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【ミコログ@神待ち配信】神様とVTuberやってんだけど、聴いてかない?  作者: 神代翁
1配信目 If it`s a sweet dream, don`t wake up(甘い夢なら醒めないで)
16/35

結成! 4人と1匹の最強チーム!!

 チキンティッカもカレーも食べ終わり、食後(しょくご)の緑茶を飲みながら漫然(まんぜん)総括(そうかつ)に入る。


「あのさぁ、もう(こま)かいとこは置いといて、企画は〝神系VTuber素戔嗚(スサノオ)〟でいいか? ストレートに須佐の素性なんだが、そのままで面白いと思う。背景も本物なら、ただ雑談するだけで()()()なるし」


 例えるなら、演劇や映画でいうところの、〝()()き〟だ。須佐に演技は期待出来(でき)そうにないが、自分の背景情報を()かしてもらえれば、そのままで魅力的(みりょくてき)になる。須佐と文乃と蛇が「うん」と(うなず)いた。


「とりあえず何でもいいんじゃないかの」


「トレンディドラマも何が受けるか分かりませんし、動き出すのが大事かと」


「しゅるるるる」


 蛇が須佐の頭の上で、ごろんと横になった。いや、元から横なのだが、腹を上にして〝寝〟に入っている。


(たぶんこの蛇も、神様とか化生(けしょう)とかそんなんなんだろう)


 尾の先が、須佐の髪のようにちゃぶ台にまで垂れている。


素戔嗚(スサノオ)ですか」


 文乃だけが「んー」と眉根に(しわ)をよせ、紙に書いた名前を(にら)んでいる。


素戔嗚(スサノオ)だと可愛くありませんし、乃子(のこ)氏の声が女性なのとも矛盾しますからね。フックになるというより、純粋な疑問になっちゃうかも」


(矛盾? あ、そっか。素戔嗚って男神か)


 須佐が須佐だから抜け落ちていたが、そもそも男の神と伝わっているものか。文乃はいくつかの単語を紙に書き、線と記号で結んで蜘蛛(くも)の巣のように(つな)げていった。未来の具現化(ぐげんか)のようなそれを塗抹(とまつ)のようにボールペンで塗りながら、文乃はつぶやく。


「あんまり(ひね)ると、伝わらなくなっちゃいますからねー」


 全ての可能性を真っ黒に塗りつぶした上で、横にまったく違う名前を書き込んでいく。


「〝神人(かみんちゅ)系VTuber 素戔嗚(スサノオ)ミコト〟で如何(いかが)でしょうか~? 神から素戔嗚で連想してもらい、ミコトで女性的な感じになるかと~。あと、(みこと)(ひら)き――ああ、選挙ポスターで候補者の方が名前をひらがなで書くやつですね。したので、覚えやすさもあがるかと」


「「「異議なーし」」」


 そのまま、今後の活動方針について話していく。


「櫛灘さんはVTuberのモデル画をいくつか描いて欲しい。使うイラストはデジタルにしたいから、あくまで案ってことで」


「姫ちゃんでいいですわ。モデル画ってことは、要するに美人画にしたらよろしいんですよね? 使って良い色数に限りはありますか?」


(美人画? そして色数? 微妙に食い違いが――あ)


「版画じゃないから色とかの制限はないです。ただ、目や髪、服は動くものとして考えて欲しい。だから色とか形はある程度はっきりした方がいいかも。後で見本送ります」


「承りましたわ。とりあえず10種類作りますので、当世(とうせい)人の感覚でよさそうなものを選んでくださいまし。それを練り上げましょう」


 要素としては、と櫛灘――姫ちゃんが指を折る。


「武神、蛇、百足、川、嫁がとんでもなく可愛くて甲斐甲斐(かいがい)しい、この辺りでしょうか」


 流石に姉の家で脱糞は入れられなかったようだ。


「で」


 俺は、須佐と自分を指差す。


「俺らはバイト。第1目標が液タブ。第2目標がハイエンドPC。目標金額は」


 いくらが妥当だろうか、と悩む。その隙に須佐が思い付きで叫ぶ。


「100万でよくない?」


「もっと低額で始めることも出来るぞ」


「乃子、やるからにはトップに立ちたいもん。とりあえずウズメは超えたい。ならもう、高いの買った方が無駄ないじゃろ?」


「そうかな…………そうだな」


 屈託(くったく)のない顔で笑う須佐を見ていたら、血迷ったのか、俺も須佐と一山(ひとやま)当てたくなってきた。


(もしこれが夢なら、()み締めたい。夢から()めたあとも、食いしばった感触が歯に残るくらい、何かを、PCという活動のガワだけになったとしても、残ることをしたい)


 そう思い、須佐を見ると、頭頂部の髪が一房(ひとふさ)持ち上がっていた。髪はふわふわと揺れ、須佐はその様子を見るために目を()せる。


「お、信仰心が集まって来たようじゃ」


 髪は少しすると、力を失い、息絶えるようにして倒れ伏した。


「静電気みたいだな、すぐ力尽きるあたりも」


「あのぉ、疑問なのですが、信仰心って、人が神社でお祈りすると集まるものなんですか?」


「初めの方は、神社が1番よかったがのぉ、純度も高くて」


 須佐の言葉を受け、姫ちゃんが悲し気に続ける。


「奈良あたりで神仏習合(しんふつしゅうごう)ってから、めっきり稼ぎが減って……伝承も散逸して、混じり物になっていって……異教の祭典(クリスマス)現人崇拝(アイドル)、漫画、アニメ……」


 姫ちゃんは風船から空気が抜けるように、ゆっくりため息を吐いた。


「そしてVTuber……どんどん信仰が奪われていって……わたくしたち、もう青息吐息(あおいきといき)でして、かすかすの信仰心しかもらえませんの」


 人間を発電機としたら、発電効率が落ちていく中で、電気自体の使用量はあがっていき厳しいという話だろうか。


顕現(けんげん)に必要な信力も値上げされて、わたくしなんて童女の姿しか取れず……」


「神様もスタグフレーションに苦しむ時代なんですねぇ」


 文乃も難しい顔をして応えた。


「ワタシ氏も微力(びりょく)ながらお力添(ちからぞ)えいたします。具体的には設定構築(せっていこうちく)や短編小説の作成等で」


 話が脱線していっている気がする。俺と同じ気持ちなのか、蛇もイライラしているように、面々を(にら)んでいる。〝分かってねぇな〟というように、ちろちろと舌を左右に振っている。蛇が〝どうする?〟というように、俺を見ている気がする。


「ちっ」


 気のせいだろうと思うが、蛇が舌打ちした気がした。蛇がテーブルの上の空き缶を、尾で叩いた。左右から小刻みに叩かれる度、缶は甲高(かんだか)く鳴り、アルミの悲鳴(ひめい)の末路としてベコベコに凹んでいく。


 全員の視線が集まったことを確認し、蛇が尾でパンパンと紙面を叩いた。そこには姫ちゃんの描いたラフ画がある。女人が大蛇に腰掛けている優美(ゆうび)な画だ。話しを戻せと言うのだろう。蛇が〝頼むぞ?〟と言いたげな顔で、俺を見ている。


(ここから更に必要なことって、なんだ?)


 俺の〝どうしよう〟という目線を看取ったのか、蛇が頭を持ち上げて、ふらふらと揺れ、尾でチキンティッカの箱を叩く。少々わざとらしい演技だが、それで出た音でチキンティッカに気付いた蛇が「はっ」という顔をして、頭から箱に向かって行った。


 何かを、つまりは視聴者を、目的物へと導けというのだろうか。


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