだ」


 意趣返(いしゅがえ)しをした俺の声にかぶせるようにして、童女の声がする。


「あなた~、あなたのわたくし、櫛灘(くしなだ)がまかり越しましてございます~」


(なにの、なんの、なんて?)


 俺の頭が?で一杯になる中、戸が(げん)をつま()くようにリズミカルに叩かれている。

 トッ……

   トッ……

     トトン……


「アァナァタァ ニィィ 会いたくて会いたくて震える♪ わたくし~」


 昔、親父に連れられていった浅草の店で()いた小唄(こうた)を思い出した。後半ポップだったが。


「なんかお前の知り合いっぽいぞ、須佐」


 須佐に目線をやると、彼女は腰をあげかけた()()()()のような奇妙なポーズで固まっていた。口元がかすかに動き「ばかな」「みつかった?」「しそんくんが、うらぎったのか?」「はやすぎる」とぶつぶつ言っている。


(なんの、なんの、なんなの?)


 二人だけで(つう)()う空間にいる第三者のなんと手持ち無沙汰(ぶさた)なことか。須佐が動かないので、俺が玄関に向かう。


「駄目だ、ニカツゥ――開けるな」


 背後から聴こえる悲痛な声を無視して、戸を開ける。


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