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異世界に拉致されたんで、魔王に愚痴りに行った話

作者: しまね

「勇者様だ!召喚は成功だ!!」


 ベルサイユ宮殿の鏡の間を3倍くらい大きくした感じの部屋に大勢の人間。

 は?え?


 昨日、上司のあまりの理不尽さに怒り心頭で、ストレスフルだった。

 で、金曜日だったし、同僚誘って愚痴大会の飲み会だったはず・・・・。

 ん?

 途中から記憶がないな。

 ああ、これは夢か。飲み過ぎて寝てんだな。


 ストーリー吐き出し過ぎて、この頃似たような話ばっか読んでた異世界召喚物の小説と漫画に似てるわ。

 似たような話の中にも多少変化があるのが面白くなっていたんで読み続けているんだけれど、そんなストーリー性のある夢なんぞ、私が見るなんて珍しい。

 しかも「聖女」じゃなくって「勇者」ってところが私らしい。

 なんか「聖女」って言葉がエロくて嫌なんだよね~。「女」をわざわざつける必要あんのか。

「聖人」でいいじゃん。だったら男性は「聖男」でもいいよね。

 でも男は「聖人」で女は「聖女」なら、男は「勇者」、女は「勇女」か?

 アマゾネスみたいだな。「遊女」と間違えられそう。


 と、床に座って酔っぱらい思考の現実逃避していたら、鎧?をつけた兵士みたいな人たちが跪いてきた。


「勇者様、どうか我が国をお救い下さい!!!」

 ユニゾン上手いね。




 ********************************************************


「って事があってさー!! 自分の国くらい自分で守れっての。

 私は平和の国から来たのになんで人と争わなきゃならんのよっっ」


「・・・・・・・・」


「ちょっと~~~聞いてる~~~??

 さ~~~~飲みたまえよ。マオウさん!!」


「お、おう」


 顔を酒で真っ赤にした彼女が、グラスにとくとくと酒を注ぐ。

 酔っ払いが大量に酒瓶背負って、我が魔王城へ来たのが一時間ほど前。

 ・・・・来た時から出来上がっていた・・・。


 この世界なんなの?他力本願かよ!!!

 と思いっきりこの世界を罵った後、我に同情の目を向けて・・・。


「マオウさん、こんな世知辛い世界でがんばってんだね~~~。ホント酒でも飲んでなきゃやってられないよ!! 私も会社の上司がホンっト他力本願で他人の功績横取りするような糞野郎でさ~~~」


 どうやら、他国で我を討伐するよう召喚されたらしい。


「勇者だって~~~~!! 私に勇気なんてないわーーーっ

 大体、人を討伐ってなに? 私の国では【命大事に】って教えられてて殺すのはGだけだったのに!!無暗に命を奪えるかっての!!!

 あ~~~Gっ!!こないだ台所で見かけてさ!怖くて友人のところに泊ったよ。その後はバル〇ンで部屋を思いっきり炙った!!!」


「Gとは?」


「おお~~う!!もしかしてこの世界Gいないの~~!?だったら天国じゃ~~ん」


 なにやら目を輝かせて感激しながら説明してくれたが、恐らく我の半分位の大きさのアブラカシという魔物に似ておるな。その事を言ったら。


「殲滅してやる~~~!!! どこにいるんだ!!」


 喚く喚く。そんなに嫌いか。


 一通り愚痴を言って落ち着いたのか、静かに語りだした。


「素直に助けてって言えるのいいよね。いや、私も周りに言いたい!言いたいけど!結局、自分で解決しないと落ち着かないしさ~~。【女のくせに】っていうモラハラ、パワハラおやじがいるんだけど、この【女のくせに】って言葉の意味が分からん。なに?力が弱いからそんな差別的用語使うのか?女がいなけりゃ人口が増えねぇし、増えなきゃ他の国に色んな形で侵略されんのが分からないかね~~?女性を尊重しない男なんて死ねよ。マオウさんの国でも女性を差別してんの? あれ?そういえば私を召喚(らち)した国でも、私という女が勇者で現れたのに【女のくせに】っていう忌避はなかったね。この世界はそうなのかな?」


「この世界は生活魔法の中で【身体強化】は必ず覚える魔法だから、女性が力が弱いという概念がそもそも希薄なのだよ」


「えっそうなの?いいね!身体強化!!私も使いたい~~」


「いや勇者ならば一般人よりかなり強化されると思うが・・・」


 この勇者は魔法を全く使わなかったのか?

