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【ミコログ@神待ち配信】神様とVTuberやってんだけど、聴いてかない?  作者: 神代翁
1配信目 If it`s a sweet dream, don`t wake up(甘い夢なら醒めないで)
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ロリ毒婦

 櫛灘(くしなだ)の瞳は、何かを試し、()(はか)るような、そんな調子だ。俺が居心地の悪さを感じるほんの少し前に、櫛灘の口元に微苦笑(びくしょう)が浮かぶ。


「まぁ、でも」


 櫛灘の首がぐるんと半回転する。見竦(みすく)められた須佐がびくっと大仰に反応した。


「そんなドマイナーエピソード、誰も知りませんけどね」


「うっそぉ。乃子のエピソードがマイナーなら、人類皆マイナーじゃね?」


「その! 思い込みが! あの! 自己中な動画に繋がっているんでしょうが! 自分ではなくお客様を! 視聴者を見なさい!」


 たぶん、それは本当に、そう。


「あなたのエピソードで1番有名なの、ご令姉様の家で脱糞でしょうが!」


 櫛灘の言葉に、俺の目玉が飛び出る。人の家で脱糞って、結構なことじゃない?


「な、なんで言うの!? それは、ちが、が、ちがうんだってぇ! 言ってるじゃん!!」


 須佐は、櫛灘の言葉に胸を(つらぬ)かれたように突っ伏した。櫛灘は実に素早く、(うずくま)った須佐に(またが)ると、その耳に口を近付けて、「現実を見なさい」「つまんない動画」「極潰(ごくつぶ)し」「信力(しんりき)無駄遣(むだづか)い」「協調性皆無」「自己中心的自己愛者」「PEPX(ペーペックス)上手いのに、クランから追い出されるのはそういうこと」「才能の無駄遣い」「でも、しゅき♡」「極潰しでいていいんですよ?」


「だって、あなたには」


 須佐の耳に呪詛(じゅそ)のようなものを流し込んでいた櫛灘は、そこで(タメ)を作って言う。


「――わたくしが、おそばにいますから」


(なんか、毒みてぇな女の子だな)


 この関わっちゃいけない感は、なんなのだろうか。唯一の救いは、毒を盛られる相手が須佐に限定していることで――いやまて、この子、恐らく()()()()()()()()()()のでは?


 櫛灘は、須佐の耳元で「しゅき」を繰り返している。須佐は「許して」「どっかいって」と言いながら逃げようとしているが、櫛灘の(たく)みな抱きつきによって叶わずにいる。


(俺は、いったいどうしたら)


 (まど)う俺の目線と、かち合う目線がある。櫛灘の背中には、四角い風呂敷(ふろしき)包みが乗っかっていた。天草模様(あまくさもよう)の風呂敷から、何かが()()()()()い出して来る。


 三角形の頭をした、蛇であった。


 アオダイショウはちらりと背後の櫛灘と須佐を見ると、肩を落とす(よう)鎌首(かまくび)を谷にし、「どうもすいませんね」と言いたげな目で、俺を見た。


「いや、こちらこそ」


 あまりにも道理の分かっている目に、なんとなく頭を下げると、アオダイショウも返礼のように頭を上下に揺らした。アオダイショウの首と言わず、体全体がガタガタと揺れる。地震というよりは、活火山(かっかざん)噴火(ふんか)直前の様相だ。怒り心頭の須佐が、腹這(はらば)いのまま跳ねているのだ。


「もう限界なの、お前とは!」


「そんな!」


束縛厨(そくばくちゅう)が! 乃子は自由気ままでこそ輝く嵐の子なのに!」


 それはない。ダメ人間の言い訳にすぎないだろう。しかし、身体的な揺れというより、精神的な揺さぶりによって櫛灘は力を失った。その隙に須佐は太巻(ふとま)きを作る時のように横回転し、恐ろしい程の身体能力で――つまりは、片手で床を(はじ)いて宙に浮き、そのまま、


「ではの! 片付けてから帰って!」


 捨て台詞(ぜりふ)を吐いて、窓の外へと消えていった。


 人間業(にんげんわざ)とは思えない動きだ。


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