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【ミコログ@神待ち配信】神様とVTuberやってんだけど、聴いてかない?  作者: 神代翁
1配信目 If it`s a sweet dream, don`t wake up(甘い夢なら醒めないで)
15/35

神様の話より、チキンティッカ食べようぜ

「通りの良い名前で申しますと」


 そう切り出したのは櫛灘だ。


「わたくしの名はクシナダヒメ。そして、この方の御名はスサノオノミコト」


「日本神話におけるビッグネームですね。とりあえず、ご発言の全てを受け取ります。後ほど疑問点は聞かせて頂ければ……あの、神様と言うのは、けっこう顕現(けんげん)なされているものですか?」


「そうですねぇ。時代によっても変わりますけれど、()()()()()()()()()()()()()()()()()と思って頂ければ……」


 ちゃぶ台の上には5つの湯呑が置かれている。須佐、櫛灘、文乃、俺、アオダイショウの分だ。アオダイショウは湯呑に巻き付くと、チロチロと舌を出して茶を舐めている。


「なるほどぉ。八百万(やおよろず)の神々って言いますものねぇ」


 文乃はさっくり受け入れているが、俺はまだ飲み込めていない。


(須佐が神様? そんな馬鹿な――いやでも、昨日、須佐は確かに空中から現れた)


 事故を否定したい気持ちが記憶を改竄(かいざん)したのかと思った。思いたかった。


(俺を片手で放り投げられる、見た目とあってない異常な怪力)


(今思えば、缶バッジ吹き飛ばしていたのも人間業じゃない)


 そうだ。思い返してみれば、()()()()()()()()()()()()。今更の恐怖に包まれながら須佐を盗み見る。須佐は真剣な顔で、俺に向けてそっと告げた。


「――なァ、カレー冷めちゃうから食べ始めていいかの」


「須佐って、ほんとに神様なの?」


「乃子ずっと神系って言うとったじゃろ? ちゅうか、ナン4つあるから、みんなで一つずつでいいかなぁ」


 こいつダメだ。カレーのことしか頭にない。須佐がナンを割り振ると、なし崩し的にみんな食べ始めた。

 俺もこうなっては食べたいところだったが……ルーティン的に食べ始めることが出来ない。俺はインドカレーを食べる際、絶対にチキンティッカから食べる。スパイスの美味しさを1番感じられるのが焼き物系で、1番美味しく食べられるのは1番初めだからだ。


 ()()()()()()()()。それは魔力的な魅力(みりょく)を持つ。であるなら、それを選択しないのはおかしなことだろう。俺はある重要なことを文乃に確認した。


「このチキンティッカって、初配送先(はいそうさき)へのサービスのやつ?」


「です。ナンを4人前だったので、チキンティッカも4人分サービスです」


 良かった。であれば、一人一本チキンティッカはあるらしい。俺はおとなしく、須佐がチキンティッカをくれるのを待つことにした。


「あのぉ、そもそもなのですがぁ、どうして神様がVTuber活動をしようと? 趣味でしょうかぁ?」


「仕事じゃよ、仕事。信力が欲しいんじゃよ」


 須佐が2本目のチキンティッカを手に櫛灘に目配せする。櫛灘は須佐からのおねだりに軽く(うなず)いた。


「求めているのは金銭ではなく、信仰ですけれどね」


「どうして信仰が必要なんですか? ないと消えちゃうんですか?」


()()()の捉え方次第ですけれど……かみ砕くと、神社はあってもご利益がなくなる、というのが近いですわね」


 文乃は話をこめかみを人差し指でおさえ、瞳をぐるぐると回して情報を処理している。なんだか(ふくろう)に似ていて可愛らしい。


「同じ質問になり恐縮ですが、なぜVTuberなんですか?」


「乃子達はおそらく、滅びる途上にあっての」


 須佐が櫛灘を見て、思い出しつつ話す。


「お主らは知らんと思うが、前の大戦で神域も神々もズタボロになっとったんよ」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょう? 芦原(あしはらの)(なか)つ国の方も減っておられて信仰の総量が減り、ご利益がないから信仰されなくなりまして」


