ミコログ(素戔嗚ミコトCH)――始動
「素戔嗚ミコトというコンテンツに、どうやって人を連れていくか」
広告だろうか。流行のSNS〝X〟にアカウントを作る。
動画配信サイト〝PoyTube〟でチャンネルを開設する。
いや、それらと同時に、そもそもの物が必要だ。導く先がなければ、導線は意味がない。
「とりあえずショート動画をいくつか投稿してみよう」
VTuberも続々と新人がデビューしている。いざデビューという時に活動しだすのでは、全てが遅い。 初動である程度の人を掴んでおかなければ、バズも固定客もないのだ。
「鉄板の自己紹介動画は、せめて立ち絵が完成するまでは待ちたい。その前に雑談配信をはじめるのも、アレだからな」
文乃がテーブルの上のゴミを片付けながら言う。
「プチバズが狙える動画ってことでしょうか? とりあえずアカウントに注目を集める為の。注目が集まったら、順次本筋に誘導する感じで」
俺は頷きながら、スマートフォンでプチバズしやすいものを検索する。
「〝仕事〟〝恋愛〟〝友情〟〝教育〟〝家族〟〝健康〟関連がプチバズしやすいらしい」
「大凡の人にとっての、世界の全てですわね」
「乃子氏~、乃子氏はどんなものが好きですか? 〝X〟に投稿されているもので」
「PEPXの神プレイ動画、PEPXの珍プレイ動画、フレンド募集」
「須佐、それはただのPEPX廃人だ」
「じゃあ何が魅力なんじゃ? VTuberってのは」
須佐の言葉に、俺は「なにってそりゃぁ」と少し悩む。海が好きとか森が好きとか、一概に好きといっても受け取り方は人それぞれだ。
海の浜辺が好きなやつもいれば、波の音が好きなやつもいるし、森の木陰が好きなやつもいれば、森の動物が好きなやつもいる。だから俺は、人のことを話すのは諦めた。ただ素直に、自分が良いと思っていることを須佐に伝える。
「俺さぁ、VTuberの魅力って、本人の面白さもそうだけど、関係性の広がり方が肝だと思うんだよ。在りもしない青春の日の陰を見るって言うか。
関係性ってのはさ、VとVの関係でもあるけど、Vを支えている人の連なりもそうで……文化祭の準備っていうか……それに、雑談からゲーム配信、最近だと歌系も多いけど、その広がりもなんていうか部活っていうか、コミュニティっていうべきなのか……Vを中心に、リスナーの俺たちも含めた輪で、そこが心地よいんだよ。だからまぁ、俺がVを好きだって話なんだけど」
「アァ? 関係性の広がりってなんじゃ?」
「他のVとのコラボ動画とか、SNSでリプライ飛ばしあったりとか、あと凸待ち配信に凸したりも面白いな。お互いに世界観を持っているから難しいところもあるんだけど、世界と世界のぶつかりってやっぱ面白いし」
「ふーん。凸……突撃か……乃子も得意じゃが……意表を突けば良い訳よな? ふむ」
須佐は勉強しているような表情で聞いている。ちゃぶ台の上は、文乃のお蔭ですっかり片付いている。
卓の端で、蛇が暖を取るように湯呑に巻き付いている。
「動物動画なんかも、プチバズしやすいんですけどね~」
文乃が茶を呑もうと、蛇が巻き付いている湯呑に手を伸ばす。蛇は素早い動きで文乃の手首に巻き付くや、「ちろちろ」と日焼けした肌を舐めた。須佐が、「しゅろろ~」と舌を出している蛇の頭を叩く。
「助平オロチが」
更に姫ちゃんが蛇の頭をデコピンする。
「神格剥奪されてただの蛇にされたのに、まるで成長がありませんわね。このまま言葉も話せぬ畜生として、幾年いくるつもりですの? 餌代もただじゃありませんのよ? 野良蛇にしちゃいますわよ?」
「しゅろろ……」
蛇が露骨にしゅんとした。
(動物虐待って、蛇にも適用されんのかな)
イメージ的には犬とか猫とか、そういうのだけれど。蛇は叩かれた後、しゅんとしたようにちゃぶ台の中央に移動すると、文乃をちらりと見て、ハート形のとぐろを巻いた。
素戔嗚のイメージ――武神、蛇、百足、川……
俺の頭の中で、1つのアイデアが弾けた。
「蛇のオモシロ動画、投稿したらいいんじゃないか?」
素戔嗚ってでっかい蛇倒してた気がするし、イメージ的にも繋がりやすそうな気がする。ちゃぶ台の上では、蛇が尾で自分の頭を指して〝あっしですか?〟と目を丸くしている。
・文乃の声にあわせてハートを作る蛇
・スネーキーモンキー蛇拳の動きを真似する蛇
・忍術名と共に袖から飛び出してくる蛇
・リコーダーの音に合わせてダンスする蛇
……の動画がそれぞれ数万再生のプチバズを記録した。
【動画本数】2→6本
【最高再生回数】6→42,643回
【チャンネル名変更】卍卍卍素戔嗚卍卍卍→ミコログ(素戔嗚ミコトCH)
【チャンネル登録者数】1→23人
【X 開設】
【Xフォロワー】0→380人