結成! 4人と1匹の最強チーム!!
チキンティッカもカレーも食べ終わり、食後の緑茶を飲みながら漫然と総括に入る。
「あのさぁ、もう細かいとこは置いといて、企画は〝神系VTuber素戔嗚〟でいいか? ストレートに須佐の素性なんだが、そのままで面白いと思う。背景も本物なら、ただ雑談するだけでらしくなるし」
例えるなら、演劇や映画でいうところの、〝当て書き〟だ。須佐に演技は期待出来そうにないが、自分の背景情報を活かしてもらえれば、そのままで魅力的になる。須佐と文乃と蛇が「うん」と頷いた。
「とりあえず何でもいいんじゃないかの」
「トレンディドラマも何が受けるか分かりませんし、動き出すのが大事かと」
「しゅるるるる」
蛇が須佐の頭の上で、ごろんと横になった。いや、元から横なのだが、腹を上にして〝寝〟に入っている。
(たぶんこの蛇も、神様とか化生とかそんなんなんだろう)
尾の先が、須佐の髪のようにちゃぶ台にまで垂れている。
「素戔嗚ですか」
文乃だけが「んー」と眉根に皺をよせ、紙に書いた名前を睨んでいる。
「素戔嗚だと可愛くありませんし、乃子氏の声が女性なのとも矛盾しますからね。フックになるというより、純粋な疑問になっちゃうかも」
(矛盾? あ、そっか。素戔嗚って男神か)
須佐が須佐だから抜け落ちていたが、そもそも男の神と伝わっているものか。文乃はいくつかの単語を紙に書き、線と記号で結んで蜘蛛の巣のように繋げていった。未来の具現化のようなそれを塗抹のようにボールペンで塗りながら、文乃はつぶやく。
「あんまり捻ると、伝わらなくなっちゃいますからねー」
全ての可能性を真っ黒に塗りつぶした上で、横にまったく違う名前を書き込んでいく。
「〝神人系VTuber 素戔嗚ミコト〟で如何でしょうか~? 神から素戔嗚で連想してもらい、ミコトで女性的な感じになるかと~。あと、命を開き――ああ、選挙ポスターで候補者の方が名前をひらがなで書くやつですね。したので、覚えやすさもあがるかと」
「「「異議なーし」」」
そのまま、今後の活動方針について話していく。
「櫛灘さんはVTuberのモデル画をいくつか描いて欲しい。使うイラストはデジタルにしたいから、あくまで案ってことで」
「姫ちゃんでいいですわ。モデル画ってことは、要するに美人画にしたらよろしいんですよね? 使って良い色数に限りはありますか?」
(美人画? そして色数? 微妙に食い違いが――あ)
「版画じゃないから色とかの制限はないです。ただ、目や髪、服は動くものとして考えて欲しい。だから色とか形はある程度はっきりした方がいいかも。後で見本送ります」
「承りましたわ。とりあえず10種類作りますので、当世人の感覚でよさそうなものを選んでくださいまし。それを練り上げましょう」
要素としては、と櫛灘――姫ちゃんが指を折る。
「武神、蛇、百足、川、嫁がとんでもなく可愛くて甲斐甲斐しい、この辺りでしょうか」
流石に姉の家で脱糞は入れられなかったようだ。
「で」
俺は、須佐と自分を指差す。
「俺らはバイト。第1目標が液タブ。第2目標がハイエンドPC。目標金額は」
いくらが妥当だろうか、と悩む。その隙に須佐が思い付きで叫ぶ。
「100万でよくない?」
「もっと低額で始めることも出来るぞ」
「乃子、やるからにはトップに立ちたいもん。とりあえずウズメは超えたい。ならもう、高いの買った方が無駄ないじゃろ?」
「そうかな…………そうだな」
屈託のない顔で笑う須佐を見ていたら、血迷ったのか、俺も須佐と一山当てたくなってきた。
(もしこれが夢なら、噛み締めたい。夢から醒めたあとも、食いしばった感触が歯に残るくらい、何かを、PCという活動のガワだけになったとしても、残ることをしたい)
そう思い、須佐を見ると、頭頂部の髪が一房持ち上がっていた。髪はふわふわと揺れ、須佐はその様子を見るために目を寄せる。
「お、信仰心が集まって来たようじゃ」
髪は少しすると、力を失い、息絶えるようにして倒れ伏した。
「静電気みたいだな、すぐ力尽きるあたりも」
「あのぉ、疑問なのですが、信仰心って、人が神社でお祈りすると集まるものなんですか?」
「初めの方は、神社が1番よかったがのぉ、純度も高くて」
須佐の言葉を受け、姫ちゃんが悲し気に続ける。
「奈良あたりで神仏習合ってから、めっきり稼ぎが減って……伝承も散逸して、混じり物になっていって……異教の祭典、現人崇拝、漫画、アニメ……」
姫ちゃんは風船から空気が抜けるように、ゆっくりため息を吐いた。
「そしてVTuber……どんどん信仰が奪われていって……わたくしたち、もう青息吐息でして、かすかすの信仰心しかもらえませんの」
人間を発電機としたら、発電効率が落ちていく中で、電気自体の使用量はあがっていき厳しいという話だろうか。
「顕現に必要な信力も値上げされて、わたくしなんて童女の姿しか取れず……」
「神様もスタグフレーションに苦しむ時代なんですねぇ」
文乃も難しい顔をして応えた。
「ワタシ氏も微力ながらお力添えいたします。具体的には設定構築や短編小説の作成等で」
話が脱線していっている気がする。俺と同じ気持ちなのか、蛇もイライラしているように、面々を睨んでいる。〝分かってねぇな〟というように、ちろちろと舌を左右に振っている。蛇が〝どうする?〟というように、俺を見ている気がする。
「ちっ」
気のせいだろうと思うが、蛇が舌打ちした気がした。蛇がテーブルの上の空き缶を、尾で叩いた。左右から小刻みに叩かれる度、缶は甲高く鳴り、アルミの悲鳴の末路としてベコベコに凹んでいく。
全員の視線が集まったことを確認し、蛇が尾でパンパンと紙面を叩いた。そこには姫ちゃんの描いたラフ画がある。女人が大蛇に腰掛けている優美な画だ。話しを戻せと言うのだろう。蛇が〝頼むぞ?〟と言いたげな顔で、俺を見ている。
(ここから更に必要なことって、なんだ?)
俺の〝どうしよう〟という目線を看取ったのか、蛇が頭を持ち上げて、ふらふらと揺れ、尾でチキンティッカの箱を叩く。少々わざとらしい演技だが、それで出た音でチキンティッカに気付いた蛇が「はっ」という顔をして、頭から箱に向かって行った。
何かを、つまりは視聴者を、目的物へと導けというのだろうか。