「そこにアレきたからの。映画とか、ドラマとか」


「そうそう。それで人々の信仰の対象が拡散していきまして……しかもわたくし達はカメラに写れないものですから、打つ手がなくなりまして……あらぁ~わたくし達、滅んじゃう~って絶望してましたの」


 絶望にしては、ポップな感情に感じる。須佐が鳥の骨で文乃を指す。


「そしたらモーションキャプチャとか新しい技術が出てきたじゃろ。オモイカネ(オタク)がそれ(いじ)ってたら、〝あれ? 神格持ちってカメラには映らないけど、認識はされてるっぽくね?〟って気づいてのぉ」


「元々、絵巻物(えまきもの)等で信力を回収する手法は確立されてましたので、これはイケると。高天ヶ原の御令姉様もノリノリでしたし」


「ウズメが〝乃子ちゃん大好きなPEPXして暮らせるよ?〟って囁いてきて、乃子はもうこれは乗るしかないと」


「わたくしは詐欺(さぎ)だと思い、止めるつもりでしたの。ところが()(くに)を脱走されまして」


 須佐が〝こうなった訳〟と言いたげな顔で、両手を広げた。須佐が3本目のチキンティッカに手を伸ばし、文乃が軽く頷きを返した。文乃は店の売れ残りをいつも食べているから、カレーやチキンティッカに執着しないのだ。


(大分待たされているけど、まぁ次で食えるしな)


 卓上のカレーはもう半分も残っていない。だが俺は、ルーティーンを崩すくらいなら絶食する。俺は効果が確定したものを愛し、未知のものに忌避感を感じる男。

 俺だけが無駄にハラハラしている中、文乃が話のかじ取りを続けている。


「要するに――――本当に、生活の為にやっている、ということなんですね」


「うん。あと、信力が枯渇(こかつ)すると乃子達の意思がなくなるから、PEPXとか出来なくなる。雪山で寝ちゃう感じに近い……かの」


「死の概念に近いのでしょうかぁ?」


「どちらかというと、植物状態に近いかもしれんのぅ」


「えぇ。信仰が集まれば目覚めるでしょうし、集まらなければもう2度と目覚めない……」


「その時、ヒトの言う()()()という状態になるのであろうな」


 須佐が4本目のチキンティッカに手を伸ばす。


「須佐、ソレは駄目だ。マジで駄目。受け入れらんないよ俺」


 お前が神として、神が許したとして、俺は許さねぇよ?


「ニカツ……」


 須佐が(うる)んだ瞳で俺に手を伸ばしてきたが、普通に邪魔(じゃま)。払いのける。さっさとそのスパイスの染みた鳥を寄越(よこ)せ。須佐が「ニカツ?」と払われた手を(こす)るのも鬱陶(うっとう)しい。(いきどお)り、立ち上がろうとした俺の体を、何かが()いとめた。


「……しゅるる」


「かゆ」


と下を見ると、アオダイショウが俺の体を這い上がっていた。


 突然、蛇に身体を這われ――頭がショートした。どう動いたら良いのか、まったく分からない。その間に、蛇は(じつ)に素早く俺の身体を登る。蛇は「分かっておりますとも」とでも言いたげな顔で、俺や須佐、文乃を一瞥(いちべつ)しながら、(のぼ)って来る。マフラーのように首に巻きつかれ、(うろこ)の妙にすべすべの感覚に変な声が出る。


 アオダイショウは俺の伸ばされた腕を、木々の枝を渡るようにしてテーブルに移ると、物だらけのちゃぶ台の上を疾走し、ちょっとだけ跳ねてチキンティッカに巻き付いた。


「なんじゃオロチ、お前も鳥が食いたいんか」


 須佐が「チチチ」と言いながら、鳥を指先でほぐしてやっている。


「ああ……てぃっか」


 俺は蛇が身体から離れた安堵感(あんどかん)と、結局チキンティッカを取られたガッカリ感で、定まらない心のまま手を宙に伸ばし続けていた。その手に、文乃が箱を押し付けた。インド人なのかフィリピン人なのか判然としない、物凄く()()ことだけは分かる男の顔が描かれた箱は、文乃の親父のやっている偽インドカレー屋のアイコンだ。


「せんぱい、ありますよ、チキンティッカ」


 予備です、と文乃がウィンクした。


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