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15 真実

「木染のことを聞きに来たんだろう?」


 向かいのソファーに座った萩は言った。お手伝いロボットが二人分の飲み物を運んでくる。静かで落ち着いた部屋のように見えるが、スマートハウスによってすべての行動が見守られている、いや、監視されていると思うと、なんだか落ち着かない気がした。このお手伝いロボットにも、このスマートテーブルにも、会話ログを記録するためのマイクが当然のように標準装備で積んであるはずだ。政府は僕らをいつも見ている。


「いや、きっかけが木染なだけで、君が知りたいのはこの国の大きな力についてだね」


 早苗は頷く。二人はウイスキーとアイスココアのグラスを軽く当てた。


「木染先生は本当に、心筋梗塞や脳梗塞による自然死だったと思いますか?」


「いや。そうじゃないと思う。前日に僕と話していたときはまるで元気だった。不安そうではあったけれど」


「先生の死には政府が関わっていると思いますか?」


 萩はお手伝いロボットの方をちらりと見たが、また早苗に視線を戻し、浅く頷いた。この徹底した監視社会ではどんなに隠れても無駄だと諦めているのだろうか。


「俺は国に実力を認められた重要なプログラマーだし、自分が死んだ後のことを気にしない質だから心配しなくていい。俺の人生は黒塗りだらけになるだろうが、明日明後日すぐに殺されるとは思わない」


 早苗の視線に気づいて萩は言った。


「じゃあ、聞きたいことを遠慮せずに聞かせてもらいたいと思います。木染先生の人生の記録からは、スマートシステムに関する会話ログが消されていました。スマートシステムについて知りすぎた人間は政府にとって邪魔だということでしょうか」


「黒塗りされていたのなら、そうだろうね」


「萩さんは木染先生と何を話していたのか、言える範囲で教えてもらえませんか?」


 少し考えこむように目を伏せ、ウイスキーを一口飲んでから萩は言った。


「……深夜だった。木染はひどく取り乱していたよ。とにかく情緒が不安定で、話の途中で発狂したかのように叫んだり泣いたりもした。世界の秘密についてひとつの仮説を立てた、と俺に言った」


「絶望的な世界の秘密に気づいてしまったということですか」


「それが真実だとしたら、大いに絶望する人もいるだろうし、そのまま受け入れられる人もいるだろうし、それを真実だと受け止められず、信じたがらない人もいるだろうな、と俺は思った」


 萩は今のところ発狂している様子はないので、そのまま受け入れたか、信じていないかのどちらかなのだろう、と早苗は思った。


「政府が黒塗りしたということは、それは隠すべき真実だったと認めているようなものじゃないですか」


「そうだね。じゃあ、これから俺が話す、木染の最後の仮説は真実なのだと思って聞いてくれ。木染の仮説はこうだ。『()()()()()()()()()()()()()()()()()』。俺たちは人間として生まれ、血の通った人間として生きているように思っていたけれど、それは嘘で、この視覚も聴覚も感じた感情も、痛みも行動も建物も、草も木も雨もすべて巨大なプログラム内で行われた演習の過程で、本当は僕らもこの国も全部存在していなくて、最初から0と1の集合体だったのではないか」


 お手伝いロボットは奥に引っ込んでいくこともせず、テーブルの前にたたずんだまま二人の様子をレンズに捉え続けていた。

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