急募!!ワガママ欲張り女子!!!※年齢・出自不問
◇で場面が変わります。少し読みにくく感じられたら申し訳ないですが、お付き合い頂けると幸いです。
「レイジーナ=アークヤーク公爵令嬢!私オージワンは王家の名の下にそなたとの婚約を破棄する!!」
ビシィッと音がしそうなほど真っすぐに指をさし、ワタシの腰をしっかりと抱いた王太子は自身の婚約者に婚約破棄を叩きつけた。
「オージー素敵!」
ワタシは目の前の女から奪ってやった王太子に豊満な姿態を押し付け、全力で甘えた。
これで王子妃、未来の王妃の座は私のもの。
でもォ、ちょっとはちゃんと勉強したワタシには分かる。王妃ったって、ただ贅沢だけが出来る訳じゃない。ある程度は仕事もしないといけない。王妃教育?そんなもの、やってらんないわっ!
「でも、オージー。レイジーナ様のこれまでの努力を無駄にするのは流石に可哀そうだわ。レイジーナ様を側妃に迎えて、せめてこれまでの努力の成果を発揮する場を与えて差し上げなくては」
私は出来るだけ健気に見えるように媚態を作り、懇願して見せた。
「なんとっ!自身を虐げた者にそのような慈悲を。君はなんて尊いのだ。しかし、そんな優しい君の傍にあれを置いては、いつ何時また君が辛い思いをするかもしれない。それでいいのか!?」
オージーは私をとても心配してくれる。
でもさぁ、面倒なことを全部押し付けるのにちょうどいいポジションなのよね、あの女。
「ワタシにはオージーの愛があるもの。それさえあればいいの。だからっ、国への愛は彼女のものよ。それすら奪ってしまうのはいけないことだわ」
「ああっ!なんて健気なんだっ!!」
オージーは感極まってワタシをしっかりと抱きしめ叫んだ。
◇◇◇◇◇
「はい、終了~」
「アハハ、今回もだめでしたねぇ~。この子何回目でしたっけ?」
木綿の質素なワンピースを着てベッドに眠る少女の周りを数人の男女が囲んでいた。
少女の頭上には大きな水晶玉のような物体が浮いており、先程まで少女が眠りながら見ている映像が流れていた。
それを見ていた彼らは、各自感想を述べ意見を交わして問題点を探って行く。
彼らの内の一人が手元のボードに聞いたことを書き込み、簡単なレポートを作成している。
「確か3回目か?一応、淑女教育の内容がちょっとは頭に残るようになったんだけどな~」
「全体のプログラム構成自体は悪くなかったですよね」
「教師役も改良を重ねて、品格を保ちつつスパルタ設定にしたのに」
「本人の素質…とか?」
一瞬その場は静まり返った。
「ギャハハ、手に負えね~。そりゃ親もここに送り付けてくるわな」
「でもまあ、どんな破天荒な令嬢も矯正出来るようなプログラムを開発しないといけないんだから、ある意味打ってつけの子かもね」
「まさに天職!」
「きれいにまとめてんじゃないわよっ!さあ、今回の記録を見直して一から問題点や修正箇所を洗い出すわよ」
「はーい」
次の作業のために彼らはぞろぞろと部屋を出て行く。
最後に出た女性が、部屋の前にいた看護師らしき女性二人に言づけた。
「じゃ、被検体βをここから運び出した後プログラムの記憶はリセットしておいて。白紙に戻せたらまた再開するわ」
「かしこまりました」
「あと、3時間後に被検体γをこの部屋に運び込んでおいて」
「仰せのままに」
◇◇◇◇◇
「ずるいわっ!貴族に生まれただけでとっても綺麗なドレスを着て。私の方が可愛いのに!!私の方が似合うのに!!」
物心ついた時には既にいた孤児院に慰問に来た、アタシと同じような年頃の貴族の女の子を見て叫んだ。
「おいおい、仕方ねーだろ。あのお嬢さんだって好きで貴族に生まれたわけじゃないんだし。貴族は貴族で面倒なこともいっぱいなんだぞ」
いつも一緒に居るジャンがアタシを窘めるように言う。
「何よっ、いつも綺麗に着飾ってお腹いっぱい食べて、何が面倒なのよ」
アタシはすっかり不貞腐れた。
「貴族なんてな、勉強はもちろんマナーもきちんと出来ないと一人前として認められないしな、結婚だって家が決めるから好きな相手と出来ないんだぞ」
「フン、知らないわよ。贅沢している罰よ」
「おいおい」
それからしばらく経った頃、孤児院にアタシの父親だという貴族の使いが現れた。
何でもアタシの父親には正妻がいたんだけど先日亡くなったから可愛くない正妻の娘より、愛人だった美しい母の娘のアタシを急遽引き取りたいって。
