幼馴染も来た……!
窓の外から急ブレーキの音と、須佐の「ぐぇ」という悲鳴が響いた。窓から下を見下ろすと、自転車に轢かれた須佐が転がっている。その前で、ショートカットの女の子があわあわと動いている。
「え、アイツまた轢かれてる」
「あの方は大波にぶつかるという宿業を負ってますので。あれも必要な縁なのでしょうね」
「やべーよ、須佐だけでもやべーのにもう一人やべー女の子が追加されちゃった」
「ニカツくん、それは心の中に留めておいた方が賢明な台詞ですわよ?」
「すいません……櫛灘さんがヤバいくらい可愛い女の子、というのの略です」
「うふふ……もう一声。あの方も絡めてくださいまし」
「すいません……美少女の須佐だけでもやべーのに、まだ蕾ながら〝立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花〟へ至ることを思わせる端麗にして楚々のやべーロリっ子櫛灘さんが追加されたことで、俺の処理能力を超えちゃう――の略です」
「むふー」
櫛灘にご納得頂けたところで、俺はアパートの下へ向かう。アパートの下では自転車に撥ねられた須佐が転がったままだ。どうやら縁石に頭をぶつけたらしく、マジで痛いらしい。頭をおさえて唸っている。
その横で、中学校の制服に身を包んだ少女が救護活動を行おうとしている。日焼けした様子からは活発な印象を、落ち着いた瞳からは冷静な印象を受ける。
上から見た時点でもしやと思っていたが、幼馴染の関守文乃だ。
「あ、頭をぶつけた時は動かしてよいのでしょうか……出血はないようですが……」
「文乃、コイツ轢かれなれてるからたぶん大丈夫」
「あ」
文乃が俺を仰ぎ見る。すると、無機質な瞳にパッと光が差し込む。
「せんぱいって、おいくら出したらワタクシ氏と一緒に逃げてくれますか? 死体を埋めてくれますか? ワタクシ氏を捧げれば、一生一緒にいてくれますか?」
なんでコイツは、瞳に光が入っている時はヤバいことしか言わないのだろうか。思えば、俺が部活を辞めることとなった事件を契機として、ネジが外れた気もする。
「どぅどぅどぅ」
「低い声がワタクシ氏の混乱をすぅーっと弱めていくぅー」
文乃を落ち着かせていると、痛みに呻いていた須佐がこちらを見た。
「――――なんか、対応違くないかの?」
「お前には櫛灘さんがいるだろうが」
櫛灘もアパートの下にやってきた櫛灘は着物を丁寧に抑えてしゃがむと、須佐に「どぅどぅどぅ」と俺の真似をした。須佐は舌打ちすると、アパートの二階に戻っていく。
と思うや、須佐はアパートの壁から顔を出して、
「みんな飯食ってく? ちょうど来たみたいだしの」
と呼びかけた。