最低令嬢の愛し方
「ローズ=スカーレット!! 貴様との婚約を破棄し、この国より追放する!!」
そう声を荒げるのは、私の婚約者でありこの国の第一王子、エミリオ=シュヴァルグラン。
「婚約破棄の上に追放とは穏やかではありませんわね殿下。そんな酷い扱いをされる覚えはありませんことよ」
世界の叡智、至宝と謳われるこの私が婚約破棄で追放だなんて。
へそで紅茶がボッコボコですわ。
「覚えが無いだと……貴様ぁ!! 私に貢ぐだけ貢がせた挙げ句、贈り物を質に入れその金で遊び回っておきながら身に覚えが無いとはどういう了見だぁ!!」
「ほえぇ?ですわぁ」
「とぼけるな腹が立つ!! 調べはついているんだ!! しかも貴様!! 私だけでなく他の男にも同じようなことをしているらしいな!! 貴族の息子、商会の役員、近衛兵、学園の教師、平民の年端もいかない子ども!! わかっているだけでもとんでもない数だ!!」
「え? だって……ねぇ? 私に貢げるだけ光栄に思ってほしいのですが。幸福を享受させるのは貴族の役目ですし。というかセンスが無い贈り物をしてくるのが悪いのでは?」
「ここまででも鞭打ちは免れない罪を犯してる自覚が無いようだな……」
私の罪なんて美しすぎるくらいでは?
「不貞は一旦脇に置いたとして……貢ぎ物を売った金で娼館通いをしている件に関してはどう釈明する?」
「それは違いますわ殿下! ゴミ……貢ぎ物を売ったお金はあくまでチップ! 娼館はちゃんとお小遣いで通いましたわ!」
「ゴミと言ったか貴様!! 貴様が見たいと言うからわざわざ遠方より取り寄せた青薔薇を!! 貴様が私とお揃いがいいと言って作らせたこの世に二つと無い指輪を!!」
「ほえぇ?ですわぁ」
「その顔をやめろ!! もう可愛さを通り越して憎しみが勝つ!! 正直私はもう貴様を絞首刑に処したい気持ちでいっぱいだ!!」
可愛さ余って的なやつでしょうか。
私の顔面最強ですしね。
「ですが殿下、ぶっちゃけ私が性に奔放なのは昔から知ってたでしょう?」
「とっくにな!! 十六の成人の儀に――――――――」
『お脱ぎあそばせ。ゆっくり千まで数えてなさいな殿下。数え終わる頃には夢の中ですわ』
「と初めてで限界まで搾り取られたのは今でもトラウマだ!!」
「思えばあの時が最初で最後でしたわね。何度夜這い……お誘いしても、忙しい、また今度、と。淑女に恥をかかせて。これだから早漏の短小包茎(笑)野郎は……コホン何でもありませんわぁ」
「断頭台に上れぇ!!」
「断りますわ!! このローズ=スカーレット!! 恥ずべき行為は一切しておりませんことよ!!」
「……では、貴様が貢ぎ物を売った金だけでは足らず、私の名を使い国庫の金を不正に利用した件についての話をしようか」
「ほえぇ〜?ですわぁ」
「仮にも女だ私もあまり強い言葉は使いたくないがな……ぶん殴るぞ悪女!!」
「マジ下品ですわぁ」
「どの口が……!!」
「僭越ながら異議申し立てます殿下。神が産んだ唯一無二の絶対的美少女たる私ですわよ? 私財だろうが国庫だろうが私に使われるのは自然で喜ばしいことでは? 泣いて崇め平伏し奉っていいですわよ」
「顔面火炙りにしてやろうか……!!」
ピキッてますわぁ殿下。
「あと貴様、私にも内緒で勝手に議会を招集し法案を通したな。たしか……なんだったか……」
「法案……ああ、私の言うことは絶対〜ってあれですか?」
「何様ゲームだ!!!」
殿下のツッコミキレッキレで草ですわ。
「何様と訊かれれば私様ですが。ですが突き詰めれば逢瀬を理由にお金を使っただけ。何か問題が?」
「ふんぞり返るな!! 何がだけだ!! 傲慢の塊か!!」
「自尊心無くしてなーにが貴族ですか」
「もう修道院に入れ貴様……清貧を美徳と知れ……」
「清貧とは富ある者が慎ましく在ろうとする心構えですわ。真に貧しき者に清貧を説いても、それはその場しのぎの逃げ道の示唆にすぎません。そんなもの、いったいどこの誰が好むというのでしょう」