まあ長年こんなところに放っておいたくせにとか色々言いたい事はあるけど、貴族のお嬢様にしてくれるってんだから、黙って付いていくことにしたわ。
「お義姉様ばっかり、こんなにたくさん綺麗なドレスも宝石もずるいわっ!」
「仕方ないだろ、あっちは生まれつきの正当な貴族令嬢なんだから」
「マナーだって、小さい時から習ってるお義姉様に敵う訳ないじゃないっ!ずるいわっ!」
「あっちだって努力の成果だよ。お前が孤児達と遊んでる間ずっと勉強してたんだって」
もうっ、アタシが何か言う度ジャンはうるさいわねぇ。
「お義姉様にはあんな素敵な伯爵家の婚約者がいるなんて、ずるいわっ!」
「政略だし愛なんて無いんじゃね?家のために頑張ってんだよ」
「愛が無いなら、アタシが貰ったげる。ついでにこの家もお父様の可愛いアタシが継いであげたら、みんなハッピーだわ」
「学の無いお前じゃ、一瞬で没落するな」
ジャンったら何て酷い事を言うの!?
いつもいつもそう、ジャンってば口うるさい母親みたい……待って、ジャンって?
孤児院にいた時からずっと一緒だけど、なんでここまで着いて来てるの?
ジャンをお父様に紹介したっけ?ジャンって、誰?ジャンって、ナニ?
◇◇◇◇◇
「終了〜。サポートキャラ付けてもあんま効果なしかぁ」
「もうさ、体罰式のプログラム試してみる?」
「あれ流石に気が引けるんだよね。一度加減が分からなくて壊しちゃったし」
「被検体Θな。2回目で廃棄になったのは焦った」
「あれからプログラム内で強弱のレベル設定が出来るようにはしたから、やってみるか?」
「そうね。終了間際の記憶だけデリートしてこのまま被検体γに試してみましょうか。じゃ、各自分担して必要な作業にあたりましょう。はい、一旦解散!45分後に再開ね」
「は〜い」
◇◇◇◇◇
そうよ、お義姉様はずるいのよ。
あら、あれはお義姉様と婚約者用のお茶会の準備ね。
今日は我が家でお茶会なのだわ。
「フフ、これは今流行っているマカロンの新作フレーバーね。アタシが最初に味見してあげる」
アタシはメイドがティーセットから一旦離れた際、マカロンに手を伸ばしのだけど。
「あ痛っ!」
マカロンに触れる直前で、不快な痛みが指先に走った。
「なに?何なの?」
もう一度試してみようかと思ったけど、また同じような痛みがあると嫌だったから渋々その場から離れた。
「勝手に人のモノをとっちゃだめだぞ」
廊下の角からジャンが現れた。
「うるさいわね。アタシだってこの家の娘なんだからいいじゃない」
「お客様にお出しするモノはお客様のモノだ」
「フン」
あ〜ムシャクシャするわ。そうだ、こんな時は……。
アタシは二階に上がり、お義姉様の部屋のドアをノックした。
「お義姉様、入ってもいいかしら。ちょっとお願い事があるんだけど」
「あら何かしら。どうぞ」
このおっとりした感じも、生来の育ちの良さが顕れていてムカつくのよね。
アタシはズカズカとお義姉様の部屋に入り、中を物色した。
「ね〜え、お義姉様。この前買ったドレスに似合うアクセサリーを買い忘れちゃって、お義姉様のモノを貸してちょうだい」
アタシはお義姉様の返事も聞かず、勝手にドレッサーの引き出しに手を掛けた。
「痛っ!」
また、まただわ。何?静電気?
引き出しが無理ならとアクセサリースタンドに掛けてある、美しいペンダントに手を触れたのだけど。
「ぎゃっ!?」
静電気どころじゃない、まるで針で刺されたような激痛が指先に走った。
「ほ~ら言わんこっちゃない。了承も得ずに、勝手に人の物に触っちゃだめだろう」
背後からジャンの声がした。
「あ~もう、うっさいわね。一体何なのよ!もう、こうなりゃ自棄だわ!!」
アタシは指先の痛みも何もかも無視して、ペンダントを掴んだ。
「うっゔぁぁ、ぐっうっ」
ペンダントに触れている部分がじわじわと焼かれるように熱い。
声にならない呻き声をあげつつも、悔しさが勝りアタシは意地でもペンダントを離さなかった。
すると、どんどんペンダントの熱が上がる。もう掌が焼けただれそうなくらいだ。
「こんっ…ち…く、しょうっ」
掌が熱に負けてドロドロと溶けだすのが分かった。
ああ、悔しいったら。ムカつくったら。アタシの思い通りになりなさいよね!!!
