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【ミコログ@神待ち配信】神様とVTuberやってんだけど、聴いてかない?  作者: 神代翁
1配信目 If it`s a sweet dream, don`t wake up(甘い夢なら醒めないで)
10/35

須佐の天敵にして嫁、その名は櫛灘

「すいません、お待たせして」


 戸の向こうにいたのは、身長140cmあるかないかの小さな女の子だった。少女はくすりと微笑(ほほえ)んで、着物の裾で口元を隠した。

 大正ロマンというか、よく使い込まれた、だけど手入れの行き届いた着物を着ている。着物は、葉桜に、陽気の黄色を加えたような、鮮やかな若菜色(わかないろ)。帯はえんじ色で、落ち着いていて見えるのに、


「あらあら、可愛らしいおひと」


 童女の真っ赤な唇と、朱の指した頬が、全てを(つや)やかに見せている。下卑(げび)てはいない。黄金(おうごん)稲穂(いなほ)の海に(しず)んで立つ重たい身をつけたリンゴの木。その赤。清々しく重厚な生命の色だからだ。


「いやぁ、そりゃぁ、こちらの、せりふで」


「あの方はいらっしゃいます? 当世では須佐 乃子なんて名乗られているかと思うのですけど」


 この家に須佐がいることは、分かっているのだろう。確信をもった声だが、童女は穏やかな微笑を(たた)えたまま、俺から目を離さない。


「あ、ああ、須佐なら奥に」


「ありがとうございます。あがらせて頂きますね」


「どうぞ」


 脱いだ足袋(たび)を揃えた童女が、音も無く部屋の奥へ行く。


(いまどき、足袋? そういうコスプレなのか? いや、それよりも)


 案内されるまで、入らなかったのか。


(須佐を追いかけてきた熱量の割に落ち着いているというか、礼儀正しいというか、なんというか……不思議だ)


 疑問を感じながらも、俺も童女の後を追う。


 部屋の中では、須佐がちゃぶ台の下にもぐりこんで丸くなっている。ダンゴムシみたいになって耳を塞いだ須佐に、しっとりと(おお)(かぶ)さった童女がぶつぶつと(ささや)いている。


()(くに)から()()()()出られたのは良いものの、家のことやらなんやらで子孫君(しそんくん)に迷惑までかけて…………そこまでして、いったい何をなされているのです?」


「いや、それは、なんていうかこれからのことだし……家とか、戸籍とかは、うずめとかも、やってもらってるし……」


「ゾウリムシをひっくりかえす動画を()()()()()()する意図はなんです? どうしてゾウリムシを(あお)るのです? 煽ってなにが起こるのです?」


「だ、だれもやっていないことを、やろうと思ってぇ」


「ほとんどの場合それは、()()()()()()()()()()でしょう? 企画がめちゃくちゃなのはともかくとして、動画もなんです、あれは」


「なにって? スマートフォンで撮った感じ……」


「15分の長尺動画なんて、余程でなければ誰も開いてくれませんよ?」


「いや、6人くらいは見てくれて……ひ、1人はチャンネル登録も……!」


「あれは、わたくしです」


「そんな!」


「そもそも、さむねいるが野暮(やぼ)ったすぎます。一目で面白さを伝えてくださいまし! 葛飾北斎の神奈川沖(かながわおき)浪裏(なみうら)のように粒立(つぶだ)ち雄大に! 歌川国芳(うたがわくによし)のおぼろ月猫のように繊細(せんさい)で美しく!」


「いや、ちょ、はじめてだからぁ」


息継(いきつ)ぎがマイクに拾われていて聞き苦しい。まさか、スマートフォンのマイクで収録したんじゃないですわよね?」


「ううん。300円のマイク、秋葉原で買ったの」


(あき)()てました。仮にも配信者たろうものが……そもそも貴女様は、昔っから思い付きで、(ひと)りで()されることは何一つ身にならないでしょう?」


「だからぁ、いまぁ、ニカツも誘っててぇ」


「あら……」


 どういうお話をされているのかしらん、どういうご関係なのかしらん、とりあえずコーラでも飲もうかしらん、と余裕をかましていたら急に矛先が向いて驚いた。俺の動揺が、コップの中で大波となっている。


「揚げ物屋さんの息子さんなの?」


「いえ、建築士の息子で……そもそも俺も、なんでニカツって呼ばれてるのかさっぱりで」


「え、うそじゃろ」


 須佐が心底驚いたというように言う。


()()けからなんだけど、誰もわかんないってまじ?」


(海苔巻きの亜種だろうか)


 ニカツの由来を説明されたはずだが、疑問が増えた。


「ノリワケ……」


 櫛灘(くしなだ)が呟き、水晶のような(きら)めきの瞳で俺を見た。


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