表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界転生を求めて〜偉大な小説書きになるためにはトラックが必要です!?〜

作者: 猫茶みかん


「それだよ!」


 大聖堂にズラリと並ぶ本棚。

 広くて静かな空間に、私の声だけが響いた。

 私はここで、異世界から来たという男と出会った。

 黒髪の男は、見慣れない格好をしていて、どうやら東洋人のようだ。

 この世界に来て、かれこれ十年以上になると言う。

 元の世界への戻り方を探しているという彼に、私は色々な話を聞くことができた──。

 




「ねぇ、アニー! 異世界転生ものって知ってる!?」

「ちょっと、ニーナ? そんなに目をキラキラさせながら、よく分からないこと言わないでくださる……?」


 私は数少ない友達である、アニーのところに来ている。

 アニーは新興貴族のご令嬢で、麗しい金髪の女の子だ。

 私達はよく彼女の館の中庭で、紅茶をたしなみながらお話しをする。というか、私が一方的に押し掛ける。


「そこは剣と魔法の世界で、ドラゴンもいるの! 面白そうでしょ!?」

「物語のことを言ってますの? 貴方もわたくしと同じ、夢見がちな乙女ですものね」


 私はここ最近、小説というものにハマっている。

 読む方ではなく、書くことにだ。

 そして、貴族令嬢のアニーはというと、イラストを描く事に夢中だ。

 それもちょっと、人には見せられないやつ……。

 

「わたくしとしては、殿方と殿方がラブラブしてる物語の方が好みですわ」


 アニーは頬を赤らめながら、そんな事を言っている。

 容姿はいいのに、なんだかもったいない……。

 私はアニーの願望を無視して、話を続ける。


「でもやっぱりね、小説書きは取材をしてこそだと思うの」

「取材ってどちらへ?」


 不思議そうな顔をするアニーに向かって、私は高らかに宣言する。


「私、ちょっと異世界に行ってくる!」

「どどどどうやって……?」


 自信満々に言う私の言葉に、アニーが慌てふためいている。

 もちろん黒髪の男からは、その方法も聞いてある。


「ふふ、トラックに轢かれるのだよ」





 私はアニーと表通りまで出てきた。

 そこで、数々の異世界転生者を送り込んできたという、トラックを探すのだが──。


「ぐぬぬ、トラックってどこに走ってんの!?」

「聞いたことありませんわ。そんな乗り物」


 通りを闊歩かっぽするのは馬車。

 色々な形はあれど、原動力はすべて馬などの生き物だ。

 黒髪の男が言うには、トラックは生き物を使わないらしい。

 そして四輪や十輪のものもあるが、見た目は箱型だと言っていた。


「見当たりませんわね……」

「わーん。おなかすいたー!」


 かれこれ一時間以上探索しているが、見つかる気配がない……。


「ねぇニーナ? やはり真新しい乗り物なら、王都で探した方がいいんじゃなくて?」

「王都かー……」


 私は気乗りしなかった。

 王都へ行くためには船に乗らないといけないし、女の一人旅はさすがに危険だ。


「付き合ってられないわね。ごきげんよう」


 愛想を尽かしたアニーは、踵を返して帰ってしまった。

 私をとり残して……。

 彼女の姿が、だんだんと小さくなっていく。


「わーん! ひどいよアニー!」





 結局、トラックは見つからなかった。

 もう諦めてしまおうか……。

 異世界に行かなくても、小説は書ける。

 剣と魔法のワクワクするような冒険が無くても、私には想像力があるじゃないか。そう自分に言い聞かせた。

 夕暮れ時、自分の長い影を眺めながら家に向かっていると、狭い路地から一人の少年が飛び出してきて、私とぶつかった。


「あたたた……」


 私は後ろへ尻もちをついた。

 まだ十歳くらいの少年は、膝を抱えて唸っている。


「ちょっと大丈夫?」


 彼は膝を擦りむいたようで、少し血が出ていた。

 私が手当てをしようと、ハンカチを膝に当てると、少年は私の手を振り払った。


「こんくらい平気だよ! 僕はいつか勇者になるんだぞ!」


 涙目の少年はそう言うと、立ち上がり去っていった。

 勇者か……。魔王なんて今はいないけど。


「うーん。イイ感じ」


 あの少年のように大志を抱くんだ。

 私も、いつか偉大な小説家になるの!

 そのために、トラックに轢かれたい……!





 翌朝、私は荷物をまとめると、港へ向かった。

 人よりも自然の多いこの島は、王都行きの船が週にニ便しかない。

 アニーとはしばらく会えないけど、彼女には置き手紙を残してきた。

 港に着くと、陽気な海から潮風が吹いてきた。

 いよいよ旅に出るんだと、私は拳を握りしめる。


「王都行きに乗られる方は、こちらに並んでください!」


 案内係がそう言うのを聞いて、私は船乗り場に向かった。

 すると、そこには見慣れた青いドレスの女性が立っていた。


「来ると思っていたわ。ニーナ・ロウベル」

「どうしてアニーがここに……?」


 目の前にアニーがいることが信じられなかった。

 彼女は大きなトランクを携えて、声高に言った。


「わたくしも着いて行ってあげます。貴方あなたのいない人生なんて退屈ですもの」

「いいの……?」


 私は目頭が熱くなった。

 アニーと二人で行く旅なんて、どんなに楽しいことだろう。


「わたくしじゃ、不足かしら?」


 アニーは腰に手を当てながら、堂々と言った。


「そんなことない。私より大人で、賢くて、お金持ち。それがアニー・メイテルでしょ……?」


 私にとって、アニーよりも心強い相棒なんて、いるはずがない……!

 私はアニーの目を見つめた。

 アニーも、私のことを見つめている。

 そして、お互いに近づくと、私達はその場で抱き締め合った。

 やがて船が出港すると、私達は船の甲板に立った。 

 小さくなっていく街並みに向かって、私は大きく手を振った。


「さらばだ!」





この物語は小説家になろう×アニメイトの企画参加作品です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