――――強制終了――――
◇◇◇◇◇
「ええええええ」
「マジか…」
思わず皆絶句した。
「これ、プログラムが悪い訳じゃないわよね」
「ああ、この強靭な精神とド根性は凄まじいな」
「それをもっと他の所で活かせれば、こんなところになんて送られて来ないのに……」
皆でため息を吐いた。
満足な成果を得られなかったため、残業確定である。
残念なド根性を持つ被検体γを収容所に戻し、彼らは会議室に入った。
「さて今後についてだが、まずは体罰式プログラムはまだまだ開発の余地があることが分かった。ただ被検体γほどの猛者は少数派であろうから、他の被検体でも試験する必要はあると考える」
皆一様に頷く。
「では、最も期日の近いパトローン男爵からの依頼はどうしますか?」
「予定通り引き取り対象の女児に性格診断と深層心理テストを受けてもらい、それに応じたレベル設定を行ったβプログラムで行こうと考えている」
「なるほど」
「まあ皆パトローン男爵の様に、きちんと後先考えた上で孤児や平民を引き取って欲しいものだな」
「確かに。とりあえず見目麗しい女児を引き取って政略の駒にしようなんて浅はかなことを考えるから、結局は国を混乱に陥れて一族郎党処刑されたり、最悪国が潰れるんだよな」
「そうそう、この『理不尽な婚約破棄撲滅研究機関』はその最悪な事態を未然に防ぐために存在しているんだ」
「ええ。βプログラムの元になった隣国の公爵令嬢のような不幸は、二度と引き起こしてはならないわ」
「ああ、側妃にされていいように利用されるくらいならと自ら命を絶ったご令嬢のご遺族が設立してくれた機関だ。皆、しっかり勤め上げよう」
「はい!!!」
全員の心が一つになった。
ここ『理不尽な婚約破棄撲滅研究機関』には、全世界各地でやらかした令嬢、傲慢で不遜、修道院すら受け取りを拒否した令嬢など様々な者が送られてくる。
この機関に自身の娘を預けるもとい引き渡す際はその娘を完全に除籍し、身分も何もない存在すら証明されない存在とする。
だから皆被検体としてラベリングされ個々の名を持たない。
ここでは表面上の自我は消され、全てが機関の管理下に置かれる。
必要最低限の生命維持活動は保証されるが、その命が続くまで深層心理に干渉する研究のサンプルとして協力することになる。
つまりそのあまりの強欲さで全てから見捨てられた者は、強欲を抑制もしくは矯正するためのプログラムの実験体となっている。
人権…そんなものは無い。何故ならここに引き渡された段階で、その者は公的に既に存在しないからだ。
そしてここに依頼するのは主に養女として女児を引き取ろうとする貴族だ。
養女となる女児の性格に沿ったレベルで、簡単な貴族としての常識、義務、教訓を盛り込んだプログラムを眠りの中で深層心理に植え付ける。
その中でプログラムに反抗するようなら、矯正プログラムが実行されるのだ。
稀に王女の教育に失敗した王族が矯正プログラムを求めてやってくるが、大抵の場合が手遅れで王女は秘密裏に被検体として提供されるといった皮肉な事例も過去にはあった。
「それにしても、体罰式プログラムの改良となるとまた被検体を増やしたいところよね」
「あっ、それなら既に『急募!!』で募集かけてます」
「あら、ありがとう」
そこで会議室の扉がノックされ、通信部門の者が入って来た。
「どうした?」
「それが、新たに男爵令息を引き渡したいと連絡が入りまして」
その者は言いにくそうに報告した。
「令息って男かっ!俺達が扱っているのは女性仕様のプログラムだぞ」
「それが…バース国からの依頼で……」
バース国は全世界でも特異で、男性同士でも結婚・出産が可能な特別な加護があるという。
「ああ~それなら仕様変更も無く可能ってことか……?」
「まあとにかく数が必要だし、とりあえず特例として試験的に引き取りましょうか」
「は~い」
こうして、全世界の秩序を守るため彼らは日々邁進していくのであった。
お読み頂きありがとうございます。