 この魔王城は世界の果てと言われるほど深い森に閉ざされた場所にある。

 世界ランクSSの魔獣が多く、普通の人間ならば森の入口近くで脱落するような場所だ。


「・・・・勇者殿はどうやってここまで来たのだ?」


「ん? なんか拉致された国に無茶振り要求されて、ムカつく上司思い出してやけ酒して、酒飲んだら余計に上司思い出して【うっせぇうっせぇうっせぇわっっ】って怒鳴りながら歩いてきたような気がする」


 勇者=天才 だった・・・。

 怒気で魔獣達を退けていたんだろう。


「ところでマオウさん、人間駆逐して世界を牛耳ろうとしてんの?」

「世界を牛耳る? そんな事をしてなんの得があるんだ? 面倒くさいだけだろう」


 勇者の質問にそう答えると、酒瓶抱えて真っ赤な顔の勇者が満面の笑顔になった。

 くひひひと笑ったと思ったら、背中をバンバン叩かれた。


「そうだよね!そうだよね~。面倒だよね!!! だいたいさ~、マオウさんは世界一強いんでしょ~、そんな人に無謀にも一般人(勇者)が挑んだら死闘になるよね~~。そこまでする価値がこの世界にあるのか~~~???? ほんっとお疲れ様だよね!!マオウさん!!強く生きて!!!」


「人間どもはほぼこの城には近づけない。我は関心も干渉もせぬよ」


「おお~~~う!!マオウさん!!いい人だな~~~。

 さ~~~飲んでよ~~~。この酒はね~~私のスキルで私の国から取り寄せた日本酒っていう美味しい神秘のお酒なのさっっ!!」


 一応、魔法は使っていたみたいだな。


「ああ、この酒は上手いな。今まで飲んだ酒で一番だ。しかもこの酒は透き通っていて美しい。

 このような酒を生み出す国は平和でいい国なのだろう。其方の【命大事に】や前向きな姿勢も好ましい。其方の上司には真面に椅子に座れない呪いを掛けておこう」


「マオウさーーーんっっなんっていい人なんだ!!!さあ飲んで飲んで!!

 私酒には強いんだ~~。マオウさんが倒れたら介抱するよっっ安心してよっっ」


「・・・うむ、今日は無礼講だな。我の部下たちも呼んでおこう」


「いいねっ皆で飲めばもっと楽しいよっ」


 我の部下の四天王たちも呼んで酒盛りを行った。楽しい宴会だったが、どうやら我は飲み過ぎてそのまま眠ってしまったらしい。

 朝起きたら勇者は消えていた。

 魔法陣の痕跡があったので、どうやら我は勇者に酒で負けたようだ。

 我が倒されたので勇者も自分の国へと帰れたみたいだった。


 しかし、勇者召喚か・・・・。

 この世界の事を知らない勇者を召喚して、偽の情報を与え、この土地を奪おうという。

 どの時代も人間たちは変わらんな。

 まあ我には関係ないな。



 ********************************************************



「なに?二日酔い?酒に飲まれるなんて珍しいね」


「う~~~ん、そんなに飲んだかな~?覚えがないんだよね。しかも金曜日飲み会だったのに、起きたら今日の朝とか・・・。スマホの日時二度見したわ。

飲み会・・・・途中から覚えがない・・・。あ、でもなんかファンタジーの夢見たよ。

 私が勇者で異世界召喚されて、魔王と酒盛りした!課長への愚痴を聞いてくれてね。そしたら魔王がね~上司には真面に椅子に座れない呪いを掛けてくれるって」


「・・・・今日から課長、痔で入院だって」


「は?」




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