「ローズ……」
「お金は在るに越したことはないのですわ。裕福とは余裕。余裕とは富無くして成らないのです。だから私は、国が抱え込んだ無為な富を民に分け与えるのですわ」
「いや、それも全て娼館に通うために使ったという調べがついている」
「てへペロ☆ですわぁ」
「ぶち殺すぞ!!! 何を空っぽな言葉を並べ立てているんだ!!! 今の立場がわかっているのか!!!」
「私はいつ如何なる時もローズ=スカーレット! 誇り高きこの国の女神! 天地神明にその名在りの究極令嬢ですわ!」
「色に蕩け金に呆け……それでも飽き足らず尚も傲慢……ならば再度告げようローズ=スカーレット。貴様との婚約を破棄し、この国より追放する」
「このことは陛下や妃殿下もご存知で?」
「いや、私の独断だ。父も母も貴様に抱かれ貴様に陶酔してしまっているからな」
「私を嫌悪するのは殿下の勝手ですが、その後はどうするおつもりですの? この国には、いいえ世界には、私を愛する者しかおりませんのよ」
私は猫を被らない。
どこでだろうと、誰を相手にしようと、私は遜らず傲慢で在り続ける。
自由に振る舞う。
それこそが私。
そうでなければローズ=スカーレットではないのですから。
「私を排したとなれば、殿下は国賊……いいえ、世界に仇なす逆賊として後世に名を残すでしょう。石を投げられ、市中を惨めな姿で引きずられ、最後は絞首か断首か。誰からも愛されないまま死んでいくのです。それでも」
「ああ」
「最後に、そうまでしてでも私を追放したい理由をお訊かせ願えますか?」
「……そうだな。そうでもしないと、君の心から私が消えてしまうからだろうか」
私はため息をついた。
本当にこの方はおバカさんですわ。
「殿下。最後によろしいでしょうか」
「なんだ」
「私はおセッ○スが好きですわ」
「知っている」
「誰が相手だろうと気持ちいいものは気持ちいい。身体を重ねればそれだけで幸せを共有出来るのです。老若男女、私に抱かれて喜ばぬ者などいません。ですが、私が一番幸せだと思ったのは、殿下とまぐわっているときでした。早漏でも短小でも包茎でも、あなたが私を幸せにしたのです」
早漏でも短小でも包茎でも。
「性に奔放……それでも、案外私は一途でしたよ。殿下、あなたをお慕いしておりました」
「……貴様は、やはり悪女だ。言葉一つでこんなに揺らぐ」
「クスクス。どうします? 最後にキスくらいしておきますか? それとも一発ブチ込んでみますか? その場合一発と言わず搾れるだけ搾って殿下の子を確実に孕んでみせますが」
「やめておこう。後悔しそうだ」
「残念。後悔しやがれですわ、って中指を立ててやろうと思いましたのに」
「……さらばだ、ローズ=スカーレット」
「ええ。さようならですわ、エミリオ」
ローズ=スカーレットは姿を消した。
国から、世界から。
彼女の行方も、その後どう生きたのかも、知る者は一人もいない。
王子エミリオは彼女を追放したことで王家の怒りを買い廃嫡。
国民の怒りを一身に受け、弱冠二十歳という若さでこの世を去った。
そして――――――――
「おい水奈!! お前また浮気しただろ!!」
「理央うるさい。したけど? なにか?」
「なんでそんなキョトンて出来るの?! おれお前の彼氏だよね?! 一応親が決めた許嫁だよね?!」
「彼氏がいて他の子とセッ○スしちゃいけないんですか〜? 誰が決めたんですか〜? 何時何分何秒子宮が何回排卵したときですか〜?」
「貴様ぁ!! また婚約破棄して追放してやろうか!!」
「やれるもんならやってみやがれですわぁ!!」
「「ん??」」
物語は何度でも紡がれる。
二人の恋も、愛も。
何度でも。
どうでしたか?
お気に召していただければ幸いです。
興味がありましたら、当方の別作品もご覧になってみてください。
お目を通していただき、ありがとうございましたm(_ _)m