コーヒーとイチゴ大福
私は先輩の事が好きだった。
ただし、恋愛的な意味では無い。先輩の描く絵が好きだった。
先輩は、イラストレーターを目指し、よくネットに投稿していた。
一目惚れしてしまった。
主に西洋風の人形のイラストを描いていて、緻密なドレスの表現や、透明感のある目の描き方がとても美しい。見ていると、まるでその世界に入れるような……。先輩の絵を見ていると、目に物語がいくつも浮かんでくる。
同じ高校の先輩と知った時には、運命じみたものを感じたが、私は別に恋愛的な意味で先輩は好きじゃなかった。先輩の姿もこっそり見てみたが、別にときめかない。それでも彼の描く絵は好きだった。
先輩のSNSもフォローし、感想も送っていた。向こうは私が同じ高校の後輩だとは夢にも思っていないだろうけど、こうして応援している時間は楽しかった。
私はゲーム会社や出版社にも先輩の絵が素晴らしいという意見を送っていた。いわゆる推し活である。
そんな折、推し活が実を結んだかは不明だが先輩にライトノベルの仕事の依頼がきた。ジャンルは少女小説で和風シンデレラものの表紙と挿絵の仕事だ。
私はさっそくSNSでお祝いのメールを先輩に送った。しかし、彼は納得いっていないようだった。
『本当は西洋風のファンタジーのイラストを描きたかったよ。和風は、嫌いじゃないけどさ』
確かに先輩の作品は、西洋風の物語の方が合っているかもしれない。でも、まるで物語が目に浮かんでくるような幻想的な雰囲気は、小説のイラストにぴったりだ。ここで腐ってチャンスを無駄にして欲しくない。励ましたいと思った。
さて、先輩をどう励まそうか。私は頭を捻った。そしてSNSから先輩宛にダイレクトメールを送った。
『実はコーヒーと和菓子って意外と相性が良いんですよ。コーヒーの成分と餡子の成分が似ているとか。私はイチゴ大福と浅煎りコーヒーを組み合わせるのが好きです。お互いの味を引き立てます。一度試してみてください。コーヒーが和菓子と合わないというのは、思い込みかもしれませんよ?』
直接「頑張って」と励ますのも先輩のプライドを折る気がした。どうか、このコーヒーとイチゴ大福の例え話で、何か感じ取って欲しかった。
その後、先輩からの返事はなかった。
やっぱり伝わらなかったかな……。
そんな事を考えている時、学校の近くのコンビニで先輩と会った。
先輩はコンビニスイーツのイチゴ大福と、チルドコーヒーを買っていた。
その表情は、とても晴れやかだった。
「あ、あの!」
私は先輩に声をかけた。
別に私は恋愛感情で先輩が好きでは無い。推しとして好きなだけ。
でも、何か物語が始まりそうな予感がした。




