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およん

「なぁ山田、そういやうさぎ小屋のやつ、どう思う?」

「……へ?」

「なんでお前が動揺してんだよ」


 笑いながら小突いてきた男――道也(みちや)にヘラヘラ笑い返す。昼休みになってもまだうさぎの話題は続いていて、ついには容疑者のリストアップまで行われているらしい。恐るべし、高校生の情報網。


「まず怪しいのがさ、1組の数人らしいんだけどさ……ほら、今の飼育委員ってアイツらじゃん? でも俺はさぁ、安西も怪しいと思うんだよなぁ」

「飼育委員かぁ……安西は、まぁ、怖いなとは思うけど……」

「だろ? なんかヤンキーみたいだしさ、親がヤクザだって噂もあるし……いっつも1人だし、なんか中学の修学旅行もさ、友達に聞いたんだけど、班のこと無視して1人で回ってたみたいだし」


 道也の目線の先を辿ると、本を読んでいる安西がいた。安西は噂だけどヤンキーで喧嘩にはめっぽう強く、大学生の男を数十人伸しただとか、牛と戦って勝っただとか――まぁとにかく、そんな変な噂がたくさんあるのだ。安西はなんとなくそんなことしない気がするけど、得体が知れないって意味では怪しい。


「それで? 山田はまた12ch見てんの? お前好きだよなぁ、それ」

「うん。なんかさ、怖いの見てたら色々忘れられるっていうか」


 スマホの画面を一旦スリープ状態にした。人と話すときにスマホがあると集中できないし、失礼だし。


「今回はどんなの見てんの?」

「ん〜? なんか、夢の話?」


 さっき見ていたのは、イッチの友人が見ていたという夢の話だった。イッチいわく、友人がある日悪夢を見て、そしてその夢を何回目かに見た後、病気で亡くなったそうだ。夢がトリガーになったのではないか、というよくあるっちゃよくある話。怖いけど大して怖くもないような……

 

「夢の話ねぇ。釣りなんじゃねぇの?」

「いやなんかさ、引っかかるんだよなぁ」


 俺も思ったことをそのまま言った道也。やっぱり釣りを疑うよな。

 でもなんだか、俺にはそう思えなかった。むしろ自分と関係ある気がして仕方なかったのだ。頭の大部分はうさぎに占められていたけど、それでも反応するくらいには。なんでかは分からないけど。


「ふぅん」


 気のせいじゃね? と思いっきり顔に書いた道也は、気になるらしい女子に話しかけられて、鼻の下を5cmくらいに伸ばして去っていった。俺はもう一度スマホの画面をつける。



58 : 1 :202○/6/15/(火)0:7:58

>>53

すみません、夢の内容を話すのを忘れていましたね。

その友人──Kいわく、最初は小さなお堂? の中みたいなところにいたそうです。しばらくして気持ち悪いものがお堂の周りをぐるぐる周り出して、その気持ち悪さに我慢ならなくなったKは思わずお堂を囲っていた障子を開けたそうです。

それと、なんだか夢の初めに、誰かに『この障子は開けるな』と言われてたそうなんですけど。

それから、障子を出たらなんか母親を名乗る女がいたみたいで。けどその女は化け物みたいで、顔がとても長かったそうです。Kはえげつない量の視線を感じて、逃げ出したそうです。ひたすら走ったところ、商店街みたいなところに出て、なんか自分の死体を見て死んだ?らしいです。続きがあるって言ってたんですけど、その続きを聞く前に死んでしまいました。


59 : 怖い話 : 202○/6/15(火)0:7:58

>>1

いやなんか怖いな


62 : 怖い話 : 202○/6/15(火)0:7:59

釣りだろ


63 : 怖い話 : 202○/6/15(火)0:7:59

それ単に悪夢見てただけなんじゃないの? あと、元から身体悪くて夢に出たとか



 羅列されている文字に目を通すが、やはり釣りだとする意見が多かった。違和感は無視してその後も読み進めるが、今のところ同じ夢を見たという人はいない。

 ふぅ、とため息をつき、今度こそ電源を切って机の中に入れた。あー、なんかモヤモヤする。言葉では言い表せないけど、めちゃくちゃモヤモヤする。何かが込み上げてくるような、そんなモヤモヤ。

 腕の中に顔を埋める。授業まであと5分くらいあるし、友達と話すには時間が足りない。またため息をついた。


「……なぁ」

「なに?」


 喉まで来てる。違和感が。でもここまで来てるのに分からない。


「なぁ、あんたさぁ」


 でも、分かってはいけない気もしている。分かったら引き戻せないような……


「なぁ、山田」


 首根っこをいきなりグッと掴まれ、グェッと声を上げた。乱暴だ。


「なんだ、よ……」


 顔を覗き込んで絶句する。言おうとしていた文句も胸にしまって、ハクハクと口を動かした。いつの間に近くに来てたんだ。足音も気配も、全くなかった。


「いやさぁ、1個言っときたいと思って」

「何をですか……?」

「なんで敬語なんだよ。別に取って食おうってんじゃねぇよ」


 やたら古風な言い回しをすると、目の前の人物――安西 大和は息を吐いた。そのまま次第に顔を近づけて、耳朶の下で小さく呟いた。


「夜道には気をつけろ。死相が出てるぞ」

「…………は?」


ワンテンポ遅れて反応する。安西はやっと手を離して腕を組んだ。細身のはずなのに、威圧感がある。噂の出処はこんな雰囲気からかもしれない。


「だから、死相が出てるぞって……」

「それって、どういう……」

「どうしたもこうしたもねぇよ。マジでそれだけ」


 安西はズカズカと席から離れていった。やっぱヤンキーなだけあって図々しいんだな。偏見だけど。

でも、それにしても……死相が出ている、ってどういうことなんだ。いたずらかもしれない。安西はそんなお茶目なことをするタイプだとは思えないけど。また本を取り出した案外インドアな安西の後ろ姿に、ひとり頭を悩ませていると首をかしげていると、次の授業の教師が来た。どうやらもうチャイムが鳴っていたらしい。慌てて数学の教科書を取り出す。


 そういや、なんかモヤモヤしてたよな。あれなんでだっけ。あ、そっか。12chだ。でも、なんで?

 ぐつぐつ考え続けていると、眠くなってきた。この先生の授業、眠いんだよな。お経みたいでさ。そう、お経……なんか、お囃子みたいな、音みたいな、音じゃないみたいな……

 視界は薄らぼんやり暗くなって、俺の意識は闇に呑まれていった。頭の端っこで、絶妙な"音"を聞きながら。

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